表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

正射聖神



 『riA』───初代『聖霊君主』リアの血を色濃く受け継ぎ、彼の能力チカラの一端を授かった者たちのこと。自然と刻まれる聖痕せいこんが呼称の由来だ。

 聖霊であっても『riA』を授かるケースは極めて珍しく、劣等種の人間に至っては……存在しないとされていた。

 加えて聖霊は『女性しか誕生しない』『親子に血の繋がりはない』などの種族的欠陥(けっかん)を抱えている為、意図的に『riA』を産み出すことは不可能である。


 ではもし、そんな世界で人間の男が『riA』を授かったならば……

───その男の精子は、『聖子』と呼ぶに相応しいだろうか?


「僕の『聖子』が欲しいだろォ!! 僕の『聖槍チンチン』にひざまずけよ!!」 


 勝ち誇って、にへらと?



◆◇◆



 その日の夕食はとりあえず、ツバメと食べることとなった。


 真ん中からフランスパンにむしゃぶりつくのは、コジ。ハムスターのようにカジカジしながら食べ進めていく。

 ツバメは「信じられない……」と呟いて、小さくかじる。


「あっ、美味しい。でも高そう……」

「金貨500枚だぜ」

「!?!? ごご、ごひゃくぅ!?」

「ママぁ、パン折れたよぉ。べちょべちょ〜」


 すっかり毒気の抜けたコジは、トマトスープにフランスパンをひたして遊ぶ。

 女は相槌あいづちを打つかわりにコジの頭を適当に撫でて、「あっ」と何かを思い出した。


「コジ、父親パパだ。パパパパ」

「パパ? パパ!」

「おう、パパパパ」


 二人で「パパぁ?」「パパパパ!」なんて、遊び始めてゲシュタルト。いい加減ツバメも我慢ならない。


「……ちょっと! 何なんですか!?」

「あ゛? なにって、パパだよ」

「パパパパ!」

「だぁ!かぁ!らァぁぁ! もうッ!!怒りますよッ!!」


……まだまだイジれそうだが、説明してやることにした。



◆◇◆



「ようは『父親探し』をしてる、ってことでいいですかぁもう……」

「ツバメちゃん(、、、)にはちとキツかったか。ギヒヒッ」


 父親を『食べる』ために、生きる。ある意味少女(ツバメ)とは正反対の生き方だ。


「んでコジ、父親の名前は知らないんだな?」

「……ママ、知らんぷりしたから」


 コジが生まれる前に、父親パパは失踪したらしい。

 女は「じゃあやっぱりアイツしかいねぇな」とつぶやき、赤い髪が殺気ヤルキでざわつく。


「昔とは違って、今は『riA』持ちの人間が2ケタはいるんだが───そいつら全員が異母兄弟、父親が同じなんだわ」

「……え?」

「───『正射聖神』、自称カミサマの人間クズ強姦魔コジのパパさ」


 精子を『聖子』と呼び、射精を『射聖』と呼び、性交を『聖行』と呼ぶ。

 自らが遺伝子の頂点であり、自分より優れた肉棒は無いとのたまう。

 今まで犯して来た数は、とうに万を超えている。


「笑えねぇのがヤられた方さ、絶対に赤ん坊をろせねぇ。ヤツの『聖子せいし』は子宮そのものを作り変える。堕ろそうもんなら、母親の命までバイバイよ」


 女は首を()っ切るジェスチャーをした。それを見たコジが真似して、おぇーと舌を出す。


「……じゃあ、『riA』を産むしかないんですか?」

「いや、多くの場合───産むより先に子宮が破裂する。『riA』の血が持つエネルギーに耐えきれず、赤ん坊が腹ん中で爆発すんだ。そんで死ぬ、母親と一緒にな」


 その死に様は酷く、むごく、けがれて───


「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 女の淡々(たんたん)とした描写せつめいさえぎるように、ツバメが限界を訴えた。

 コジは笑顔でトマトスープを啜る。トマトスープには、千切れた欠片パンが浮かぶ。


人間ヒトの命を何とも思わねぇ、ってとこだけはカミサマと一緒だな」

「何でそんな奴が……野放しにされてるんですかッ!?」


 正義のツバメはお怒りだ。女は好物のガーリックトーストをかじり、口元を抑えて笑う。


「くふっ……答えは単純シンプルだ、守ってる奴らがいる。───無詠唱の『riA』、『無詠唱ムルアリア』を探求する、『神聖教団グウィリア』って奴らだ」


 『無詠唱ムルアリア』、一言で言えば───思っただけで願いが叶う力だ。


 魔術とは『世界樹』へ願いを告げ、その願いを『世界樹』に叶えてもらう行為である。当然無料(タダ)ではない。世界樹に願いを伝えるには、魔素の消費が必要不可欠だ。


 だが『無詠唱ムルアリア』は願いを告げずとも、世界樹が願いを勝手に(、、、)み取って叶えてくれる───魔素の消費が不要なのだ。つまり、世界樹が『願いを叶える』機能を維持出来る限り……


「際限なく願いは叶う、最強の『riA』にして初代リア様しか持ち得なかったイカれ能力チートだぜ。……世界の均衡きんこうを崩すほどのな」


 コジは反応を示さない、自分には関係のない話だと思っているのだろうか。


「だからってあの(、、)神聖教団グウィリアが悪事を働いてるなんて……」

外面そとづらだけは一丁前だかんな。『神聖救護院』とか『神聖商会』とか、いい商売してやがる」


 ツバメは納得できず、半信半疑。『神聖救護院』の薬水ポーションには何度もお世話になったし、『神聖商会』の魔術教本で術塊ルーンの使い方も学んだのだ。

 黒い噂がないこともないが……彼らを心から信用しているツバメにとって、女の話はただの陰謀論にすぎなかった。───このときまでは。


「ねぇパパは? パパは?」

「おう、そうだな。パパだパパ」


 女はパパパパ言いながら、大きなあくびをかました。


「ぱぁあ……コジパパは強姦ふきょうでお忙しいからな、神聖教団グウィリアの支部にでも行こーぜ。明日、いいな?」

「うん! パパに、会いたいな」


 目をトロンとさせてコジは子供を演じる。口の周りはトマトスープでベットベトだ、汚い。


「つーことで明日は街行くから、ツバメはこれからどうするか考えとけよー」


 女はトマトスープが少し残った鍋を持ち上げて、「うめぇー」と食べながら川の方へと消えていった。


 コジとツバメは二人きりに。すかさず口を開いたのは、コジだった。


「……ツバメはさ、死にたくないよね?」

「え? ま、まぁ……」

「ならママの言う通りに、しろよ?」


 少女バカでも分かる、おどしだ。幼さが抜けた孤児の顔には狂気がギットリと浮かぶ。


「……元々、そうするつもりよ」


 少女はすでに結論を出していた。殺せずとも、殺さないなんて選択肢は存在しない。

 

(それに……無かったことにするもんか。この感情を、今の自分を……)

 

「ふひっ、よかったぁ! これからよろしくね───おねぇちゃん♪」

「よろしくね……コジ」


 かくして仮初かりそめの姉弟は成立した。手はわさず、視線で殺意を確認し合った。


 孤児はにへらと、少女は包丁に手をかける。


「おーいお前らぁ、早く食器持ってこーい」

「「はーい!!」」


 仲悪なかよく、声がかぶった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ