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《休》E:ternal~第二の人生は記憶の旅~  作者: 宝花 遥花
愛の国 ガーネット
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第6話 愛の国

私達が住むガーネットは国土約37万8,000平方キロメートルに1億2000万人程が暮らす、通称・愛の国。

私達が目指しているのはアルバムの1枚目の写真、ガーネットの西部に位置する『愛の泉』だ。

泉の水を口にすると、恋が叶うとか愛が深まるとか色々言われているらしい。

車を走らせる事2時間。運転席の彼女を見ると少し疲れた顔をしている。

「少し休憩しよう。」

私がそう声をかけると、彼女はにこりと微笑んだ。


ガーネット中央都市・ローズ。

立ち並ぶ店の壁、地面のタイル。同じ愛の国と言っても私たちが住んでいた田舎とは大違いで情熱的な赤を多く取り入れた華やかな街だ。

とりあえず彼女の疲れを取る事だ。車中で少しゆっくり……、そう思ったのだが、何やら熱い視線を感じる。

見ると、彼女がキラキラした目で私をじっと見ていた。

「どうした?」

彼女は嬉しそうに笑う。


「本当に街中真っ赤っかだね。あ!あれ美味しそう!」

真っ赤な大地に咲く一輪の向日葵。

当然ながら、とても美しい。

「レストランに入って何か食べようか。」

「うん!」

彼女はおすすめの店に案内してくれた。

そこは洒落た洋食屋で客人は多いが比較的落ち着いた場所だ。

「ここのナポリタンはね、自家製のケチャップを使っててすっごく美味しいの!」

彼女にそう言われて頼んだナポリタン。確かに絶品だ。

彼女はペロリと平らげてにこにこと私を見る。

「もっと食べる?」

彼女はハッとした表情で首を横に振る。

「ごめんね!そんなつもり無かったの!」

「わかっているよ。美味しそうに食べていたからもう少しどうかなと思って。」

「……良いの?」

「いくらでも。」

それをフォークにとって差し出すと、彼女は照れたように顔を赤く染める。

そこで気が付いた。

私は彼女に食べさせようと、つまりあーんしようとしているでは無いか。

「ご、ごめん。」

顔が熱くなる。彼女を見ることが出来ない。


「初々しいわね〜。」

顔をあげると、ウエイトレスの姿があった。

「お水はいかがですか?」

「え......あ、お願いします。」

「ご旅行かしら?」

「はい。」

ウエイトレスは水を汲み終えると、一輪の真っ赤な薔薇を取り出して、テーブルの花瓶に入れる。

「ここは愛の国。普段言えない事も思い切って伝えてみたら良いわ。」


夜になると雰囲気がガラリと変わるのもこの街の特徴らしい。

淡いピンクの照明の下を歩く大人達。

その瞳には欲望が宿っている。

「お姉さん、一晩どう?」

そう言って一人の見知らぬ金髪ボブの女性が私に胸を押し付けてくる。

「あら、私は特別に安くしておくわ。お姉さんタイプだから。」

金髪ボブに困っていたら次は黒髪ロングの女性だ。

両腕を取られ、動きを封じられる。

「乙姫……」

見ると彼女は今にも泣き出してしまいそうだった。

私は慌てて2人を振り解く。

「ちょっと誰このおばさん?」

「こんなおばさんほっといて私と遊ぼうよ。」

「寄るな……」

「え?」


「私に近寄るな。」


「は?!何よ……!そっちが私のこと見てきたんじゃない!」

「最低!よく見たら全然タイプじゃないし!」

2人は文句を言いながら去って行った。

それでも彼女は浮かない顔をしている。

「2人はもう行ったよ。」

「他にもまだいっぱい居るもん。」

周りを見ると、彼らは誘惑するように私達を見ている。

先程の2人もそうだが、化粧や服装で大人っぽく見せているだけで、私達より歳は下だろう。下手すれば10代前半の子らも混じっていそうだ。

大人達は彼らを連れて夜の街へと消えて行く。

愛とは何も純愛だけでは無いと言う事だ。


「車に戻ろう。」

そう言って彼女の頭を撫でると、私に腕を絡ませる。

「離れちゃ駄目。」


車に戻った後も彼女は私の傍を離れようとしなかった。

テレビを見ようと座ればぴたりと横に座り、飲み物を取ろうと立つと一緒に立ち上がる。

そんな姿が愛おしかった。


『ここは愛の国。普段言えない事も思い切って伝えてみたら良いわ。』


伝える。

そうは言っても私はまだ彼女の事を__。

手が包まれる。

彼女の手だ。温かくて心地良い。

彼女が私の肩にもたれれば、ほのかな柑橘系の香りが鼻をくすぐる。

いつも楽しそうに笑う彼女。

けれど今は……。

震える手を彼女の頬に伸ばす。触れると彼女は驚いたように私を見る。

「さっきは嫌な思いをさせてごめん。」

悲しい顔をさせてごめん。

笑顔にできなくてごめん。

ごめん。

ごめん。

頬から手を離そうとすると、彼女がそれを優しく握る。

私はその温かくて美しい手を握り返す。

心臓がうるさい。だが不思議と手の震えは止まって、言葉を交わさなくても心地良かった。


暫くすると彼女は眠たそうに首を上下させる。

「そろそろ休もう。」

私がそう言うと、彼女は私の手を強く握る。

「明日も手、繋いでくれる?」

「予約制は更に緊張する……。」

「……駄目?」

「駄目な訳ないよ。」

「……私、下で寝るね。」

「運転で疲れてるんだからしっかり休まないと。私が下で寝るから。」

「駄目……」

彼女はそう言って2階に上がろうとはしなかった。

「じゃあ交互にしよう。今日は私が下で寝る。」

「……なでなでしても良い?」

「え?」

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