018 才能
「解放」
メルリーがつぶやくと獣をさばくときに身に着ける大きな黒い布地が出現する。
しかしユイナの目にはそんなものは入ってこなくて
「メルリーって格納持ちだったの!!!!?」
呆然とメルリーを見つめている。
「あっ!ごめんなさい!そういえば言ってなかったです。わたし、マノ族なんです。」
「そっかー。メルリーって格納持ちなんだ。あっ、だからケイルに来るときも手ぶらだったんだ。」
「別に隠しているつもりじゃなかったんですがてっきりお話ししているものだと思ってました。
昨日お部屋に行って転移をお願いする代わり荷物が有ったら持ちましょうか?って言おうと思ったんですけれど、ユイナがナイフを研いでるの見てて忘れちゃってました。」
「いいのいいの!全然気にしてないから。そっかぁ、格納かぁ。ん?あれっ?ってことは……」
「どうしました?」
「わたし、メルリーの能力のこと全然知らないのに一緒に行動してたってこと?」
「はい……そうなりますね……」
「なんか、わたしってすごいのかも。相手の種族も聞かないで仮とはいってもパーティー組んじゃったんだ。」
「ですね……」
ニームクメ初日、ユイナは勇気を振り絞ってラニータに自分の種族を告白した。パーティーを組む意思があるのならそれが当然、ユイナにもそれがわかっている。
メルリーと出会った日、ウソがばれてギャン泣きしたあの日、ユイナは自分の種族をメルリーには伝えた。
そして、メルリーから仮のパーティーを組まないかと誘われた。
ユイナが冷静ならそこでメルリーの種族を聞くはずだった。
もしユイナから聞かなくても何か思うところがあるというわけでもなければメルリーから告白するはずだった。
あの時、なぜか2人ともその考えが抜け落ちていた。ユイナは、能力を知らないのに「さばくのが上手な子」というだけで仮パーティーを組んでいたのだ。
◆
「あなた、さっきウサギの耳をつかんで振り回してましたよね?あれ、次からはぜっっったいやめてください!」
「振り回してないよ。少し動かしただけだよ?耳持たないと持ちづらいじゃん!」
「耳を持つと毛皮が痛むことが多いそうです。おじさまが「あの子きれいに倒してるのに耳持っちゃうんだよな、もったいない」って言ってましたよ。」
「えーーー!おっちゃん、ひどい!教えてくれてもいーのに。」
「わたしも「教えてあげないんですか?」って聞いたんですよ。そうしたら「自分で気がついた方がいいからね」って。あっ!わたし今言っちゃいました!」
「そ、そっかそっか。おっちゃんもわたしのこと考えて言わないでおいてくれたんだ。」
「あの……、ごめんなさい。ユイナのこと口が軽いなんて言えませんね。」
「いいのいいの!メルリーもわたしのこと考えて教えてくれたんでしょ?おっちゃんと同じだよ!ねぇねぇ、さばくの見せてよ!」
「そうですね。1羽ならすぐに終わります。」
「解放」
メルリーがつぶやくと獣をさばくためのナイフが3本出現する。
「3本も?全部形や大きさが違うし。どれもわたしのとはちょっと形が違うかも。」
「狩りに使ってるナイフは別に持ってます。毛皮をはがすのと肉を切り分けるのとでは違うナイフを使った方が効率的です。故郷で資金を貯めてたんで買いました。もう少し大きめのウルフ用のとかもあるんですよ。」
「へー……、知らなかったよ。メルリーってわたしの知らないことたくさん知ってるね。」
「わたしに言わせるとユイナが知らなさすぎのような……」
「うん。メルリーと出会ってからそう思うようになってきてる……」
いろいろあったけどいつもの調子に戻る2人。
「ねぇ、もしかしてそれも毎回洗濯してるの?」
メルリーが身に着けているのは、目立ちはしないがいろいろなところに獣の血の跡が残っている、普段着ている服の上からでも着られる大きめの黒い簡素な服。
ぱっと見メルリーのキャラには似合わないような気がしたのだが、実際に着てみると不思議と似合っている。
「さすがにこれは洗いません。着ているのはさばくときだけですし……、何度も使ってくたびれてきたら捨てることになりますね。」
「そうなんだぁ。それはそれでちょっともったいないような。丈夫そうだし……」
万一手元が狂ったときにも怪我をしづらいように厚手の生地でできている。
「故郷で買ったんですがニームクメにも同じようなのを売っていて安心しました。ニームクメを離れるときは念のため何着か買って行こうと思ってます。」
「わたしも……、ん、いらないか。さばくの得意な人に任せた方が高く売れるもんね。」
メルリーは刃物を動かす手を止めて
「ユイナはさばくのが得意な人と仲間になるつもりなんですね。」
にやりと笑った。
「あっ、そ、そっか、メルリーとは仮だもんね。なんかもうメルリーと一緒に旅をするつもりになってた。」
「やっぱり……だと思いました。」
何種類かのナイフを駆使して額に汗を浮かばせながら手際よくウサギを解体していく。
「ふー……、こんなもんですか。」
「うわー……、わたしがやるよりずっときれい……。おっちゃんが上手って言った理由よくわかった。」
メルリーがさばいたウサギはユイナがいつもさばいているのとは違って毛皮もきれいに剥がされていた。
「一撃でしたからね。元が良かったんですよ。実は緊張してました。傷がたくさんできているのをさばくのは緊張しないんですが、きれいにさばけば高く売れそうなときは緊張します。」
「緊張しているようには見えなかったよ!メルリー!すごい!!」
水桶で手とナイフを清めて黒い服を脱ぎ
「格納」
さばくのに使った道具一式を格納する。
「ウサギは格納する?袋で持っていく?」
「なんとなくなんですけど自分でさばいた後のお肉は格納したくないんですよね。お肉屋さんで買ったお肉は平気なんですけれど、なんとなく……。
わがままでごめんなさい。」
「なんとなく、かぁ。わたしもなんとなくわかるような気がするしいいよっ!」
メルリーがユイナをちらっと見やって
「そうだ、あらかじめ言っておきますね。わたし、格納使いってすぐに言えなかったじゃないですか。
実は……、わたし、自分の能力にあんまり自信ないんです……。だからあまり言わないのかもしれません。」
「そうなの?」
「ユイナにはちゃんとお話ししておきますね。」
メルリーの表情が真剣になって少し目を伏せて。
「もしかすると、わたし、才能が無いかもしれないんです……」
◆
「才能?無い?」
「はい……、ユイナも知ってますよね?能力って使えば使うほど成長するって。」
「うん。今まであんまり実感してなかったけど、ニームクメと何度も往復してたら楽になったなぁって。それって成長なのかなぁ。」
「たぶんそうでしょうね。」
「それでそれで??」
「わたし、さばくのも練習してましたけれど、格納もすごく頑張って練習してたんです。だからちょっと自信があったんです。なのに……」
メルリーは寂しそうな表情で語り続ける。
「ニームクメに着く前に立ち寄った町のそばで狩りをして1羽仕留めて帰ろうとしたらもう1羽みつけたんです。」
「それってただのラッキーじゃん!」
「はい、幸運でした。もう1羽もうまく仕留めて今日はいい日だ!って思って格納したんです。そうしたら……」
「……もしかして……、できなかったの?」
「はい……」
初心者とはいえ格納持ちならウサギ5羽くらいは平気で格納できるはず。なのに自分は練習を積んだはずなのにできなかった。
メルリーは自信を失ってしまった。
「そのあと、仲間に誘われた時もそのことを正直にお話ししたんです。そうすると……「もうちょっと鍛えてからの方がいいよ」って言われちゃうんです。」
「そっかぁ。でも、それってしょうがないよね。わたしだって2日目に3人で短い距離転移して大変だったもん。それが今はメルリー連れて長い距離転移できるようになったんだから。」
「そこなんです!そこが問題なんです!」
「えっ?」
「ユイナさん、能力を使って成長しているのを実感しているじゃないですか。わたし、出発前にかなり頑張ってたつもりなんです。なのに、全然成長していないような気がするんです。
だから、もしかしたら、わたし、才能ないのかもしれないって余計に心配になるんです。」
「そっかぁー。わたし、格納持ちの人と仲良くなるのはメルリーが初めてだからよくわかんないんだけどさ」
ユイナはとびっきりの笑顔を見せて。
「なんとかなるよっ!メルリーなら大丈夫っ!」
メルリーはすがるようにユイナを見つめ
「大丈夫、ですか?」
「大丈夫、大丈夫!ほら、もしそんなに格納できなくてもメルリー物知りだし、ぜーんぜん大丈夫だよっ!」
ユイナの言ってることには何の根拠もないのだがなんか安心をしてしまうメルリーだった。
「それじゃ行こうよ。あんまり遅くなっちゃうと悪いから。」
なかなか帰ってこない家族を待つのも諦めて転移をしようとしていると
「あっ、おかえりー。うん、さばくのは終わったよ。これからニームクメに帰ってご飯食べてからまた来るね。」
ちょうど畑から帰ってきた家族がやってきて、今夜は泊めてもらうことを伝えることができた。
「おっちゃんのところ行くのも久しぶりだなぁ。転移!」
2人の姿はケイルからすーっと消えていく。
明日からしばらくは22:00更新とさせていただきます。
相変わらず意識して読んでくださっている方がいらっしゃるのかはわからないのですが念のため……




