003 なぜか一家団欒
「それでね!でねっ!お花がすっごい咲いてて、そうだ!明日は早起きするからお父さん一緒に行こうよ!」
「明日?明日は収穫もあるし……まぁちょっとだけなら。」
「お父さんが転移で連れてってくれなかった理由がよっくわかったよ。やっぱり自分の足で歩いて行かないとだめだね。」
「お、1日目でもうそれがわかったか。思ったより早く立派な開拓者になれるかもしれないぞ。」
「お父さん、自分が開拓者だったわけじゃないんだから説得力ないですよ。」
旅立ったはずのユイナも当たり前のように食卓を囲む一家団欒の時間、今日の主役は間違いなくユイナだ。
「お前ってけっこう無謀だからなぁ。3日くらい寝ずにニームクメまで歩くかと思ってたよ。」
「ひっどい!そんなことするわけないじゃん!お兄ちゃんがいじめる!」
「確かにお姉ちゃんってちょっと目を離すと森の奥まで行ってるよね。すぐに転移で戻ってくるけどさぁ。」
「もー……、コリーヌまでそんなこと言うの?ちゃんと1日目はこのあたりって言われてたところまでしか行かなかったのにさ」
ユイナにとってはいじられる主役というのは心地いいだけじゃなかった。
「とにかく今日も早く寝なさい。ニームクメで仲間が見つかったらしばらくは戻ってこないんでしょ?」
「うん……たぶんそうなるよね。開拓者さんの話聞くと頻繁に戻ってこないのもパーティー円満の秘訣みたいだもん。」
ミヨ族には転移能力が備わってる。徒歩など、転移以外の手段で行ったことがある場所になら一瞬で移動できる能力だ。能力が高くなればそれこそ世界の果てからでも自分の故郷に一瞬にして戻ってくることができる。能力が高い人が中心になって身を寄せ合えば何人もまとめて転移することができる。
しかし、それは他の種族には与えられていない能力だ。パーティー全員で転移するにしてもミヨ族のメンバーだけが生まれ故郷に頻繁に帰れるというのは、積み重なってくると他の種族からは羨ましく疎ましく思われるだろうということはユイナにだって容易に想像はできる。
「もし仲間ができたらさ、仲間全員の故郷を回って転移できるようにしてから戻ってこようかなって思ってるんだ。
そうすればみんないつでも故郷に戻れるようになるよね。
だからそれができるようになるまで何年も戻ってこないかもしれない。」
「うん。そうだな。ユイナも寂しいだろうがお父さんもその方がいいと思うぞ。」
「「「(お父さんの方が寂しがるくせに……)」」」
「なんか言ったか!」
「な、なんでもない。」
町にいる間も仲間が見つかるまでは宿代を浮かすために夜はケイルに戻ってくることにはなっているが、もしかすると町に着くなりすぐに仲間が見つかってパーティーを組んでの旅が始まるかもしれない。
予定通りにユイナが町に着くとすると一家そろって夕食を取れるのは今日を入れてもあと2回しかないかもしれないのだ。
「あのさぁ、コリーヌ、久しぶりにお姉ちゃんと一緒にお風呂入って……一緒のお布団で寝ない?」
「うーん……どうしようかなぁ。わたしもう子供じゃないし……」
「まだ子供だよ!うそうそ!ごめんね。お姉ちゃんがコリーヌと一緒にいたいだけなんだよ。」
「ならしょうがないか。一緒に寝てあげるね。」
ユイナにとっての本当の旅立ちの日はまだ訪れていない。でも、今日1日でユイナは開拓者としての第一歩をしっかり踏み出した。
◇
「おはよう!みんないる?いるよね!昨日みたいなことは無いよね!」
「朝っぱらからうるさい!もう少し落ち着けよ!」
「だって昨日起きたらみんないなかったんだもーん」
1日歩いてくたびれていたのもあったのか食事とお風呂のあとすぐに眠りについたユイナは珍しく早起きだった。
が、家族の中では一番起きるのが遅かった……
「ごはーん。おお、今日もおいしそう!いただきまーす。」
ユイナにとっては今はただの日常だけどもしかするとこの朝ごはんもあと2回で終わるかもしれない。いつもより少しだけゆっくりと味わっている。
「お父さん。お花畑にはわたしが転移するね。他の人を連れて転移できるか試しておきたいんだ!」
「そうだな。ユイナの準備終わったら行くか。」
「わたしもいきたーい」
「コリーヌも自分で歩いて行った方が初めて見た時感動するよ?」
「そっかー……だったら我慢する」
「その代わり俺が行くよ。3人まとめてその距離の転移できるか試しておいてもいいんじゃないか?」
「えっ!お兄ちゃん行ってくれるの?いきなり3人かぁ。大丈夫かな。でもやってみるよ!あっ、実はお花畑に興味があるとか?誰か連れていきたい人が……。1回自分で歩いて行かないと転移はできないよー。」
「うっせー!黙れ!ついて行ってやるって言ってるんだよ!」
他の種族よりも両親の転移に連れられて遠くに外出する機会が多いミヨ族の子供ではあるが、用事や娯楽もないのに町以外に転移することはめったにない。そんな子供たちがじゃれあうのを生暖かい目で見守る父と母であった。
「よし、準備完了。水も干し肉も乾パンもOK。昨日より増やしたもんね。」
「俺もOKだ。」
「こっちは待ちくたびれてるよ。早く畑行きたいんだけど。」
「ごめんごめん。じゃ、やってみるね。」
ユイナにとって3人をまとまった距離転移させるのは初めて。意味は無いとわかっているが息を整えて集中する。
「転移!」