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030 お散歩

 

 ニームクメからセイグモルドへの転移には苦も無く成功した。朝飯前である。慣用句的な意味での朝飯前ではなく実際に朝ご飯を食べる前である。

「朝のセイグモルドって初めてですね。ちょっと寒いです。」

「ニームクメって暖かいところだったんだね。」

 ぶらぶらお散歩しながらおいしい朝ご飯が食べられそうなお店を探して、よさげな店で朝食をとる。

「今日はまず毛皮だね。」

「わたしたちに買えるのあるんでしょうか?おにいさまたちが言ってた、1年で臭くなるようなのはちょっとねぇ……」

「お店の人に聞けば教えてくれるかも。たくさんお店あるからいろいろ見て回ろうよ。」

 まだ服や毛皮を売っている店はが開店していない。昼が近づくまで少女たちは広い町をぶらぶらと散歩して目を輝かしている。



「お昼、どこにしましょう。」

「お店が多すぎて目移りしちゃうね。ニームクメもすごかったけど……、お店の数すごいね。」

 広い道沿いにはいろいろな商店がびっしりと立ち並んでいる。

 それほど広くない道に入ってもちらほらと看板を掲げている店があり、10年いてもわからないところがあるというのは本当のことなんじゃないかと思えてくる。

 昨日恥ずかしい思いをした転移場所を中心に、町に入った方角と逆に歩いて行くと石の塔が見えてきた。

「ここまでがセイグモルドなんだ……」

「こちらは町を出るとあまり家が無いんですね。」

 ユイナたちが歩いてきた東側の街道は隣の町まで家並みが続いていたが、西側は町をはずれるといきなり開けてセイグモルド住民の胃袋を支える農業地帯が広がってる。

「ここって近くには狩りができそうな森はないのかなぁ。」

「どなたかに聞けば教えてくれるんでしょうけど、なんか自分たちの足でも調べてみたくなってます。

 今度町の周りをぐるっと一周してみましょう。」

「うん。もしかしたら1日じゃ一周できなかったりして♪」

 きょろきょろそわそわしながら歩いて気になる店を見つければ覗いてみるという2人のペースでは1日なんて絶対不可能で1週間くらいはかかってしまうのではないだろうか?



「北側は川があるんですね。」

「うん、大きな川。それに橋がいっぱーい。これってキホ族が作ったのかなぁ。」

「そうでしょうね。ほら、あの橋なんて街道より幅が広いですよ。」

 川の対岸にもなにやら煙がたなびいている町が広がっていて、橋の上を人や荷車や馬車がせわしなく行きかっている。

「橋の向こうにも行ってみたいけど今度にしよっか。」

「そうですね。本当、広すぎて全然見て回れませんね。噂以上の町です♪」

 2人は初めての町を堪能している。


 そんな調子で歩いているといつの間にか正午を過ぎていた。初めての町は目新しいものばかりで2人の時間をガリガリ削っていく。

 毛皮を見る前に昼食を済ませることに決めて、その昼食を食べる店を選ぶのにも小一時間かけて……

 なにをしにセイグモルドに来ているのだろうか。開拓者ではなく観光客である。

「このお店もおいしかったなぁ。」

「わたしたち、運がいいのかもしれませんね。入る店入る店みんなおいしいですよね。」

 他のお客さんを真似て食後にゆっくりとお茶を飲んでいる。この店もお茶はおかわり自由だ。自然と長居することになってしまい、うっかり追加で注文をしてしまう。店の思う壺だ。

「今日はお風呂だよね。うー、昨日は恥ずかしかったなぁ。ワウイにはしばらく行きたくないけどお風呂には行きたいなぁ。」

「ちょっと離れた街道沿いに転移します?」

「それはそれでもし知っている人に見られると何してるんだ?って思われそう。」

 おい!おまえら!毛皮のこと忘れてるぞ!




 ◆




「うーん……確かに安いですね。」

「安いのは安いなりだけど寒さをしのぐだけならこれでいいんだろうけど……」

「「ちょっと臭い!」」

 目的を思い出して毛皮を売っている店をめぐり始める。

 安い商品は下処理がかなり省略されているもので安いなりの理由はあるということだ。1年経っていない新品でも慣れてない2人にとっては気になる不快なにおいがしている。

 ニームクメで見かけたようなかわいいウサギの毛皮で作られたコートが展示されていたお店を見つけて外から眺めていたら店員さんに呼び込まれた。自慢の商品をお勧めされたのだが、値段を聞いて2人とも卒倒してしまった。

「あのコート、かわいかったですー。」

「お値段はクマより怖かったけど……」

 そういう服が大好きなメルリーはもちろん、ユイナですら「レンタルでいいから1度着てみたい!」と思うような商品だった。



「1日じゃ無理だったね。」

「仲間探しと同じですね。まだ寒くなるまで時間はあるでしょうからあわてないで探しましょう!」

 何軒か覗いてみたが2人がピンと来て余裕を持って買えそうなものは見つからなかった。

 店によって価格帯も違うし、デザインが微妙に違っていたりもする。

「明日も頑張りましょう!」



 恥ずかしかったけど便利な場所にある昨日の転移場所から転移することにする。

「おじょーちゃん!今日はがんばれよ!」

「応援してるぞ!」

 酔っ払いの声援が心に突き刺さる。



 今日もいつものように身を寄せ合って。



「転移!」



 2人の姿が消える瞬間に拍手が聞こえたような気がするのはきっと気のせいだろう。気のせいだと思いたい……。




 ◆




「今日はお風呂入ってから酒場に行ってみる?」

「それ!いいですねっ!そうしましょう!」

 ほとんど丸1日歩き回った汗を流してさっぱりしてから酒場に向かう。

 今日はお宿で紹介してもらった中で一番おつまみがおいしかった先輩開拓者とお話をした店を選択した。

 他の開拓者さんのお話を聞きながら、たらふく食べて、たらふく飲んで……、なんかまたおごってもらったりして……

 今日もまた酔っぱらってしまってる。

「お部屋戻ったらもう1回お風呂入りませんか?」

「賛成!賛成!だーい賛成!!」

 この世界では酔っぱらってお風呂に入っちゃダメと叱る人はいない。たとえいたとしても部屋にお風呂があるとだれも止めてはくれない。

 今日もしっかりのぼせてしまう2人だった。




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