057 街道の夜
「あーっ!きんちょーしてきたー!!」
「今から緊張してどうするんですか?」
キオヌからアフトへ向かう街道をたどっているが、沿道には町が無くなり、代わりに森が広がり始めてきた。
ニームクメへの街道なら獣の姿を探すところだが、今回は狩りは最低限にすると決めていたので森に入ることは無い。
「少し早いけどこのあたりにします?」
「そうですね。準備にも慣れてないから時間かかるかもしれないですし早めに場所を決めてしまいましょう。」
「やっぱり西の街道とは全然雰囲気が違うな。あっちはどこの休憩場所にも野宿している人がいたんだけど、こっちは人が少ないな。」
日が傾き始めると街道を行きかう人や馬車もまばらになり、ところどころに作られた休憩や野宿のために作られたと思われる広い場所も手持無沙汰に旅人を待っていた。
◆
森の中煙が立ち上ってる。
「よーし!やっくよー!」
「どうしてそんなに力が入るのかわかりません……」
「外でお料理するのってひっさしぶりなんだもんっ!」
やたらとテンションの高いユイナが、メルリーの出した簡易コンロの上に引いた網の上でセイグモルドで仕入れてきた肉と野菜を焼き始める。
じゅーーーっ
おいしそうな音が響いて5人は思わずお腹を鳴らして笑いあってしまう。
「朝、お腹すいちゃうかもしれませんが暗くなる前に済ませたいですね。」
「そうだな。暗くなるとやっぱり心細い。」
「展開で光を作ることはできますけれど、できることは全部やっておきましょう。」
少女たちが食事をしている場所の周りには五張りの一人用テントが張られている。
夕食を楽しみ、少しだけお酒を飲んでいると日が落ちてくる。揺らめく炎が少女たちの顔を赤く照らしている。
「まずはイベーナからだね。」
「はい、ごめんなさい。一番楽な役のような気がしてます。」
「次はティラでその次がユイナ、そのあとミクホ、最後がメルリーの順ですね。」
ろうそくが燃え尽きるのがだいたい1時間半くらい。燃え尽きるまでの間見張りをすることにして順序も決まった。
もちろん獣が襲ってくるなど非常事態が起こったら一人じゃなくてみんな起こして対応することになる。
「剣を抱いて眠るって、前に野宿したとき以来だな。あの時は毛布にくるまってるだけだったなぁ。」
「見張りはどうしてたんですか?」
「他のパーティーや商人も同じ場所で野宿してたから混ぜてもらって交代で見張りをした。
今思うとずいぶん楽させてもらってたなと思うな。」
「開拓者になってすぐだったんだんですよね。心細かったでしょう?」
「うーん……、心細いよりもこれから楽しみっていう方が大きかったかなぁ。
なりたくて開拓者になったわけだからな。」
「そっかぁー。そうですね。考えてみれば今って私にとって一番開拓者らしいことをしているのかもしれません。」
「わたしもー。」
「そうですよね。ユイナは旅に出てからも毎日自分の家に帰ってたんですから……」
「あっ!それっ!それ今言っちゃうのぉ!?」
「転移持ちの人って旅の感覚が私たちとは違うのかもしれませんね。」
「うーん……、やっぱりそうみたいだね。
でも、開拓者になる前は1人で村を出ることなんてなかったから、最初の日はやっぱりドキドキワクワクしてたなぁ。」
ちょっとだけお酒を飲んで、あとはお茶を飲みながら心細い炎のほとりでおしゃべりを続けて少しでも一人での見張りの時間を減らそうとしている。
「よしっ!わたし、お着替え済ませちゃいますね。」
「そっかぁ、やっぱり着替えるんだぁ。」
「ほんとに着替えるんだね。」
メルリーは空き地の隅に置いておいた個室に向かう。
「真っ暗です……灯り用意しますね。」
ミクホが座ったまま展開で光を出現させてメルリーの行く先を照らしてあげる。
「ありがとうござざいますっ!すっごく助かります!」
さっきまでトイレとして使われてた個室から少し離れたところに、無造作にもう一つの個室を開放する。
「そっちはおトイレに、こっちはお着替えに使ってくださいねっ!」
「そっかー、あれも2つあるんだぁ……」
「わたし……せいぜいいったん格納して別の場所に開放するくらいかと思ったんだけど……」
「メルリーが何を仕舞ってるのか、一度全部出してもらいたいですね。」
個室から出てきたメルリーはさすがに寝間着というわけではなく狩りにも着ていく服装だった。
「みなさん、どうしました?」
「「「「(…………)」」」」
じとーっとした目で見つめる4人だった。
◆
目が覚めると香ばしい香りが漂ってきた。
「おかーさーん、もー少し寝てていぃー?」
遠くから女の子の笑う声が聞こえてきたような気がした。気がした……、気のせいじゃなかった!!
慌ててテントを出ると
「おかーさーん」
などと口々にユイナの口真似をそろってしていた。
「…………、転移失敗した時より恥ずかしいかも……」
「ごめんなさいw。あんまりからかうと怒っちゃいますね。朝ごはんできていますよ、ユイナちゃん。」
「もーっ!からかってるじゃーん!!
ん?でもすっごくおいしそう!いいのみんな作ってくれたんでしょ?私も食べていいの??」
「これ、全部メルリーが作ってくれたんですよ。」
「わたし、最後の見張り番でろうそく半分くらいで夜が明けたんで、もう大丈夫と思ってお料理してました。」
「いいにおいがするから起きたらもうほとんどできててびっくりしたよ。」
「野宿とは思えない豪華な朝ごはんですね。」
「わたしの見張りの時間って一番短かったですからね。これからも最後の見張り番の人が、夜が明けたらご飯作るって言うのはどうですか?」
「いいね。それいい!
ただ……、私が作った時これと比べられちゃうのか……」
「あと、材料は格納してるからわたしは起きないとダメですねぇ。」
実は食事面でもかなりメルリーに依存しているパーティーだということに改めて気づかされた。
◆
「今日は次の町までだねっ!」
「すっかり目が覚めたようだな。今日も頑張ろう!」
野宿に使った道具をきれいに格納すると5人は改めて街道を歩きだす。
日の出とともに走り出したのか、あるいは夜通し走っていたのか、朝早い時間なのに馬車は時々行きかっている。
「初めての野宿、どうでした?」
「街道沿いで火も焚いてるから獣は出なかったけどやっぱり緊張したなぁ。」
「夜、中途半端な時間に起きるのは意外と平気でした。緊張してたからかもしれません。」
「私は最初の見張りだったんですけど、当番が終わってもなかなか寝付けませんでした……」
「テントから出てきたもんな。」
「あっ、それ言わないでってお願いしたのにっ!」
「ごめんごめん。でもさぁ、テントの中で眠れないとなんかさみしくなっちゃったよ。」
「今度5人で眠れるテントがあるか探してみましょうか?」
「それはそれで見張り交代の時に毎回起きちゃいそうだなぁ。
もしいいのがあったら一度試してみるのはいいかも。」
「ねぇ、今夜はワウイで泊まらない?」
「それ、わたしも言おうと思ってました……。うーん……、お風呂は持ち歩けないですかねぇ。」
「持ち歩こうと思うのがすごいです……。私も今夜はゆっくりお風呂に入りたい気分です。」
開拓者なのに快適な生活に慣れてしまっているこのパーティーは、たかが1日お風呂に入れなかっただけでも不満を感じてしまう体たらくだった。




