第8話 腹ごしらえ
「鯖定と南蛮ね!2人とも緑眼持ちじゃないからご飯と味噌汁のおかわり自由!いっぱい食べてって!」
「おっちゃん、おかわり!」
「お前はもう5杯食ったから終わりだよ!」
「ちぇっ、ケチくせぇ。」
そう言って臍を曲げているのは右眼に綺麗な緑を宿した青年だ。
「綺麗な眼だよね。」
「そうだね。生まれつきなのかな?」
「緑眼持ちのウィズっていう種族だよ。いろんな魔法が使えるんだって。」
「魔法ね。そうなんだ。」
魔法と聞いてもなぜか大して驚きがない。
もしかしたら私の奥深くに眠っている記憶のおかげなのだろうか。
「ケチくせぇだと!?本当は3杯までのところを2杯もサービスしてやったんだぞ!」
「それは俺が魔法でおっちゃんのとこの黒猫を探してやったからじゃないか!だからサービスじゃなくて礼だろ!大体、見つけてもすぐ逃げられて毎回俺が探してるんだ。礼したくないなら逃がさない努力しろよ。」
「やっぱり美味しい!」
2人の言い合いを他所に彼女は口いっぱいに鯖の味噌煮定食を頬張っている。
私も彼女に続いてチキン南蛮を口にする。
「ん……!」
これは美味だ。ジューシーな鶏肉に少し酸味の効いた自家製タルタルソースが最高にマッチしている。
「美味しい?」
彼女は優しく微笑んでいる。
「すごく美味しいよ。」
私がそう言って皿を差し出すと、彼女は目を輝かせて嬉しそうにそれを頬張った。
「んー!!美味しい!このタルタルソース最高だね!こっちの味噌煮も美味しいから食べて!」
彼女に促されるまま鯖を口にする。
「美味しい。」
鯖は身もそうだが骨まで柔らかくて口当たりが良い。
この値段でこのボリュームと美味しさ。
これはまた素晴らしい店に出会ったものだ。
「おかわりください!」
「あいよ!」
店主が盛った3杯目の山盛りご飯を、彼女は幸せそうに頬張った。
「はあ、お腹いっぱい!」
「いや〜、姉ちゃん良い食べっぷりだね!」
「美味しいからつい!」
彼女は山盛りご飯を4杯、味噌汁を2杯おかわりしていた。
店主が言うように良い食べっぷりで、見ていて気持ちが良かった。
「ご馳走様でした!」
店を出ると、店内で言い争いをしていたウィズの青年が腹を摩りながら煙草を蒸していた。
「お腹痛いの?大丈夫?」
彼女が心配そうに青年に問うと、青年は目を丸くして咽せ返る。
「大丈夫?!」
彼女が背中をゆっくりと摩って次第に青年は落ち着いた。
顔を赤く染めて彼女から目を逸らす。
「大丈夫っす……!全然、超元気っす!」
そんな青年の腹がぐうっと鳴って、彼は更に顔を赤く染める。
「私、葵!貴方の名前は?」
「あ、アルバートっす!」
◇
「狭くてごめんね。」
「いえ!素敵なお車です!」
アルバートは彼女が出したさんぴん茶を一気に飲み干す。
「乙姫、作るよ!」
作る?
「乙姫って本当に器用!微塵切りのお手本だね!」
彼女はそう言って私が微塵切りした玉ねぎを眺める。
私がそれをひき肉やパン粉などの入ったボウルに入れると、任せて!とこね始めた。
「この位のサイズなら外でも食べやすいよね?」
「うん、良いと思うよ。」
彼女は形を整えると、手を洗ってビシッと敬礼して見せる。
「では乙姫さん、焼き焼き隊長をお願いします!」
「承知しました。」
彼女に任命され、私はそれらを焼いていく。その間に彼女はソース作りに取り掛かった。
楽しそうな彼女を見ると、自然と笑みが零れる。
それらを焼き終わり、私もソース作りに取り掛かる。
不思議とレシピに迷いは無く、手際よく進んだ。
「完成!!」
「ちっこいハンバーグがいっぱいだ!!」
アルバートはテーブルに置かれたそれらに子供の様に目を輝かせてお腹を抑える。
「近々、キッチンカーを始めようと思ってて、その試作品なの。良かったら食べてみてくれない?」
「良いんですか!?」
「私達、今お腹いっぱいだから試食してくれると嬉しい!」
「じゃあ、お言葉に甘えて......!」
アルバートはいただきますと手を合わせると、一口大のハンバーグを口にする。
「うっま!!!葵さんこれめっちゃ上手いです!!!」
定食屋で言い合いをしていた時はあまり良い印象はなかったが、礼儀正しい素直な青年のようだ。
「そのデミグラスソース、私が作ったの!1番のおすすめはこっちだよ!」
そう言って彼女が指したのは私が作ったソースだった。
アルバートは恐る恐るそのソースを付けて、ハンバーグを口にする。
「え。うま......!」
彼は次々にそのソースでハンバーグを頬張る。
「これ、マスタードですよね?めちゃくちゃに美味いです!」
「そう、世界で一番美味しいソースなの!うちの看板メニューにする予定!」
彼女はにこりと笑って私を見る。
「そうだ!販売イメージはこんな感じ!食べる場所は作れないからなるべくコンパクトにしてみた!」
彼女は棚から2種類のプラスチックカップを取り出した。
大きい方に一口サイズのハンバーグを5つ詰め、小さい方にはソースを流し込んでそれぞれ蓋をする。
「一口サイズなら外でも食べやすいですし、持ち帰りでもかさばらない!葵さん、天才です!!」
「どうかな?」
彼女の上目遣いに心臓が跳ねる。何とか平静を装わなければ。
「凄く良いアイデアだね。いつから始めようか?」
彼女はマスタードソースでハンバーグを頬張りながら嬉しそうに笑う。
「次の国からにしよう!売切れ御免って看板作らないとね!」
「先ずはメニューの看板からかな?」
「あ、確かに!」
彼女はそう言ってはにかんだ。
「……い。」
「アル君何か言った?」
「え?!あ、いえ!何も!!」
彼は顔を赤く染めて両手をぶんぶんと振った。
「そう?」
彼女は私の服の袖をきゅっと掴む。
「食べ終わったら、写真の場所に行こうね。」
「うん。」
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