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021 装備自慢

 

「昨日買ったわたしのってどれだっけ?」

「これですよ。自分の服、わからないんですか?」

「だって、メルリーの服と同じに見えちゃうんだもん……」

 宿屋の一室にクローゼットを出して着替えに励む2人。

 昨日と同じく会計を済ませケイルに転移する。



「今まで毎日違う服を着るなんて考えたこともなかったんだけど、一度やっちゃうと癖になるね。

 毎日きれいな服って気持ちいいよ。」

「わたしは逆ですよね。毎日着替えるのが当たり前だったから、開拓で何日も野宿をすることもあるでしょうから、どうすることもできなくて着替えないで過ごすことにも慣れないといけないですよねぇ。」

「わたしと一緒なら大丈夫だよ!だって、転移でっ、あっ、そうか!転移不可のところを開拓するかもしれないもんね。転移不可のところだとお風呂も入れないし……。不便な生活に慣れないといけないんだろうなぁ。」

「ユイナはわたしに比べれば十分に慣れてますよ。失礼ですけれど、この村はわたしの故郷に比べると不便なので、こういうところで育っているのでしたらわたしに比べればずっと……」

「ほんと!失礼だね!!でも、確かにそうなのかもしれない。ニームクメにずっと住んでる人が急にケイルで生活することになったら困っちゃうだろうね。」

「はい。わたしだってユイナがいるからこの村に来ていますがいなかったら一生来ていないと思います。」

 寝巻に着替えてからも真っ暗な部屋で布団に入って話し込んでしまう2人だった。




 ◇




 次の日も、そのまた次の日も2人の少女たちはケイルとニームクメを往復して資金を稼ぐ生活を続けている。

 その間に変わったことがいくつかある。

 1つは朝食をニームクメで食べることが増えたこと。これはメルリーの提案である。メルリーの能力成長のために無駄に格納、解放を繰り返すのと同じ考え方で、朝に一度、狩りが終わってから一度の1日2回2人で転移することによってユイナの能力がさらに成長するかもしれないという理屈だった。

 しかしその裏には、「うちの(ケイルの)朝食もおいしいけど、ニームクメの朝食も……」という贅沢にまみれた欲望があったことは否定できない。

 2つ目は夕食である。こちらは逆にユイナの家でごちそうになることが増えた。メルリーも食事を気に入ったこと、そして、ユイナの家族もメルリーもお互いおしゃべりをするのが楽しかったからだ。

 3つ目は獲物の処分方法。3羽狩れた時には時々ユイナの家に1羽入れることにした。夕食をごちそうになっているお礼である。家に入れるときは2人が交代でさばいている。メルリーがさばいた方が稼ぎにはなるのだが、それだといつまでたってもユイナが上達しないのでそうしている。

 ニームクメのシルベルに売る分も、仕留めるのに手こずって傷だらけになった場合などは自分たちが交代でさばいている。

 4つ目。2人で仮パーティーを組んでからご無沙汰になっていた酒場にも何日に1回かは顔を出すようになった。多少資金に余裕ができたからというのもあるが、お世話になることも多い酒場には顔をつないでおいた方がいいという過去の開拓者からの教えがあるからだ。酒場のおねーさんは喜色満面で迎え入れてくれたが、1杯2杯で帰ろうとするとあからさまにがっかりする表情を一瞬浮かべてしまっていた。



 そんな生活が10日過ぎ、1か月過ぎ……、2か月が過ぎたころ。

「よっしゃー!これだけあれば完璧だよ!!!」

 ユイナは雄たけびを上げていた。




 ◇




「かっこいいですよ……。」

「でしょでしょ♪へっへー。」

 ユイナは装備をそろえた。

 もともと買うつもりだった胸当てだけではなく、腕を守る小手や脛を守る脛当ても購入した。

「これでウルフも……、うーん、回復使いの人がいないとやっぱり不安かぁ。」

「どうなんでしょう?確かにナイフを振る腕は噛まれても少しくらいならとは思いますが、他のところを噛まれると危ないですからね。」

「そうだよね。首は論外としても太ももとかガジガジされたら大けがしたり死んじゃうかもしれない。やっぱり他の種族の仲間かすっごく狩りが上手な人と組むまではウサギ止まりかなぁ。」

「わたしもユイナも狩りに向いてる種族というわけではないですからね。」

「そうだよね。わたしは逃げるのは得意だけど逃げてばっかりじゃ倒せないもんね……」

 なぜユイナは当初予定では買うつもりが無い装備を買ったのか。この先どういう局面で役に立つと思って買ったのか。それは……

 ただ単にかっこよさそうだったから、だった。



 具体的に言うと装備した「かこいい姿」をメルリーや妹に見せびらかしたい、その欲求だけだった。

 なので、購入した装備は見た目重視である。ウルフにかまれて傷をつけられたらその怒りでバーサーカー化して大群を駆逐するかもしれない。そんなことは無理だな。

 そして、この「かこいい」装備が購入可能になった理由。その1つが資金が溜まったことであることに間違いはないがもう1つある。それはメルリーの存在だ。

 装備品は女子用の軽装とは言ってもそれなりに重量がある。胸当ては街中でもつけている人がいるくらいでそれほど邪魔にはならないし、女子の場合は別の意味での防御を固める装備になっているという面もある。

 それに対して小手や脛当ては街中や整備された街道ではただの邪魔な異物である。ぶつかるたびにやかましいし重いし……。


 なによりうっかり傷をつけてしまったら大変じゃないか!


 問題はそこではないような気がするが……



 リュックサックや袋に入れて持ち歩いても重いしかさばる。さすがのユイナもわざわざ持ち歩く気にはなれなかった。

 なれなかったのだが、メルリーがいれば話は変わる。

 からだには全く負担なく装備品を格納してくれる。格納するときと解放する時に能力の負担はあるのだが、移動中に重さを感じることは無い。

 鍛冶屋の店先で欲しそうに眺めていた時にメルリーに提案されて借りを作るとかそういうことは全く考えずに反射的に乗ってしまった。

 見るに見かねて、という様子で提案してきたので、もしかしたらよだれをたらたら垂らして装備品を眺めていたのかもしれない……。




 ◇




「ニームクメでお泊りも久しぶりだね。」

「そうですね。お宿の人、喜んでくれてよかったです。」

「大歓迎だったね。酒場でも思ったけどこういうのってすっごくうれしいんだなぁ。」

「これからそういうお店とかお宿が増えるといいですね。」

 以前は毎日泊まっていた宿屋の1室で歓談する2人。

 お気に入りのお店で夕食を食べ、お風呂を済ませた後寝巻に着替えて部屋でくつろいでいる。

 そう、2人は何の疑問もなく2人部屋を取っていた。

「今日はナイフは研がないんですか?」

「研がないよっ!だって前に研いでから狩りしてないし、明日は街道だからたぶん狩りしないし。」

「そうですね。明日は街道……。いよいよですね。」

「うん。いよいよだね。」

「がんばりましょう!」

「頑張る!」

 夜の宿屋の一室でハイタッチを交わし

「長かったような……」

「短かったような……」



 そう、2人はついにセイグモルドに向けて明日旅立つことに決めたのだ。

 しかし、2人はすっかり忘れていた。

「ニームクメにいる間だけの仮パーティー」

 そんな約束をしたことをすっかり忘れていた。当たり前のように一つの部屋でそれぞれのベッドにもぐりこんだ。



 2人は何か取り決めをすることもなく、堅苦しい挨拶をすることもなく、なし崩し的にパーティーを組んで旅をすることになった。




 ◇




「お父さん、お母……」

「メルリーちゃん、気を付けてね。いつでも遊びにおいで。」

「ありがとうございます。皆さんもお元気で。」

「だからなんで無視するのさぁ!」

 旅立つ前、お約束の挨拶をしようとしたら母にセリフをかぶされてぷりぷりと怒る。

「だって、お姉ちゃんのそれもう聞いたからいいよ。」

「これからも毎日戻ってくるのか?メルリーちゃんと一緒なら構わないぞ。」

「うー……みんな、かわいい娘の旅立ちなのにぃ……」

「「「「だって……、ねぇ……」」」」

 ミヨ族の旅立ちに緊張感がないのか、ユイナだから緊張感がないのか……



「毎日?になるかはユイナさん次第ですけれど、もし途中で資金が厳しくなってわたしたちに合う狩場も無かったらお邪魔させてもらうかもしれません。」

「かまわないよ。みんなには見かけても驚かないように言っておくよ。うちに挨拶しなくても構わないからね。できればウルフとかイノシシも狩れるようになってくれるともっと助かるんだけどな。」

 出発前夜はケイルに泊まり、購入した「かこいい」装備を家族に披露した。

 コリーヌは

「お姉ちゃん!かっこいい!開拓者みたいっ!」

 って喜んでくれた。いや、ユイナはずいぶん前から開拓者なのだが……

 問題は父の反応だ。

 装備した小手、脛当てをじっくり見て、触って、確かめて。

「…………」

 首を横に振って

「メルリーちゃんとおまえだけでウルフを狩るのはまだやめておいた方がいい。」

 宣告した。

「やっぱり、そっかぁ……」

 見た目重視で自分が買えるレベルの装備。お値段なりの一品だということは見る人が見ればすぐにわかってしまう。



「よしっ、それじゃ行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。くれぐれも無理だけはしないようにね。あなただけじゃないんだからね。」

「メルリーお姉ちゃん、お姉ちゃんのことよろしくお願いします!」

 悪しざまな言われようだがユイナもすっかり慣れてしまった。



「みんなありがとう!またね!」

「ありがとうございました!必ずまた来ます!」

 家族が見守る前で、2人は身を寄せ合う。



「転移!!!!!」



 いつもより大きな声でその言葉を叫んだ。



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