神様のはかりごと
「そろそろ……減らさないとね」
掠れた声でボソボソと喋るのは、第五位階『隠匿』の神アウル。
秘密の部屋にはもう一神、床に広げた世界地図を踏んづけて遊ぶ。
「決めたぞ、第五位階の国はまとめて処刑だぁ! 処刑処刑処刑処刑処刑ぃぃ!」
「愚問だな、究極的に考えて『協聖派』第三位階の国を狙うのが快楽的な最善だろう」
「そんなぁ殺したくないよぉ〜平和が一番だよ☆」
神はひとり、コロコロと神格を変えながら地図の上を舞う。
「で、君はどうなの……ゼルミア」
舞踊の途中でピタと止まり、第二位階『転変』の神ゼルミアが首を回した。
そうして首だけが回り続けて、そのまま話し始めた。
「楽しいねぇ、貴様は退屈だ! 遊び心のラの字も無い!」
「……今年は0でも、良いんだよ。毎年やるなんて決まり、ないんだからさ」
「それはないね、それ以下もそれ以上もそれ以外もないね。もっとさ───変えてかないと」
ゼルミアはぶっきらぼうに赤旗を持ち上げ、ある一点に刺した。
「『神聖教団』に現実を、『正射聖神』に神罰を!! 以上だァ……きゃぴ♡」
また神格を変え出したかと思えば、突然倒れて寝てしまった。何の変哲もない、青年の寝顔だ。
秘密の部屋は次第に、暗闇に呑まれていく。
「……ここか、ふぅん」
口元を隠す仮面、目元を隠す白髪、白髪を隠す頭巾、隠匿の神は闇を広げていく。
「『天秤は、常に水平に。位階で縛り、均衡を保て』……全ては創造神の、御心のままに」
自分以外は闇の中、仮面をずらして天を仰ぐ。
「ごめんね───アルーニヤ」
全ては呑まれて、隠された。
◆◇◆
「お前ら着いたぜ、アルニーヤの首都……ホルンだ」
緞帳───舞台に降ろされた幕のような、真紅のカーテンは開かれる。
暗い馬車に光は満たされ、眠る二人も朝を迎える。
忘れたくとも忘れられない───最悪な一日の、始まりだ。