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022 なにこれ?なにこの子???

 

「よーし!いくぞ!」

「とは言え……転移があると旅立ちはこういう感じになるのですね……」

「まぁね。毎日転移してたところだし……旅立つって感じもしないし……」

 ケイル、ニームクメ間の転移は、別の世界で言う通勤とか通学の感覚で何の感動もない行為になってしまっている。

「戻っては来られますがいちおうシルベルおじさまにはご挨拶しておきましょう。」

「だね。あと宿屋と酒場と雑貨屋さんにも声をかけておこうか。」

「だったら……」

 お世話になっていたお店や食事のおいしいお店をリストアップして開店準備中のところとかにお邪魔して挨拶回りをする。

 口々に

「寂しくなるねぇ」

 とか言ってくれるが、よく使うお店にはユイナの能力も、メルリーと2人での転移を苦にしていないということはバレているのであまり別れの悲壮感はない。

 そして、実際この後もお肉屋さんや雑貨屋さんには頻繁に獲物を売りに行き、宿には泊まったり洗濯をお願いしたりすることに2人は決めている。

 快適な生活を一度経験してしまい、それを継続できる方法がある。それを捨てるという選択はこの2人にはできなかった。



 結局あいさつ回りで午前中いっぱいつぶれてしまった。




 ◆




「よし!行こう!」

「はい。今日はそれほど進め無さそうですけど行きましょう!」

 町を出て東に向かって街道を歩き始める。

 街道はおおよそ10ヘトスごとに宿屋や商店がある町がある。というか自然とそこに町ができたり、開拓者が町を作ったりしている。

 それは偶然ではない。

 一般的な旅人が余裕を持って1日で行動できる距離、それが10ヘトス。例えばこのまま2人が街道を歩いて行くと10ヘトスくらい行った先にはジンキューの町がある。

 ニームクメはこの世界では比較的大きな町の一つなのでジンキューまでの道すがらにもいくつか宿屋がある小さな町ができている。



 ニームクメとケイルを結ぶ道は心細かったが、この街道はそれとは比べ物にならないくらい整備されている。

 ほとんどの場所で馬車や荷車が2台並んで同じ方向に走っていても余裕を持ってすれ違いでき、さらに徒歩の旅行者が危険を感じない幅が確保されている。

 さらに、ところどころで休憩や野宿ができる広いところも整備されている。

 もちろん自然とそういう道が維持されるはずはない。街道沿いの町に住むキホ族を中心に定期的に創造能力も駆使して維持している。

 大きな町にはキホ族の住民も多いので自然と整備が整う。逆にケイルのような小さな村では、キホ族の住民がいたとしても数人レベルなので頼りっきりにすることもできず、他の種族の住民も協力して力作業で整備をしている。

 その差は歴然である。



「あーーー、なんかわかった気がする。」

「なにがですか?」

「ケイルからニームクメに向かう道、山の中の川沿いをうねうねくねくね進んでてほんとつらかったの。坂道だし。こういう平坦な道ならいいのにって思いながら歩いていたんだけどさぁ……」

「何が言いたいかわかるような気がします……」

「「飽き(る)(ますね)」」

「今度転移じゃなくて歩いてケイル村に行ってみたいですね。」

「ほんとに!?まぁわたしがいれば野宿しなくても行けるけど、それでも大変だよ。3日だよ。」

「その「山の中の川沿いをうねうねくねくね」っていう道、歩いてみたいです。」

「変態がいた……」

「……何か言いました?」

「いえ、なんでもありません……。」

 ユイナはふと気づく。

「そっか。メルリーは故郷からニームクメまでもこういう道までこういう道歩いてるんだよね。」

「いえ、ここまで単調ではなかったです。適度に曲がっていましたし、風景も変わりました。たとえば道の脇に妙な建物が有って……」



 少女たちが退屈を紛らすためにおしゃべりししながら歩いていると、道の左側に町が見えてきた。

「あれがジンキューかなぁ」

「違うと思いますよ。まだせいぜい3ヘトスくらいしか歩いてないでしょう。」

「お昼食べてから出発したもんね。今日はジンキューまでは行けなさそうだなぁ。」

「別に無理しなくてもいいですよ。正直、ユイナと一緒だと気が緩んじゃいます。」

「寄らないでもう少し先まで行こうよ。」

「はい、そうしましょう!」



 町を通り過ぎると左側の景色が開ける。

「うわっ、なにこれ、なんか崖がある。ここ通るのかなぁ。」

「そんなところは無いと思いますよ。ワウイまでは広くて平坦な街道だって聞いてます。

 あっ、思い出しましたっ!」

「?」

「もっと先に行くとこの崖の下にも平らな場所があって、いくつか小さな町が有って、そのさらに下を大きな川が流れてるんです。

 この街道ほどじゃないですがしっかりした道もあるみたいです。」

「へー、それでそれで!?」

「ジンキューの次の町かその次の町で街道を曲がると、崖を下りる道があるらしいです。下りた先にはキホ族がかけてくれた立派な橋が川にかかってるそうなんでですよ。

 それを渡って向こう側の崖を登ったところに少し大きな町があるって聞いたことがあります。」

「そっかぁ。そんな遠くにも町があるんだぁ。」

「遠くは無いと思いますよ。歩いていないからわかりませんがケイル村より少し遠いくらいじゃないですか?村ってニームクメから3日ですよね?」

「たしかに……おっしゃるとおりです……」

 開拓者になるくらいなら、それが少年であっても少女であっても、成人女性でも成人男性でも、知らないところへの興味は人一倍強い。

 しかし、興味が強いのと知識があるのとはまた別の話なのである。




 ◆




「あの……ちょっと……あれ……あの……、と、といれ。あそこの森に行ってくる」

「なんで今!?。しょうがないですね。森までまだ距離がありますよ。ちょっと一緒に来てください。」

「えっ、どこどこ!?どこ行くの?」

 よりにもよって周りが開けた草原でこういうことになる、悪い意味で「持ってる」ユイナの手を引いて、メルリーは街道から少し外れた一段低くなってる目立たないところに連れていく。

「ここなら大丈夫です。」



「解放」



 四方を壁に囲まれた個人用スペースが出現する。

「ここが入り口です。穴を掘れば用を足せます。少し離れたところにいますからごゆっくり。使い方がわからなかったら呼んでください。」

「…………(なにこれ?)………(なにこの子???)」

 ミヨ族であるユイナの処理能力は完全にオーバーフローした。決して脳の容量が小さいわけではない。断じてそうではない。格納持ちのマノ族ではないからオーバーフローしたである。きっとそうだ。そうに違いない。



 ……とりあえず切羽詰まっていたので深く考えることをやめて用を足した……。




 ◆




「今日はこのあたりまでにしていい?初めて来たところからの転移がどうなるのかわからないからさ。特に注意はされていないけど試してみないと心配。」

「はい、いいですよ。行先はケイル?それともニームクメ?」

「さすがに涙のさよならしたその日にただいまするのは……」

「誰も泣いてませんでしたけど?」

「それは言葉の綾!とにかく今日はニームクメにしよう。」

「はい。もちろんかまいませんよ。夕食どこにするか考えてますね。」

 次の町にたどり着けないまま夜を迎え野宿をする。旅慣れていないものにとっては不安なシチュエーションである。しかしこの2人にはそんな心配はない。

 街道から少し離れたところで2人の少女はいつものように身を寄せ合う。



「転移」



 もはや淡々とした口調で唱えると、街道から少女たちの姿は消え、その代わり、少し離れた見慣れた町の中にその姿があらわれる。



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