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043 鬼がいる

土日休日20時、それ以外の日は22時に毎日更新予定です。

間違えたり忘れたりすることは残念ながらあります……

明日からの連休は20時更新します。

 


「ユイナちゃんまけないユイナちゃんつよいこユイナちゃんがんばるユイナちゃんおんなのこ……」

 ぶつぶつぶつぶつつぶやきながらセイグモルドの転移場所に向かう少女。

「ニームクメに行くときはいっつもあんな感じなんですか?」

「いえ、いつもはへらへら笑ってますよ。最初の時も……

 あっ、そういうことか。」

「なんですか?」

「初めて2人でニームクメに転移しようとしたとき失敗して……、今回5人では初めてだから緊張してるんだと思います。」

「あー……、噂のアレか……」

「伝説になったあれですね。」

「伝説の転移使い。ただし失敗転移のあれですか……」

「あれは私のせいなんです……」



 そんな話をしているとあっという間に転移場所についてしまう。

「みんな、もっと、もっとくっついて。もっともっと。」

 周りでは自分の転移を後回しにしてユイナたちの転移を見守ろうとしている人までいる。

「今日はどこだ?がんばれよー!」

「どうせ失敗するなら無移動たのむぞっ!」

「そんなこと言ったらかわいそうだろ?普通の失敗で全然かまわないからな!」



 ひどい人たちだ。



 幸い周りの声も聞こえないくらいユイナはがっちがちになっている。

「すー……、はー……、すー……、はー……」

 何度も何度も深呼吸を繰り返して……



「転移!!!」



 大きな声で叫ぶ。




 ◆




「「「(……)」」」



「ついたー!!!!」

「無事つきましたね。」

「私ニームクメは初めてだから……」

「ごめんなさい、成功したかわかりませんでした……」

「大きな町だなぁ。」

 落ち着きなくきょろきょろ周りを見回す3人と、ほっとした表情の2人。

 3人にとっては初めての町、ニームクメへの転移は成功した。



「よかったぁー。5人でここまで来れるんならなんとかやっていけそう。

 自信がついちゃった♪」

「ユイナってすごいと思うんですよ。もっともっといろいろなことができちゃいそうです。」

「メルリーがそう言ってくれるとなんかそうなんじゃないかなって思えてきちゃうな。

 いい気になると失敗しちゃうから気をつけなきゃ。」

「それがわかっているだけでもすごいですよ。」

 転移を成功させたユイナよりもメルリーの方が自慢げになっている。



「みなさん、ニームクメ初めてなんですよね。今日は町を見て回ります?」

「セイグモルドに比べれば小さいけどにぎやかで楽しい町だよ。」

「そうしましょうか。お金に困ってるわけでもありませんし。」

「なんかやたらとおいしそうなにおいがいろんなところから漂ってくるんですが……」

「朝、食べたばっかなのに……なぜか腹が減ってきた……」

 周辺からいろいろな農産物や獣、さらには魚まで集まってくるニームクメだが、調味料となる砂糖や塩の入手がセイグモルドに比べると難しい。

 調味料自体はあるが輸送の分高くなってしまうのでセイグモルドほどにはふんだんには使えない。

 そのなかで町の近くでも収穫できる香草を使うなどいろいろな工夫をしておいしくしようという努力をしているのか、おいしいものが多い町だった。

 そして、街道沿いでの大きな町ということでそれを買う旅人が間断なく訪れる町でもあった。

「「「今日はニームクメ見物!」」」

 3人の意見はまとまった。




 ◆




「こんにちはー。まだ早いですがお洗濯お願いしていいですか?

 あと、今夜から2部屋お願いしまーす。」

「メルリーちゃん!よく来てくれたね。

 …………

 溜めたねぇ……」

 メルリーが洗い物を開放するとふーっとため息をつく。

「みなさんもお洗濯お願いするといいですよ。こちらで頼むと本当に上手でいい匂いもするんです。おすすめです!」

「メルリー、わたしのも解放してもらっていい?」

「はい!」



「まだあるのかい……

 これだと明日の夕方には間に合わないかもしれないけれどいいかい?」

「えっと……、はい!大丈夫です。しばらくは滞在するので。

 いいですよね?」

 メルリーは他の4人の顔を見て代表して返事をしてくれる。

「そうそう、部屋は2人部屋と3人部屋の2部屋でお願いします。

 まだパーティーにはなってないんですよ。」

「わかったよ。まだ部屋の準備はできてないから夕方来てくれる?

 いつものようにご飯は無しでいいんだね。」

「「はい!よろしくお願いします!」」

 2人が慣れた調子で返事をするのを生暖かく見つめる3人と周りの人たちだった。




 ◆




「ごはんをつけなかった理由がよーくわかります。」

「でしょ?でしょ?わたし、初めてニームクメで泊まった時お風呂無しでご飯有りのところだったんだけど、逆が正解だったんだよー。」

「わたしたち、ニームクメに長く滞在しているんですけどまだ行ってないお店もたくさんありますよね。」

「全部行くのは無理じゃないかと思えてきた……

 セイグモルドより全然狭いのに……

 一度おいしいと思っちゃうとそこに行くことが増えちゃうんだよねぇ。

 だからなかなか他のお店に行けなくなっちゃう。」

 5人はお昼を食べてそのまま酒場に向う。場所が変わっても相変わらずのおしゃべりをしている。

 5人で入ると酒場のおねーさんが驚いた顔で出迎えてくれて、見覚えのあるお客さんから「よかったね」って言われた。

「わたしたちが初めてお話ししたのもこの酒場だったんです。まだ1年経っていないのに懐かしいなぁ。」

「そうだよね。その前に、お肉……、あっ!あとでおっちゃんのところ挨拶に行った方がいいよね。」

「そうですね。狩りをするからおじさまのところのお世話になりますからね。

 お宿に戻る前にあいさつしに行きましょう。」

「「「おっちゃん?おじさま??」」」

「わたしたち、酒場で会う前に、お肉屋さんの近くでお互いに見かけてたの。そのお肉屋さんすごく親切ですっごくさばくのがうまくて、ニームクメで獲物を売るときはそこに売ってるの。」

「わたしはアルバイトもさせてもらってたんです。すっごくお世話になってます。」

「なんかニームクメって2人の地元って感じですよね。」

「私たちにとってのセイグモルドみたいなものですね。」

「そうそう、ここって大きな町だからやっぱり狩場までは遠いのか?転移使うんだろうけど……」

「いえ、セイグモルドほど大きな町じゃないし、周りに森も多いから近いですよ。

 わたしたちが狩りをするときも転移を使わないで歩いてました。」

「ふーん。やっぱり全然違うんですね。知らない所って来てみないとわからないことだらけです。」

 3人は新しい町に興奮をし、2人は懐かしい町になんとなく落ち着きながら夕方になるまでおかわりを繰り返しておしゃべりを続けた。



「ふー、きもちいー……」

「やっぱりお風呂っていいですよね。1日の疲れが吹っ飛びます。」

「「「「疲れた??」」」」

「すいません、1日中おしゃべりしてただけですね……」

 おいしい夕食を済ませて満足した後、5人はお風呂でさらに満足を繰り返す。

「明日は狩りですね。」

「とっても楽しみにしてます♪」

「それ、プレッシャーだから。3人に比べると恥ずかしい……」

「私たちウサギ1羽ずつですからね……。恥ずかしいです……」

「狩場はどういうところなんだ?」

「1か所はウルフも出るけど群れは少ないところで、1か所はウサギがほとんどだけど群れが出るところです。」

「わたしたちは1羽ずつしか狩れないから群れが少ない北側で狩りをするのがほとんどだったよね。」

「それならその北側でよさそうですね。」

 お風呂場で明日の狩場が決まった。




 ◆




 翌朝。例によって食事を済ませてからおしゃべりをしながらピクニックに行くような気軽さで北の狩場に向かう面々なのだが……

「うー……うー……」

 昨日同様ユイナだけは不安に押しつぶされそうになっている。

「大丈夫ですよ。緊張しないでいつもどおりにやればうまくいきますよ。

 あのすばしっこいウサギをほとんど逃がさないじゃないですか。」

「メルリーに初めて会った時、3日も獣が見つかんなかったし、わたしって運が悪いから今日はうまくいかないかも……」

「うまくいくまでやればいいじゃないですか。」

「ありがとう。とにかくまず獣に会えないとどうしょうもないもんね。」



 狩場についてすぐにウサギが見つかるというようなうまい話は無いわけで、成果がないまま小一時間歩き回っている。

「なかなかいないものですね。」

「この辺だとこれが普通なんです。だから群れを倒せないわたしたちだと頑張ってもそんなにたくさんは狩れないんです。」

「それぞれ事情が違うんだな。勉強になるなぁ。」

 セイグモルド組3人も自分たちとは違う狩りに同行して知識や技術を吸収しようと貪欲だった。



「しっ、静かに!」

「「「「(……)」」」」

 ユイナが小さな声でささやくとおしゃべりをやめる。

 音を立てないようにユイナがひとりウサギの後ろに近づいていく。

「「「(あんな真剣な顔もするん(だ)(ですね))」」」

 ここまでの3人の感想はメルリーの感想と全く同じである。



「がさっ」



 物音を立ててしまうとウサギは音がしたのと反対方向に逃げ去っていく。

「転移」

 ユイナがその前に回り込む。

「転移」

「転移」

 ……

 あとはただただその繰り返し。何度目かの転移でナイフの射程にウサギをとらえると


「ザシュッ」



「よっしゃー!一撃成功!!!」

 1人が喜び1人は安心して止めていた息をふーっと吐いて、あとの3人は

「「「転移の無駄遣い!!!!」」」

 初めての狩りが終わった時の感想もメルリーと全く同じだった。




 ◆




「すごかった……」

「ええ、びっくりしました。」

「こんな狩り、本当にあるんですね。」

 3人は呆然としている。

「そっ、そうなの、かな??」

「あなたは自分が普通じゃないってことをわかるべきです……」

「はい……」

「あのぉ、回復は?」

「まだしなくていいよ。狩りの途中で回復って最近全然してないから大丈夫!」

「……そうですか……」

「次見つけたらメルリーがやってみる?」

「はい、わたしのも見てもらった方がいいですよね。」

 5人は再度森の探索に向かう。



「なんとか1羽仕留められました!」

 後ろから忍び寄って急襲というセオリー通りの狩りでウサギを仕留めようとしたが、最初の1羽には逃げられてしまい、メルリー泣きのもう1回で仕留めることができた。

「ウサギってこうやって狩るのが普通だよな。」

「そうだと思ってましたついさっきまで」

「メルリー、狩り苦手って言ってましたけどそんなことないですよ。見事でした。」

「いえ、全然です。皆さんみたいに何匹も仕留められるわけじゃないし、ユイナみたいに逃げられても仕留められるわけじゃないですもん。」

「私たちは能力があるんだからそれはしょうがないよ。もしかすると狩りが純粋に一番上手なのはメルリーかもしれない。」

「うん、わたしもそう思うんだけど……。」

 メルリーの普通の狩りをみて安心する3人をまた未経験の事態が襲う。

「次は転移無しでやってみるね。うまくできるかなぁ。」

「「「???」」」



 ユイナは次に見つけたウサギの後ろに回り込み仕留めようとするが逃げられる。

 音を立ててしまうのにも構わず後ろでまとめた長い髪をなびかせながら猛然とダッシュ、小さなモーションでナイフを投げるとウサギに突き刺さる。

「よっしゃー!うまくいったーーー!!!!」

「「「さっきのよりヤバいーー……」」」

「なんで!なんでそんなことできるんですか!?」

「ウサギってめちゃくちゃすばしっこいのになんで投げたナイフが当たるんですか!」

 ナイフが刺さって動けなくなったウサギにとどめを刺しながら

「いや、なんっていうかどこに行くかを読んでそこに投げれば当たることも多いし……」

「「「意味わかんない!!!」」」

 メルリーは静かな瞳でうんうんとうなずいてる。

「次見つけたら転移使うね。」

 次のウサギはすぐに見つかった。しかし転移を使うまでもなく後ろからの一撃で倒すことができた。

「もう1羽いっちゃおっかなー」

 調子が出てきて褒められて調子に乗ってもいるユイナはご機嫌だ。

 ウサギを見つけるとわざと音を立てて

「転移!」

「転移!」

 ……

 逃がしたうえで転移回り込むという鬼畜な狩りを始める。

「うわー……」

「鬼がいます……」



「転移っうわっ!」

 ガンッ

 という大きな音が森に響く。



「大丈夫!?」

 メルリーが慌てて駆け寄りあとの3人も続く。

 大きな樹の下にユイナがうつぶせに転がってる。

「いったー……、やっぱりケイルみたいなわけにはいかないや。行ける!って思ったら木の根っこに引っかかって……」

 転移直後にダッシュで仕留めようとしたら足を根っこに引っ掛けて盛大に転んでしまった。

「うわー!!胸当てが!!くっ、胸も、痛いかも……」

 ティラに張りぼて認定された胸当てはひび割れてしまっている。足も軽くくじいてしまった。

「せっかくだから治療させてください。」

 イベーナがユイナに手をかざす。

「治癒。」

「ありがと。恥ずかしいところを見せちゃいました……。ごめんなさい……」

「わざわざ逃がしてから狩ろうとしてましたよね。そんなことするからですよ……」

 メルリーは冷たい目でユイナをたしなめている。

 ある意味でおいしいところを持っていくのは忘れないユイナだった。




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