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009 お茶会?いえ飲み会です

 

「そうだ!そういえばアルバイトのお話し聞こうとしてたんです。脱線してごめんなさい!」

「いいんですよ。わたしも別にお話ししなくても構わないですし。」

「えーーーっ!そんなぁ……。あっ、いや、お話ししたくなかったら全然かまわないんです……」

「嘘ですよ。ちゃんとお話ししますよ。」

 初対面の人を前にして緊張しているはずなのに気を抜くとうっかり素が出てしまうユイナだった。




 ◆




「おじさまのところでは獣をさばくアルバイトさせてもらってるんです。」

「えっ、えーーー!すごいっ!メルリーさんすごいです!」

「すごい?別にすごくないと思いますけど。」

「すごいですよ。わたし、ウサギをさばいてお肉屋さんに持っていったんですけど、自分でさばかない方がいいって言われちゃったんです。

 下手ってわけじゃないけどわたしがさばいたのだと毛皮は安くしか売れないか引き取ってもらえないって。

 実際雑貨屋さんに毛皮を売りに行ったらそのとおりだったんです。それでそのあとは自分でさばかないでお肉屋さんで売ってるんです。」

「今日わたしがさばいたウサギ、たぶんユイナさんの獲物もありましたよ。」

「わたしの狩ったウサギ、さばいてくれたんですね。ありがとうございます!」

「そんなこと言われても、お仕事ですから……」

 メルリーがにっこり笑う。



「わたしもニームクメに来て、あのお店を見つけてお肉を売りに行きました。

 そうしたらシルベルおじさまに上手だと褒められたんです。たくさん練習した甲斐があったみたいなんです。」

「そっかぁー。練習してたんですね。わたし、自分で狩ったのを自分の家で食べるためにさばくくらいしかしてなかったんですよ。売ることもあったけど近所の人に売ってお小遣いもらう程度だったんです。」

「わたし、狩りは苦手なんです。開拓者になりたいっていうお話をしたら、狩りは苦手でもさばくのが得意なら仲間を見つけやすいんじゃないかと言われたんです。確かにその通りだなと思いました。」

「狩りが得意な種族もいますからね。そういう人と仲間になったらちょっと狩りができるくらいだと邪魔になるだけですもんね。」

「そうそう!そうなんです。それに狩りは失敗すると怪我をしたり命を落とすこともありますから徹底的に練習するのも大変なんです。」

「うんうん。失敗して冷や汗かいたこと何度もあります!」

「さばく練習なら失敗してもせいぜい切り傷くらいです。それで故郷のお肉屋さんに頼んで邪魔にならない程度に練習させてもらってたんです。」

「へー……、メルリーさん、すっごい!」

 わたしってもしかして開拓者になる覚悟が全然できてなかったんじゃない?いまさら気づいてしまうユイナだった。



「故郷で練習を繰り返していたら上手になったみたいで、そのうちさばくとお小遣いをもらえるようになったんです。それで資金が溜まって無事に旅に出られたんです。」

「能力じゃなくても何度も何度も繰り返し練習すると上手になるんですね。」

「はい!それがわかっただけでもすごく価値がありました!

 でも、おじさまのところでアルバイトさせていただいて少し自信がなくなりました……」

「なんでなんで!?お肉屋さんでアルバイト頼まれるってすごいことじゃないですか!」

「いえ、それが……おじさま、すごいんです。上手とかそういうレベルじゃなくって言葉にできないようなすごさなんです。ウサギもウルフもイノシシも。おじさまがナイフを入れると自然にさばかれていくような……そんなすごさなんです。

 傷が少ない獣はおじさまがさばくと毛皮も高く売れるんです。

 それに作業もすっごく速いんです。

 上手だって思っていた自分が恥ずかしくなっちゃいました。」

「そっかぁ。そうなんだ。おっちゃんってすごい人だったんだぁ。」

「おっちゃ?ああ、シルベルおじさまのことですね。」

 メルリーが優雅に「くすり」と笑って思わず見とれてしまう。



「そうそう、おじさま、狩りが上手だってユイナさんのこと褒めてましたよ。」

「ほんとに!ですか?」

「名前は言ってませんでしたけれどユイナさんのことだと思います。最近来るようになった若い女の子って言ってました。

 わたしがいてもその子が狩った獲物のうち一部はおじさまがさばくんですよ。一撃で倒されてると傷が少ないから毛皮が高く売れるんですって。

 ユイナさん、今日、ウサギを売ったんですよね。何羽売りました?わたし、今日はその女の子が狩った獣だって言われて2羽さばいたんです。」

「今日は……2羽……」

 ユイナが今日売ったウサギは2羽。両方ともおっちゃんのお眼鏡にはかなわずにメルリーがさばいたようだ……。




 ◆




 話が弾んで2人ともさらにおかわりを頼む。メルリーはついでに長ったらしい呪文みたいな注文をしている。

 何が来るのかと身構えていたらテーブルに届いたのはお酒のおかわりとチーズだった。

「ユイナさんはいつまでニームクメにいらっしゃるんですか?」

「決めてないです。最初は仲間が1人見つかったらすぐにセイグモルドに行って……と思ってたんですけど、仲間もなかなか見つからないし、もし見つかったとしても今の装備だと長旅は不安かなぁって思い始めてるんです。

 街道沿いには獣は出ないって聞いてはいますけど初めての場所ですからね。」

「装備は故郷で準備してこなかったんですか?」

「……(装備をそろえるってのを思いついてなかったなんて言えない)っ、わたしの故郷、かなりの田舎みたいで装備を売っているお店なんてなくて……、どうしても必要なら商人に頼んで取り寄せてもらってたんです。」

「それは高くつきますね。」

「そうなんです!それで取り寄せてみたらサイズが全然合わなくてとかあるし!だからわたしの故郷では狩りをするときもナイフを持っていくくらいで防具の装備ってしたことないんです!」

「ナイフなら少しサイズが思っていたのと違ってもいいですもんね。」

「いえ、ナイフは料理とかにも使うから商人さんがいつも持ってきてくれるんです。ダメになって買い替えることも多いですし。」

「でも、お高い……と。」

「はい……」

 メルリーはふっと冷たく笑い……





「ユイナさん。あなた、嘘をついてますね?」




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