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《休》E:ternal~第二の人生は記憶の旅~  作者: 宝花 遥花
愛の国 ガーネット
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第7話 予約

キッチンの横に無理やり引いた布団に横になると、彼女が枕元に座って私の頭をそっと撫で始める。

「……傍にいるからね……。」

彼女は眠たそうに目を擦る。


「乙姫……。」

彼女の手の動きは次第にゆっくりになり、しばらくすると手がパタンと下に落ちた。彼女は座ったまま、すやすやと寝息を立てている。

私は彼女を隣に寝かせると、そっと毛布を掛けた。


私の記憶では彼女と出会って間も無い。

それなのにどうしてこうも愛おしいのか。

その答えはきっと私の失った記憶の中にあるのだろう。

しっかりしている一方で手を繋ぎたがったり、肩にもたれてきたり、甘えたな一面もある。

そういう所も本当に魅力的だと感じる。

前の私は彼女の魅力をもっと知っているのだろうな。

「本当に嫌になるよ。」


頭に何かが優しく触れる。

ゆっくり目を開けると、目の前には彼女が居た。

どうやら私の頭に触れていたのは昨晩同様、彼女の手らしい。

「おはよう。」

「......おはよう。」

私はいつの間にか眠っていたようだ。

「まだ5時位だから、もう少し寝てても大丈夫だよ。」

彼女はそう言って私の頭を撫で続けた。私は再び目を閉じる。


次に目を開けた時には隣に彼女は居らず、キッチンからは良い匂いがしていた。

「おはよう!」

キッチンの彼女はそう言ってにこりと微笑んだ。

「もうちょっとで出来るから待ってて!」

私はソファーに座ってエプロン姿の彼女をじっと見つめる。

この構図はアパートに住んでいた時とそう変わらない。

「やっぱり向日葵が似合うね。」

「え?何か言った?」

「ううん。何でもない。」

「そう?ご飯出来たから食べよう!」

そう言って彼女はオムレツを皿に盛り、ケチャップを構える。

「乙姫のケチャップ、私がかけても良い?」

「勿論。」

「やったあ!じゃあ、目瞑って!」

私は言われるがまま目を閉じて、その時を待つ。

見なくても彼女の嬉しそうな顔が容易に想像出来る。

少しすると、額に柔らかい感触があった。

この感触は出発の時と同じ。つまり彼女の唇だ。

「目、開けて良いよ。」

目を開けると、彼女は顔を赤く染めていた。

目線を下げると、中心に真っ赤なハートマークが入ったオムレツ。

もう一度彼女を見ると、赤く染った顔を手で覆い隠していた。

「ふふふ。」

思わず笑ってしまう。

彼女は驚いたように指の隙間から私を見つめた。

「私もケチャップをかけていいかな?」

彼女のオムレツを指さすと、彼女は顔の前から手を退けて嬉しそうに目を輝かせる。

「目、瞑って。」

彼女はぎゅっと目を瞑り、嬉しそうに口元を緩ませる。

私はそれを描き終えてから彼女を見る。

目を瞑っているのに彼女のそれがキラキラと輝いていることが分かる。

長いまつ毛に陶器のような肌。

何時間でも見ていられる。

「乙姫……?」

「え?あ、ごめん。もう目を開けて大丈夫だよ。」

つい彼女に見とれてしまった。

彼女はゆっくりと目を開けると、満面の笑みを見せてくれた。

向日葵ひまわりだ!乙姫って本当に器用だね!」

「朝ご飯作ってくれてありがとう。」

食事が始まっても彼女はなかなかオムレツに手を付けないでじっと見つめていた。

「どうした?」

「勿体なくて食べられないの......。」

「また描くよ。」

私がそう言うと、彼女は何故か寂しそうに笑う。

飛び跳ねて喜ぶまでは行かなくてもいつもの様に眩しい笑顔を向けてくれると思っていた。

それなのに何故、彼女はそんなにも寂しそうな顔をしているのだろう。


「ごめん、そういう事では無かったかな?」

彼女ははっとした表情で両手をぶんぶんと振る。

「そんな事ないよ!また描いてくれたら凄く嬉しい。嬉しいに決まってるよ。」

「そっか。」


朝食を済ませると、私達は愛の泉に向かって出発した。

「お昼には近くに着きそうだね。」

「うん!愛の泉の近くにすっごく美味しい定食屋さんがあるから、お昼はそこにしよう!」

さっきまでは浮かない表情をしたいた彼女だが、今は嬉しそうだ。

「良かった。」

「乙姫、定食の気分だったんだ!良かった!」

そういう事にしておこう。


2時間程車を走らせ、私達は愛の泉がある西の街・シンプリーに到着した。

駐車場に車を停めて、彼女おすすめの定食屋に向かう。

中央のローズと違って落ち着いた印象の街だ。

街を歩く住人達は気品に溢れている。

「乙姫……。」

見ると彼女が顔を赤く染めていた。

「どうした?」

「予約……。」

「え?」

「予約したもん。」

彼女はそう言って私に手を差し出した。

私の心臓が騒ぎ始める。彼女は私をじっと見つめてその時を待っている。

その上目遣いがまた__。

「……駄目?」

「駄目な訳ない!ただ.....手汗、凄いかも......。」

私はそう言って彼女の手をそっと握る。

彼女は更に顔を赤く染めてはにかんだ。


駐車場から10分程歩くと、気品溢れる街と言うより下町のような雰囲気になった。

商店街の一角で一際賑わっているのが目的地の定食屋のである。

「乙姫、何食べる?」

定食は5種類のスタンダードメニューと日替わりが1種類用意されている。

どれもボリューム満点で値段も良心的だ。

「うーん、迷うね。おすすめはある?」

「おすすめはサバの味噌煮定食!うちで一番の人気メニューね!」

彼女に質問したつもりだったのだが、男性が得意げにそう答えてにこりと笑う。きっと店主だな。

「私、それにします!乙姫、ゆっくりで大丈夫だからね。」

「何か他に気になるものはある?」

「うーん、チキン南蛮も捨てがたい!」

「お、姉ちゃんお目が高い!そのタルタルソースは自家製なんだ!おすすめだよ!」

「そう言われると悩んじゃうなぁ。」

彼女は眉間に皺を寄せてメニューを見比べる。

「じゃあ私がチキン南蛮を頼むよ。シェアしよう。」

「うん!」

彼女は嬉しそうに目を輝かせてにっこりと笑った。

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