純粋な孤児
「パパを食べるために、生きてるの」
それは将来の夢を自慢げに話す、普通の子供と似た輝き。また、にへらと歪む口元には醜悪な狂気が陰を落としている。
陰か陽か、無垢か悪魔か、救わざるべきか救うべきか。
女は瞳をさらに濁らせ、思考する。
(食人癖……じゃねぇな。そういう癖を持つ奴らは特に内臓を好んで食したはず。資料にあった死体の損傷は生首と親指だけ。美味いと知らないにしても、肉らしい肉に手を付けていないのはおかしいよな?
なら何故、父親は食べたいんだ?……ああ、そうか。───甘いからか)
孤児の口ぶりからして嘘だとは思えない、ただの人間は不味いと知っている、そう仮定すれば後は……
「なぁお前のパパにも『riA』、あるだろ?」
女は胸元のボタンを一つ外して、谷間を孤児に見せつけた。『riA』の3文字が、孤児の『riA』より大きく刻まれている。
孤児は首肯し、自らもシャツの襟をずらして白い首筋に刻まれた『riA』を晒した。
「おそろいだね、僕もパパも聖母も! うれしーなぁ」
「ん?……まぁともかく─── お前の父親が『riA』なら、オレが見つけてやれるかも知れん」
「!? ホ、ホント? 本当のホント? もう殺してニガいって、しなくていいの?」
食いついた、女は内心ほくそ笑む。
「ああそうさ! 一般人を殺す手伝いは御免被るが、父親を『食べたい』っつーならこのオレが手を貸してやる」
「……そっか、そっかぁ」
冬の風に煽られて焚き火が、孤児と女の視線を遮る。
「───だからお前も、オレに手を貸してくれ」
揺らぐ炎を貫く、真剣な眼差し。
「そっかぁ! いいよ!」
「待て待て、まだ何も………はぁ? いいのか?」
「だって、えへへぇ」
その一瞬、ほんの一瞬、孤児は無垢な笑顔を見せる。
女はあきれて真顔になるも、ギヒヒと笑い鍋の残りを掬った。
◆◇◆
食事の片付けが終わった後、「父親探しは明日からだ、オレは寝るぞ」と言い残して女は寝てしまった。表には出さないものの大分ガタが来ていたのだろう、いびきをかいてぐっすりだ。
孤児はこっそりと、魔術を使う。
「えへへっ、残念だなぁ……」
星明かりに照らせれて露わになるは、世にも奇妙な首飾り。生々しい新鮮な親指とテカテカした金貨が穴を開けられ交互に紐に通されている。その数、27。
「もう少し欲しかったなぁ……」
残念がる孤児は純粋な闇。子供には少し大きめな首飾りを掛け、五指を合わせて天に祈る。
「僕がママを殺しませんように、ママが僕を殺しませんように。ママが本当のママになりますように、僕が本当の息子になれますように」
心象の種火は轟々と燃え上がり、聖火と成りて孤独を満たす。結びつけられた無数の親指、掴むように心を包む。
「───パパと一つになれますように」
孤児の顔は、見えない。聖火は表情すらも焦がしてくれる。
祈りを終えた孤児は『いないいない』と唱え、発動した穴に首飾りを隠して、寝た。