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フランカ・マイヤーは、男を嫌っている。

正確には、女や子供など、弱いものに暴力を振るう卑劣な男を、心の底から憎んでいるのである。彼女の父親は、まさにそう言うたぐいの男だった。 彼女の母は暴力の恐怖に従順を装いながら、彼女を育ててきた。


フランカが14歳のある日、父親はフランカを暴行しようとした。


今までの殴る蹴るの暴行ではなく、力に物を言わせて肉体関係を迫ってきたのである。 酒臭い父親の息がかかり、強靭な腕に身体を押さえつけられ、彼女はあきらめて力を抜いた。瞳からひと筋の涙がこぼれ、涙と一緒に希望も流れ落ちる。


ああ、きっとこれが普通なんだ。世の中って言うのは、こう言うものなんだ。あきらめよう。受け入れるにはつらすぎる。心を閉ざして、あきらめよう。


と。


ふいに身体が軽くなった。


閉ざした心のまま、何があったのかと、のろのろ上体を起こした彼女の瞳に、現実感のない光景が映る。母が、父親に乗りかかっていたのだ。父は驚いた表情のまま、母を見、次いで下に視線を移した。 フランカも、つられて視線を移動する。


父の腹部には真っ赤な鮮血が花咲いていた。



「お……」



何を言いたいのか自分でもわからないのだろう。戸惑った表情のまま、父の顔からは急速に色が失われてゆく。母はぴくとも動かない。やがて、父親は最後まで戸惑った表情のまま、ゆっくりと目を閉じた。恐怖の対象であったその瞳が閉じられると同時に、フランカの時間が動き出す。



「母さん!」



叫んで駆け寄ったときはすでに遅く、母親は夫を殺したという現実から逃れるためにだろう、魂を彼岸に追いやってしまっていた。フランカがいくら話しかけても、遠くに行ってしまった母の心は、決して帰ってくることはなかった。


医師から母の回復の見込みがないことを聞くと、彼女は母親を施設に預け、自分の道を歩みだす。


父親のような暴力をこの世からなくすために。


おりしもドメスティックバイオレンス対策本部が設立されたばかりの警察へ、彼女は席を求めた。


その願いは受け入れられ、フランカはDV課の一員となる。


誰よりも勤勉に働くその姿は、なにか鬼気迫るものがあった。 初めこそ彼女と交流を持とうとした同僚たちも、やがて彼女の心を開かせることをあきらめた。彼女と仕事をするのを、嫌がる者が多くなる。


彼女はマニュアルどおりの対応をせず、加害者を徹底的に追い込み、被害者に必要以上に肩入れする。


そのため一緒に組むと苦労ばかりが多く、しかも、始末書を書く羽目になることが多い。やがて彼女は、いつも同じ人間と組むことになった。


彼女と組むのを嫌がらない唯一の同僚、コンラッド・ゲーレンである。



「おい、フランカ。俺を置いて行くなよ」


「置いて行かれたくなかったら、さっさと準備しなさいよ」


「ちぇ、そう邪険にしなくてもいいじゃないか」


「言ったでしょう? 私は、あなたが大嫌いなの」


「ああ、何回も聞いたよ。俺がって言うより、男はすべて嫌いなんだろう? だが、仕事に私情を挟んじゃいけないな」


「わかってる」



面白くなさそうな顔でぶすりとそう答えると、フランカは車に乗り込んだ。助手席に座って、じろりと同僚を見る。コンラッドは肩をすくめてため息をつくと、運転席に乗り込んだ。


腹いせに少々荒っぽく発進してやったのだが、フランカはまったく表情を変えない。


(ちぇ、相変わらず可愛くない女だ)


とハラの中で毒づきながら、コンラッドは車を現場に向けた。

 

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