034 滑らない靴
少し日付が遡ったとっても寒い冬のある日のことである。
「うーん……、まずお互い一緒にいて楽しいなっ!っていうのはもちろんだけだどさぁ。」
「そうですねぇ。わたしたちだとどの能力を持っている方と仲間になるといいんでしょうか……」
「全種族っていうのが理想的らしいけど無理に決まってるよね。」
最近は寝る前に本を一緒に眺めてこれからどうするかを話し合うのが日課になっている。
「わたしたちだとウサギより強い獣は狩れないじゃないですか。だから攻撃できる種族の人は絶対必要だと思うんです。」
「そうだよねぇ。ウルフ1匹でもやられちゃうから逃げるしかないもん。」
「だとすると……」
「セニ族か」
「ツク族かぁ……」
ツク族は強化が使える。重ねがけ出来る身体強化だ。
とにかく強い。そして速い。戦闘になると基本武器を持っての1対1だが、強化を使えば敏捷性もそこそこ上乗せされるので次々と獣を屠ることもできる。そして、開拓に必要な力仕事も得意である。
ただ、もともとの身体の耐久性を大きく越えた強化はできない。できないことは無いが最悪体が壊れてしまう。ただ、強化を使って行動すれば次第に身体の耐久性も上がるので、とてつもなくアンバランスな状態になるということはまず無いらしい。
ツク族はそういう能力をもっているのでガタイがいいことが多い。見た目だけではどの種族かは全く分からないこの世界だが、ツク族だけはなんとなくわかる人も多い、そんな種族だ。
セニ族が使えるのは展開である。おそらく別の世界では「魔法」という別の言葉で説明されているのではないだろうか。空気中を漂う要素を集めて実体化する能力ということらしい。
能力を使うときに唱える言葉は展開なのだが、本によると能力の名前は「資源」らしい。水、火、土、光、風、氷、……、それらはうすーく空気中に存在している「資源」である。セニ族はそれを集めて便利に使うことができる種族だ。そんな理屈が本には書いてあった。
資源を集めて実体ができても、それは永遠に存在するわけではなくいつかまたチリとなって消えていく。
能力の強さによっても変わるが、火と風は普通は1分に満たず熟練した使い手でもせいぜい数分、光はおおよそ1時間、土と水、水から派生した氷は1日は持たない程度が上限らしい。
火は他の物に燃え移らせればそのまま燃やすことはできるし、風や光も繰り返し唱えれば継続してで続けているように見せることもできる。
めんどくさがり屋のセニ族が自分の展開で作った水だけを飲んでたら最後は干からびてしまったという笑っていいのかどうか微妙な笑い話があるらしい。
◆
2人の少女はいつものようにセイグモルドの町を散歩していた。
昨日の夜から朝にかけてまとまった雪が降り、町には雪が積もっていた。
「きれいな町ですね……雪が積もると雰囲気が変わります。」
「そうだねぇ。それはともかく……」
「掲示板、使ってみます?」
「うーん……、いい結果になったっていう話、聞かないよね。」
「失敗だったっていう話はたくさん聞かされましたね。成功した人はしゃべってくれないだけなのかもしれませんが……。報酬ありの依頼では使うと便利、受けたら儲かるって皆さんおっしゃるんですけれどね。」
セイグモルドの酒場には、掲示板が用意されている店もある。
伝えたい内容と連絡先を紙に書いて酒場に無料で掲示してもらう。内容は仲間の募集や臨時パーティーメンバーの募集、単なる待ち合わせ、一時的な作業の依頼などさまざま。報酬がある依頼もあれば無償の依頼もある。ほんとうに様々だ。
一番多いのは単なる待ち合わせや伝言だ。次がキホ族への作業依頼。その2つで8割方を占めている。残りのうちの8割から9割がキホ族以外への依頼である。
仲間の募集や臨時パーティーメンバーの募集はさらにその残りで、1枚も張られていないことの方が多いくらいだ。
2人はどうやったら仲間を見つけることができるのか、考えあぐねていた。
「わたしとメルリーが出会ったのだって偶然だったからね。やっぱりそういうのじゃないと後々うまくいかないの、きゃっ!」
珍しくユイナがかわいい悲鳴を上げる。
「よっと、大丈夫か?」
「あっ、はい!ありがとうございます!」
「滑りやすいから気を付けてね。」
「はいっ!ちょっとだけおしゃべりに集中しちゃってました!」
「おもしろい人ですね。でも、雪が積もっているときは歩くのに集中した方がいいですよ。あれ、あなたたち、もしかしてその靴……」
「「くつ???」」
滑って転びそうになったユイナは3人組の少女に助けられた。
1人は背が高いがっしりした少女。一瞬少年かと思ったが声を聞いた感じで少女と判定。
2人目はふわっとした髪に帽子をかぶっている少女。手には防寒力には定評がなさそうな白いグローブをはめている。
最後の3人目は優しそうな少女だった。その……、着こんだ毛皮の胸の部分が盛り上がってる。
メルリーも比較をすればまぁ盛り上がってはいるが誰と比較してというのはともかく比較をすればで、3人目の少女は比較とかそういうの関係なく誰が見ても……。
胸当ては特注しないと装備できないんじゃないかと思うほど。
「靴、買ってないんですか?買った方がいいですよ。」
「毛皮買ったときには無かったけど、どこで売ってるんですか?」
「靴屋に決まってるだろう!セイグモルドは靴でも有名なんだぞ!どこで買っても作ってるのはみーんなセイグモルドなんだぜ。」
「あなた、私たちが買ったときにお店で言われたことそのまま言っているだけですよね。靴屋さんわからないのなら私たちが買ったお店の場所教えますよ。
えっと、ここからだと、この道をずーっと行って、3方向に分かれる交差点があるのでそこを左に行くと……」
そのエリアは住宅地のように見えたのでユイナとメルリーはまだ行ったことがないエリアだった。
「ありがとうございます!早速行ってみます!」
「ありがとうございます。酒場とか行くことはあります?わたしたちはコミノの酒場です。中心部のところです。」
メルリーがセイグモルドでよく使っている酒場を知らせると
「私たちも中心部だけど別のとこ、カニンだ。」
「カニンですね。教えてくれたお礼に少しごちそうさせてください。今日の夕方くらいでもよろしいでしょうか?」
「もちろん!楽しみにしてますね。ごちそうは別にしなくていいですよ。靴屋さん教えただけですから。」
「はい!ありがとうございます。こちらも楽しみにしてます!!」
「カ、カニンってどの辺ですか?酒場だらけだからぜーーーったい迷う自信あります!!」
ユイナのダメ自信に思わず失笑する4人だった。
◆
「靴、安かったね。」
「安すぎてびっくりしました。大丈夫なのかと心配でしたが本当に滑りませんね。雪でも滑らない靴なんて高いのかと思ってましたけどニームクメで売ってる普通の靴より安いのもあったくらいです。」
「種類もすごかったよね!ばばーーーって、サイズもデザインもいろいろ。」
「普通の靴が逆に高いのもびっくり。」
「ねー!」
靴屋に行ったら「この時期そんな靴で歩いてちゃだめだよ!」ってものすごい勢いで怒鳴られたけれど、靴を選び始めると開拓者の役に立ちそうなアドバイスをたくさんしてくれた。
開拓者は歩くのも仕事。長く歩いても疲れにくい靴、山岳地帯やもっと厳しい雪山での靴を選ぶ時の注意点などをいくつも教えてくれた。
転移持ちとは言い出せなかった……
滑らない靴の底には、防具にも使用されることがある丈夫なサソリの殻が埋め込まれている。もちろん間違っても足裏には刺さらないように工夫がされている。
高級な素材なのに安い靴にも使われている理由は、防具などを作るときにでてしまうクズを使っているからだそうだ。
また一つ勉強になった。
「ここ。だよね。」
「うん。もういらっしゃいますかねぇ。」
「チリリーン」
「いらっしゃいませー!何名様?」
「あ、あの、待ち合わせで、えっと全部で」
「こっちこっち!ここだよー」
「あっ、いらっしゃいました!あそこの席に座ります!」
2人はすでに飲み始めてる3人に促されてテーブルにつく。
「は、はっ、はじめまして!じゃなかったー!!!さっき会ってたーー!!!!」
いきなりやらかし笑いを取るユイナだった。




