第20話 再来
コックの機嫌を損ねてしまったものの、無事、夕食を済ませた私たちはキッチンカーの買い出しに向かった。
「い、いらっしゃいませ!」
レジは2名体制で、1人男の子の方はとても緊張しているようだ。
見ると胸元には「けんしゅうちゅう」と書かれている。
「ほら、次は?」
「あ!えっと......お、お預かりします!」
男の子はオドオドしながらも、確実に一点一点レジに通していった。
「お、お会計がえっと......7000円です!」
「良く見て。0が4つあるでしょ?」
「あ!ごめんなさい、70000円です!」
私がお金を出すと、男の子はぺこりと頭を下げてからレジを操作する。
「ありがとうございました!」
男の子が元気よくそういうと、ペアの女の子がそっと頭を撫でる。
「ほら、落ち着いてやればできるでしょ?」
「うん!」
なんだかこの女の子はそこらの大人よりしっかりしている気がするな。
買い出しを済ませた私達は明日、キッチンカーを運営する場所の近くまで移動する事にした。
そこはビルが多く立ち並ぶオフィス街。
ここなら昼時に客が取れそうだな。
「そういえば、この国ではどこを観光しようか?」
「どうしようね……」
いつもなら嬉しそうに場所を決める彼女だが、なんだか元気が無い。
そういえば、この国へ入国する前から少し様子がおかしかったな。
「ごめんね。」
「え?」
「今日は下で眠るよ。おやすみ。」
私は何も覚えていない。彼女がこの国に来て、何を思うのか想像すらできない。どうしたら笑顔にできるかわからない。
だからただ謝ることしかできないんだ。
「はあ……」
「なんだ、ため息なんかついて。」
ロハンがそう言って、私の枕元にやってくる。
「当たり前に話しかけてこないでくれる?」
「今日なら問いに答えてやっても良いと思っていたが、そう言うことならやめておこう。」
「目的は何?」
「目的か、私は故郷に帰りたいだけさ。」
「故郷?」
次の瞬間、ロハンの右目から青い光が出たと思ったらその瞳が緑色に変わる。
「緑眼持ち……?」
緑眼持ち、つまり魔法の国・スフェーン出身なのか?
あの国は動物まで魔法を使うのか?
「人間しか魔法が使えないなんて言うのは、主らの驕りだ。主らは我々を愛でているようで見下している。」
「主語が大きいと思うよ。それぞれ考えがある。」
「まあ、確かにぱふみはそうでは無さそうだ。」
「ぱふみ?」
「乙姫の彼女の事さ。おっぱいがぱふぱ……」
尻尾を掴もうと伸ばした手を、ロハンはさっと避ける。
「尻尾はやめてくれと言っただろう。」
「この、ゲス猫!彼女にはちゃんと名前があるだろ。」
「それを呼ぶのはもう少し先になりそうだがな。」
ロハンはそう言ってニヤリと笑うと、瞳の色を青く戻した。
翌日、キッチンカーを出して、彼女が呼び込みをかけ始めたのだが……。
通行人達はこちらを見はするが、警戒しているのか寄り付かない。
大人には不信感があるのだろうか。
あのゲス猫の治療費も払ったわけだから、ここで稼いでおきたいが一筋縄では行かなそうだ。
結局その日は旅人に少し売れただけで売り上げ目標には遠く及ばなかった。
「乙姫、ごめんね!ぜんぜん呼び込みできなかった!」
「そんな事ないよ。」
彼女の呼び込みは完璧だった。
まさか子ども達の警戒心がここまで強いとは思っていなかった。
子どもはハンバーグが好きだろうから売れるなんて漠然と考えていたのだ。
この国をもっと知る必要がありそうだ。
「気になることもあるしね。」
「やあやあ、お嬢さん達。昨日ぶりですな。」
多分紳士を装ってやってきたのはケニー。
そう、ご飯をご馳走するという約束を守りにきたのだ。
「今日は私の友人の弟子のレストランにご案内いたします。」
「ここは……」
そこは昨日コックを不機嫌にさせてしまった店だった。
「アマンダ〜、愛しのケニーさんが来たぞ〜!」
ケニーが入店してそう言うと、奥からアマンダが走ってきた。
「ケニー!と……あ!!昨日の!!!」
「こんにちは。」
挨拶したのだが、アマンダはふんと顔を背けてしまった。
「昨日のって、なんだこの店知ってたのかよ!」
「知ってたのかって、よくケニーに連れてこられてたよ!」
「そうだったっけ??」
「アルトの店だー行くぞー!!って毎日のように誰か引き連れてきてたでしょ?ケニーは忘れっぽいよね。」
「でも昨日来たってことは美味かったから来たんだろ?」
「その通り!味が変わってなくて感動しちゃった!」
2人が懐かしトークに花を咲かせている間、アマンダは私を睨みつける。
「昨日はごめんね。その……見下しているつもりは全くないんだ。」
「この国で子どもを見下すなんて最低!外に出てそこらの大人達と一緒になっちゃったんだ!」
「え?」
「こら、アマンダ!またお客さまに失礼を……って、あなた達は昨日の。」
「ルー、久しぶりだな。」
「ケニー!お2人はお友達だったの?」
「そうだ。アルトもこの2人をよく知ってるぞ。」
「え?!お兄ちゃんも??」
アマンダは目を輝かせた。
読んでいただき、ありがとうございます!
「面白い!」「次も読みたい!」と思った方は評価とブックマークをお願いします!
皆様の応援が執筆の糧となります!
今後ともよろしくお願いいたします。