天才剛毛ロリ童女を添えて~駄々っ子騎士、もあるよっ!
「ギャ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
屋根の上から、乳山君がオークに襲われている姿を眺める。
そう聞くと、なんだか薄情な奴に聞こえるかもしれないけれど、乳山君は現在、囮作戦の一番重要な役回りを担ってくれている。
もちろん、決して強要したりなどしていない、自主性に任せたとまでは言わないが、適材適所という奴だ。まあ乳山君の役回りだけは消去法だったけれど、それでも、彼女は私が思った以上に適任だったと言わざる負えないだろうね。本当。
「うわあ、ちーちゃん迫真!」
「うむ、あれほどまで演じきれれば、まさか罠だとは思うまい」
「いや、あれは演技じゃねーと思うぜ?」
アルマ君が手を口に当てて驚いている中、看守くんはなんだかそわそわしながらそれを見る。
私に言わせてみれば、なんだか、こんな追われている、言ってみれば特殊な経験を何度もしたことのあるような、そんなこなれた走りに見えるのだが…うむ、やはり騎士だからなのかね?
乳山君の走りに関心していると。
「あ、あれっ!? る、ルート違くないっスか!?」
乳山君は何故か事前に打ち合わせしたルートと、違うほうにかけて行ってしまった。
「そ、そうだね、あっ、あっちはマズい! 何故だ! あれほど確認したはずだというのに!!」
「いや必死なんだよ、見れば分かるだろ」
髪の毛がまかれた腕を露出させ、屋根の上から降りるアルマ君。
「わ、私、言ってくるっす!」
「頼むよアルマ君」
少し、予定と違ったが、アルマ君が修正してくれるだろう。看守くんの方を見るとうなずき、横に置いてあった、黒い筒状の魔道具を小脇に挟む。
「ギャッ、ギャアアアアアアアアアア!!」
「待てコラ!!」「ボフボフッ! いいぞっ、ブフー…逃げろ逃げろ!!」「ギャハハハハ!!!!」
小道に逃げた乳山は、多くのオークに追われ、爆走していたが、そこに呪文を唱える声が響き渡る。「≪呪縛:海溝乱視重ねノ印≫」
「グッ…アッ、なっ、なんだ!?」「ど、どうなってんだ!?」「暗い! 暗いよ!!」
唱えると同時に、オークたちは何故か歩みを止め、まるで暗い海の底でもがき苦しむように、手足を伸ばし、辺りを探っていた。
「ちーちゃん! こっちっス!」
「あ˝、ア˝ル˝マ˝く˝ん˝!!」
「うわっ、ホント迫真っすね!」
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝! 怖かっだ! 怖かっだよ˝ーー!!」
アルマはその隙に乳山を呼び戻し、合流すると、乳山は飛ぶようにアルマへ抱きつき足にすがりだす。
「大丈夫っすよ、上からちゃんと見てましたから! それに作戦もちーちゃんのおかげで上手くいってるっスから!」
「あ、あれ? なんだ、ココは明るい、戻った…」「あっ! いたぞ! やれーー!!」そしてオークたちはさっきよりも前の方に移動したとたん、正気に戻ったように、アルマたちを発見すると、またもや走って乳山達のほうに向かって来る。
「こっちっス!!」
向かう先、アルマと乳山は街の曲がり角をいくつも曲がり、オークたちはそれを鼻息を荒げながら追いかける。
そして、ある曲がり角を曲がった先には、リリーと看守がおり、特殊な大きな筒が爆発するとそこから熱風が吹き荒れ、オーク達を家の外壁と共に吹き飛ばす。
「上手くいったっスねっ」
「そうだね、こうも簡単に引っ掛かるとは…」
後ろにいたアルマ君が嬉しそうに笑いかけてくる。
これで五か所目か…。私の予想通り、オークたちは結界のなくなったバグライトへ簡単に侵入することに成功したようだった。
今回の兵は、威力偵察も兼ねた前座部隊だろうが、それにしても相当な数がいた…、それほどまでに防壁での攻撃は意味をなさなかったのだろう。だが、私たちの囮作戦は非常にうまく機能していると言っていいだろうね。これなら、街の兵は一掃できそうだ。
オークは逃げる者を追う習性があるというのは本当だったみたいだね。
看守くんが歩き出す。
「よしっ次行くぞ」
「ま、待て! その前に、役割を交換しよう、私は囮に向いてないみたいだ」
次のスポットへ行こうとした時、乳山君はそんなことを言ってきた。正直、囮役はハマっていたと思うのだけれど…。
「はあ、だが、他の役割は出来るのかね? 私が作った手打ち魔導砲は、魔力が無ければ扱えないんだけれどね」
「で、では監視をしよう、上から見ていれば良いんだな?」
乳山君は焦ったように言ってくる。
なぜ囮役を降りたいのか、私には分からなかった。
「いや、あれは君の、囮の動きにタイミングを合わせて降りてくる作戦だったからね、そのために見てただけだよ、監視という役割はない」
「ううううう――」
唸りながら、乳山君は顔を俯かせると。
「もう嫌なんだよ!! もう無理だ! 毎回毎回オークに追い掛け回されて…泣きながら死に物狂いで走って、お前たちはただ上から見てるだけ! もういやだいやだ!! もう囮は嫌なんだよォオオオ!!」
恥も外聞も投げ捨て、喚きながら裏路地の汚いだろう石畳に仰向けに寝転がり、手足をバタバタとばたつかせ駄々をこねだす乳山君。
あまりの衝撃に言葉も忘れ、ただその光景にあっけを取られていたが、アルマ君は直ぐに「ちょっ、ち、ちーちゃん! 汚いっすから起きてください!」と乳山君を起こそうとしており、看守くんは、深いため息をつきながら壁に体を預ける。
私は思う、乳山君んはこんなキャラだっただろうか? いや、二人の反応を見るに、私が分かっていなかっただけか、だとしても、大の大人が突然癇癪を起こして駄々をこねだすというのは、誰が見ても驚くだろう。私の様に絶句しても文句は言われないはずだ。というか正しい反応のはずだ。
私は何とか言葉を紡ぎだす。
「そ、そんなに嫌だったかね…、ま、まあいい、分かったよ」
「ホントか!!」
晴れやかな表情だった。
あの駄々っ子が、嘘のように晴れやかな表情を見せる。
しかし、私の言葉に嘘はなかった、乳山君の見苦しい姿を止めるためだと言えなくもないが、だがそれだけでは無かった。これは次なる<作戦>を実行するためでもあった。
「「「あそこだ!!」」」オークたちの声が響き渡ると、私たちは顔を見合わせ再び走り出す。街の角を曲がりると……「どっ、何処行きがった!? クソッ、この町の奴らは、おかしな魔法ばっかり使いやがって」オークたちは手分けして探すように、各方面に散って行ったようだった。オークたちの視点だと、角を曲がった瞬間、居なくなったと思ったのだろうね。
私たちは飛び込んだ民家の窓を開け、辺りを確認する。
事前にこういったセーフティゾーンを準備しておいて良かった。不思議なこととは案外、単純な錯覚だったりするのだよ。
…まあ、この案はアルマ君の物だけれどね。かっこつけながら心の中でつぶやいた自分に突っ込みを入れる。




