ステータス
「さて、まずはこの世界の情報をもっと調べねえと...。」
そう独り言を呟きつつ都合よく見つけた図書館で文献を漁る。歴史などを見れば大体のことは分かるだろう。そうこう考えているうちに分厚い信憑性のありそうな書物を見つけ、ただひたすらに読み進めていく。そしてある程度の事は分かった気がする。
「ふーん、そうか...とはならんやろ!なんやねん固有鏡スキルって。これもう異世界のネタ枠だろ...。多分この世界ハズレだよ。」
その可笑しさは呆れたように独りでツッコミを入れてしまう程だ。つまり相当おかしい世界である。かと言って現実世界に帰るわけにもいかない。時間の速さが不確定であり、既に現実世界で何日経過しているかも分からないため、帰っても仕事に戻れる保証はない。諦めてこの奇妙な鏡像世界へと適合するほかないと悟った。
「そういえば、この世界にもステータスって概念はあるよな。もちろん確認方法は知らん。誰か聞きやすそうなやつがいれば助かるんだが...」
もちろんいるはずもなかった。この世界からすれば彼こそが異端であり、周囲の人々からは避けられているような気がした。いや、実際に現在進行形で避けられているところだ。周囲は魔法使いを想起させるようなローブを着用しているのに対し、発雄はふわふわなパジャマである。言うまでもなく異端だ。
「仕方ないからここは強行突破だ。まず適当に声をかけるか...。」
眼鏡をつけた長身の男に声をかけた。もちろん相手は警戒しながら恐る恐るステータスの確認方法を言うと、すぐにどこかへ去ってしまった。どうやら特定の呪文を唱えるだけらしい。とりあえずステータスを確認する。
「プリントステータス!」
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name:発雄
hp :220
mp :80
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「へぇ、結構見やすい。」
だが一つだけ問題がある。このステータスが高いのか低いのかが全く分からない。
「また聞くしかねえか...。あ、ちょっと今聞きたいことあるんだけど良いか?ステータスってどれくらいが相場なんだ?」
そう言って警戒心の薄そうな子供に尋ねる。
「え、お兄さん知らないの!?...えーとね、大人なら大体mpは120でhpは260くらいかな~。」
「そうかい、ありがとう。じゃあな。」
とだけ言って町から少し離れた平原へ向かうことにした。
「よし、誰も見てないよな。プリントスキル!」
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skill:
爆散鏡(mp -20)
・・・鏡が爆散する
爆散 (mp -4)
・・・小石程度の質量の物体を爆散させる
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「は?なんなんこれ。絶対使えねぇー!...とりあえずやってみるか。確かこれも呪文で発動できるんだったよな。爆散鏡!」
発雄が手持ち鏡を取り出し呪文を唱えた瞬間、手持ち鏡がパリンという音とともに割れ、破片が辺りに飛び散る。期待とは異なり、しばらくの間ただ沈黙していた。
「え、ショボッ...。」
頬に少し破片が当たってぽたぽたと血が出ている程度で、それは想像よりもシュールな絵面だった。もう一度唱えてみても発動しない。あれは何だったんだと心の声が少し漏れる。
「まあいい、次へ行こうか。...爆散!」
その瞬間、周囲にあった小石が一つだけバチッという音を立てて発雄の前方へと飛んで行った。どうやらまあまあ速い事と、使い道が全くない事だけは分かった。
「あぁ、この世界にどうやら慈悲深い神とやらは居ないのだろうな。もう終わりだ...。」