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051 テストと実践

 

 セイグモルドの短くて暑い夏が終わりを迎えようとしている。

 5人は毎日汗だくになって狩りをし、木を倒して資金稼ぎに没頭していた。

 しかし、もちろんおいしいものを食べに行ったり街で買い物を楽しんだり、ゆったりとお風呂に入ったり湖で水浴びをしたりという楽しみを忘れているわけではなかった。

 ユイナはウルフに果敢に立ち向かうようになっていた。怪我をすることを恐れず済む、つまりイベーナの存在が彼女をそうさせていた。

 ティラはウルフを一撃で葬り去ることが徐々に増えて行った。大木を倒すときには強化の助けも借りているが、それによって能力も成長していった。

 ミクホの展開とイベーナの回復も成長している。その理由はメルリーの存在だ。メルリーがいると連続して狩りをすることができる。3人パーティーだった頃のように獲物を持てなくなるから町に戻るということが無くなった。

 そのメルリーもメンバーが大量に屠る獣やティラが打ち倒す木を格納することで成長している。

 ティラをメインアタッカーとして、移動の足、兼サブアタッカーのユイナ、殲滅要員のミクホ、回復で支えるイベーナ、装備も獲物も大量に格納できるメルリー。

 パーティーは完成形に近づいている。

 近づいているのだが……



「……、やっぱりイノシシは……、まだちょっと……。」

「そうだな。もうちょっと修行してからじゃないと戦えないような気がする。」

「動きがわかるようになればなぁ……、ウルフも動きがわかるようになってからは怪我をすることも減ったし、慣れなきゃダメってことはわかってるんだけど……」

「すいません。私はやっぱりまだ怖いです。」

「はい……、あの時のことがまだ忘れられません。」

 危機一髪だったメルリーとイベーナはもちろん、他のメンバーもイノシシにはトラウマを抱えていた。




 ◇




「寒くなってきたら狩りはニームクメを基地にやりましょう。」

「セイグモルドに持ってくると高く売れるんですよね。」

「まだ寒さにも慣れているわけじゃないから時々はこっちでも過ごした方がいいかもって思うんだけど……」

「それはそうですね。この先開拓でどういうところに行くかわからないですから。

 もしかしたらセイグモルドより寒いところに行くこともあるかもしれません。」

 例によってお風呂に入りながら少女たちは今後について語り合っている。

 メルリーもすっかり他のメンバーに毒されたのか、お行儀悪くお湯に顔半分を突っ込んでぶくぶく泡を立てている。

「あっ!」

「ん?どうしたのメルリー??」

「あの、ちょっと思いついたかもしれません。明日の狩りで試してみたいんですけどいいですか?」




 ◇




 ニームクメ北側の狩場、ウサギが多いその狩場で5人は狩りを始めた。

「周りに人がいないときに試しましょう。」

「はい。わかりました……」

 緊張した表情のミクホがうなずく。

「ウサギで試した方がいいよね。まず1羽で……」

 森には一番慣れているユイナを主力にして全員で獲物を探す。



「いたよっ!」

 ユイナが目ざとくウサギを見つけると5人に緊張が走る。

「たぶん右側の広いところに動くから、その時狙ってみて。」

「わかりました。」

 子供のころからウサギの動きを体で覚えてるユイナが動きを予測すると、まさにその通りにウサギが移動してくる。



「展開!」



 ウサギを囲む土の壁が出現する。



「あっ、逃げられちゃった!!」

 ウサギはジャンプして壁を乗り越えて逃げてしまった。

「うーん、失敗かぁ。」

「天井も付ければ行けるかもしれないですよ。」

「できるか?」

「やってみます。」



「いたいたっ!ちょっと待ってて!よーし、今だ!」



「展開!」



 ウサギが土でできた壁に上下左右取り囲まれる。



「これで中に水を入れるんですよね。」

「はい、成功するか……失敗して当たり前ですから気楽にお願いします!」

「うーん……中が見えてないとイメージが……、展開!

 ……ごめんなさい、狙いがずれました。もう一回……展開!」

 2回目の展開では水が土の壁の中に出現したことが中にいるウサギの反応で分かった。土の壁の周りは一回目の失敗と二回目でも漏らしてしまった水で濡れている。

「どのくらいの量入ったかわからないですね……。何度くらい必要なのかわからないのは大変じゃないですか?」

「とにかくやってみます。」

「きつくなったら言ってくださいね。」

 イベーナが回復で支援することは想定内だ。

「展開」

「展開」

「展開……」

 土の壁の中にいるウサギがもがく声が聞こえてきて、さらに天井にぶつかる音が聞こえてくる。

「もう一回……展開!!!」



「このくらいでいいんじゃないでしょうか?」

「ウサギだからな、仕留めそこなってても私とユイナでも十分だし。」

「どのくらい待てばいいですかね……」

「ちょっとわからないから最初は長めに待ちましょう。」

 土の壁に閉じ込められて水の中でもがくウサギの息が絶えるのをじーっと待っている5人だった。




 ◆




「そろそろ……、行きましょうか。これがうまくいかなかったら失敗です。」

「そうだな。責任重大だ……緊張してきた……」

「ティラも失敗して当たり前なんですよ。やったこと無いことなんですから。」

「そうそう!初めてやった時はうまくいかないのが当たり前なんだよっ!」

 衝動買いしたのに予想外に大活躍している愛用の斧をティラが構える。



「強化!」



 身体能力を強化して土の壁に向かって一振りする。



 ガチーン

「うわっ!かってー!!!」

「大丈夫ですか!?」

「怪我してない???」

「おう。怪我は大丈夫だけど……、ミクホの展開で作った土ってこんなに固いんだな。そりゃぶつかったイノシシがぶっ倒れるわけだ。」

「あの頃より成長してるからもっと固くなってるかもしれません……加減した方がいいかも……」

「いや、水が漏れたら失敗するんだから固くないとな。

 ほら、ここ。傷はついたみたいだ。次は重ねがけでいくぞ!」

「無理しないでくださいね……」

「大丈夫大丈夫、イベーナの世話になるかもしれないけどそれだけの話だよ。」



 再び斧を構えて土の壁に対峙する。

「強化……、」

「強化!」



 ドグォッ!



「やった!」

「やりましたっ!」

「壊せましたね。これで獣を溺れさせて狩ることができそうですっ!」

「ティラ、すごい!すごいよっ!」

「ああ……、そうだな……、でも……」

 土の壁が割けて水があふれ出てくる中、無傷のまま溺死で屠ったはずのウサギの腹にはざっくりと斧が刺さっていた。




 ◆




「最初はウサギ1羽だけだったけど、もう少し広く囲えれば群れもこれでいけそうですね。」

「そうですね、ただ、私、水属性は苦手なんで練習しないといけないです。」

「この狩りがいい練習になるんじゃないですか?」

「そう言われてみるとそうですね。次は獣が飛び越えられないくらい高い壁にして、展開1回でどのくらい水が溜まるのか試しながらやってみたいです。」

「おー、それいい!そうだっ!わたし木登り得意だから転移でミクホのこと連れてって上から見ながらやるっていうのはどう?」

「き、木の上に転移……ですか??」

「うん。できることは子供の頃に確認済みだよっ!」

 この子はいったい何のためにそんな確認をしたのだろうか。まさか今日のこの日が訪れることをあらかじめ予知していたのだろうか……などと4人は一瞬考えてしまうが……、面白そうだからやってみた、たぶんただそれだけだろうと思いなおした。

 そしてそれは正解だった。



「それにしてもよく思いついたね。もしかしたらこんなの誰もやったこと無いかもしれないよ。」

「お風呂に入っててひらめきました。水で息ができなくなったら死んじゃいますよね。

 あと、ミクホがわたしたちを助けてくれた時の土の壁がすっごく固かったことは一生忘れませんし。

 おかげで命が助かったんですから。」

「獣を溺れさせるっていうのは私じゃ絶対思いつきませんよ。

 この方法だと閉じ込める途中で消耗しても安全に回復もできますよね。」

「ねぇ、ウサギとかウルフで何度も練習してうまくいくようだったら……」

「挑戦します?」

「そうですね、いつかはまた挑戦しないといけないですもんね。」

 誰も口には出さないが、この方法を使えばもしかするとイノシシを相手にしても安定した狩りができるようになるかもしれないと期待で胸は膨らんでる。

「でも……、この狩りって待ってる間、暇ですね。」

「確かに……近くに別の獲物がいればいいけど待ってるだけだもんね。」

 メルリーがニコッと笑って

「ちょっといいこと思いついちゃいました♪次回の狩りでは楽しみにしててくださいね。」

 今度は一体何を思いついたのか、想像ができない4人だった。




 ◇




 翌日、5人は群れが出るニームクメ西の狩場で狩りをしていた。

 狩りをしているはずだ。

 そのはずなのだが……

 お菓子を食べおしゃべりをしながらお茶を楽しんでいた。



「私たち、今狩りの最中でしたよね?」

「そうですよ?……たぶん……」

「うーん……、自信なくなってきちゃう……」

 10匹くらいのウルフの群れを見つけ、ユイナがいつものように長髪をなびかせて攪乱し、狙った場所に集まるように誘導していく。

 取り囲まれたところでミクホが土の壁で囲み、ユイナが壁の外に転移。

 ウルフだけが取り残された壁の中にミクホが水を展開し、ある程度溜まったところで天井を作りウルフの群れを完全に閉じ込めてあとは地道に水で満たしていく。

 中が見えている状態で一度水を出現させる場所のイメージがつきやすくなり、その後天井を付けても同じ場所に展開することをイメージすれば狙いが外れることは無くなった。

 生み出した水は効率よくすべてが土の壁の中に入るようになった。

 言葉にすると簡単だが、土の壁の中に水を満たすまでの間ミクホはイベーナに2回回復をしてもらっている。

「土も水も得意ではないですけど、イメージがつかめてないだけで火と原理は同じだと思うんで、慣れれば1回の水の量も増やせるだろうし、加減もできるようになると思います。

 そうなれば回復の回数も失敗も減らせるし……がんばりますね♪」

 ウルフ1匹だけなのに横着して溺死させようと、初めてウサギを溺死させたくらいの小さな土の壁を作って水を満たした時、1回の展開で水位が上がりすぎてしまい浮き上がったウルフに逃げられるという苦い経験もしていた。

「私の能力もこれで成長できるかもしれないから回復が多くても全然気にしないでください。」

「ミクホって十分すごいと思うよ。だって、この広さを囲む壁を作れて、中を水でパンパンにできるんだもん。」

 時間はかかるが大きな群れを安全に一網打尽にできる方法を見つけ上機嫌でおしゃべりしているが、その脇からはウルフの苦しむ声が間断なく聞こえてる。



「にしても……、昨日買い物に行くって1人で出かけてたけど、こんなにたくさん買ってきたの?」

 お茶セットはメルリーが当たり前のように解放して森の中に出現させた。

「いえいえ、テーブルや椅子、簡易コンロなんかは野宿する時のためにもともと持ってたんですよ。

 買ったのは燃料とお菓子くらい?

 ミクホがいると火打石もいらないってことがわかってびっくりしました。」

「そっかー……、持ってたんだぁ……、そっかぁ……」

 なんでも持ってるんだなぁとあらためて感心したり飽きれたりする4人だった。



「よーし!そろそろぶっ壊すか!

 今日は昨日よりでかくて丈夫そうだから最初から重ね掛けで行ってみるぞ!」

「「「「はい!よろしく(お願いします)っ!」」」」

「強化」

「強化……」



 ずしゃぁっ!



 土の壁が崩れた。

 中にたまっていた水が勢いよくあふれ出してくる。

 5人に直撃して少し飛ばされた上にずぶぬれになる。

「み、みなさん!大丈夫ですか!?怪我してたら治療しますっ!」

「わ、わたしは大丈夫……なんですが……」

 水を滴らせてるメルリーは呆然として

「お茶セットが全部壊れちゃいました……」

 水の流れていく先には、テーブル、椅子、コンロ、ポットその他もろもろのお茶セットの残骸が転がっていた。

「ティラ、次からは壊す場所考えようね。」

「うん……、よーくわかった。体で覚えた……」

 強化のおかげで飛ばされなかったが、その分みんなを守る盾みたいになって一番ひどい状態になっているティラはずぶ濡れで反省をしている。




 ◆




「この狩りって何て言えばいいんだろう?

 うーん、水責め?」

「水責めかぁ、もっといい言い方ないかなぁ。きれいな言葉とか……」

「えっと、溺死狩りなんてどうだ?」

「「「「もっと酷い!」」」」

 結局いい案は出てこなくて、なんとなくそのまんまの「溺死狩り」で落ち着くのであった。



 溺死狩りで仕留めたウルフを町に持って行くと

「傷一つない……どうやって仕留めたんだ?」

「い、いえ、それはちょっと運が良かったというか……」

「ふーん、まっ、いいか。そういうのは人には言えないよな。これだったら毛皮素材の専門店に持って行くと高く売れるぞ。」

「えっ、専門店なんてあるんですか!?」

「えっ、ずっとニームクメにいたのに知らないのか!?

 いっつも雑貨屋で売ってた?

 あの品質だったら嬢ちゃんたちずいぶん損をしてたかもしれないぞ。

 まぁ勉強代だと思ってそこは諦めも肝心だ。」

 肉屋さんに持って行ったらある意味買取を拒否られた。

 他の物の買取もしている雑貨屋で毛皮を売っていたが、毛皮素材の専門店を紹介してもらった。



「こ、これは……川でおぼれているところを見つけたとか?こんなにきれいなのは本当に珍しいです。どこの川か教えてください!」

「え、えっと、ちょ、ちょっとそれは……」

「うーん……教えてはもらえないですよね、わかりました。では買取をしますね。これだけになります。」

「はいっ!また来ますね!」

「こちらこそ、こんなにきれいなのではなくてもいいのでよろしくお願いします。」

 溺死させたウルフはすごい値段で売れた。普段肉屋で売るのの倍以上の値段で売れた。ウサギは斧で傷を入れてしまったので肉屋で売った方が高いくらいだったがそれもまた勉強代ということでここで売ってしまった。

 一刻も早く酒場に行って祝勝会がしたかっただけである。



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