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017 無駄遣い

 

 ウサギは弱い獣だ。何撃か当てれば子供でも倒すことができる。しかも肉はおいしい。毛皮もきれいなら売れる。

 しかし……すばしっこい。

 後ろから近づいて気づかれる前に倒すのが王道だ。メルリーもそうやってウサギを狩っている。その方法以外にメルリーがウサギを仕留める方法は無い。

 逆に一度逃げられたら潔く諦めて次の獲物を探す。狩りに熟練している人でも追いかけることは無い。たかがウサギごとき、追いかけても逃す可能性が高いから追いかけるだけ損だ。そういう扱いだ。その方が効率よく狩りはできる。

 ユイナは狩りに慣れている。当たり前にウサギに気取られないように後ろから近づいてく。



「(あっ!)」

 ウサギの耳がぴくっと動いてユイナのいない方に一目散に走りだした。

 こうなったら狩りは失敗だ。

 一部始終を見ていたメルリーは

「(得意って聞いてましたけどこういうこともあるんですね。わたしがいるせいでなければいいんだけど……)」

 自分のことのようにしょんぼりしてユイナが肩を落として戻ってくるのを待つ。



「転移」



 小さな声がメルリーの耳に届いた。

「えっ?」

 周りをきょろきょろ見回すがユイナが近くに転移していない。

 ふとさっき狩りが失敗したところを見るとウサギの走る方向正面にユイナが立っている。ウサギは狩られたいわけではない。当然方向を変える。



「転移」



 さっきと同じユイナの声が聞こえる。進路を変えたその先にユイナが立っているのを見つけてウサギは急ブレーキで回避する。



「転移」

「転移」

 ……



 それが何度か繰り返されてついに



 シュッ

 ドサッ



 小気味良くナイフが降られる音が聞こえ狩りが終わったことを教えてくれる。



「転移♪」

「メルリー!久しぶりの獲物!一撃!!すごいでしょ!!!最後に転移無駄遣いしちゃった。どう?かっこよくない♪」

 まるで子供のように、実際子供みたいなものだが、ユイナはウサギの耳をつかんで誇らしげに見せつける。




 ◆




「あのぉ……聞いても……、いいですか?」

「なに?何でも聞いてよ!」

 ユイナは自慢する気満々である。

 対するメルリーは頭の中が??????で埋め尽くされているような顔をしてる。

 ユイナはメルリーの反応にちょっと不満そう。

「ミヨ族のみなさまって、今ユイナがやったような狩りをするのが一般的なんでしょうか?」

「えっ、別に変なことしてないよね。後ろから近づいて気がつかれちゃったら回り込んで……だよ?」

「回り込めないですから。」

「そっか、でもさ、ウサギの行く方向ってだいたいわかるからナイフを投げて仕留めるとかはやるでしょ?

 ああ、確かに何人かで狩りをするときは待ち伏せする人を用意するから違うかなぁ。でも1人で狩るならこんな感じなんじゃないの?」

「ウサギの行く方向ってわかるんですか!?」

「絶対わかるってわけじゃないけど動きを見るとなんとなくどっち行くかわかるから。みんなできるんじゃないかなぁ。」

「こんなやり方あなた以外にできません!」

「なに?なになに?なんで怒ってるの?怒られるようなことした!?」



 幼いころから狩りをして慣れているとはいえ方向を先読みしても先回りできるほどウサギは愚鈍ではない。

 子供のころから暇さえあれば森の中を駆け回り地形はもちろん生えている木の一本一本まで自然と頭に入っている上に、すばしっこい動きができるユイナならではの方法である。

 そして、真に恐ろしいのは転移の無駄遣い……。

 メルリーにとっては全部の転移が無駄遣いだが、ユイナはメルリーの元に戻る最後の1回だけが無駄遣いだと思っている。

 ウサギ1匹を狩るのに何度も転移を使うようなアレな人がいるとはメルリーは全く想像していなかった。

 能力を使うと疲れるはず。それなのにユイナは薬草を噛もうともしていない。

「なんか反応薄いなぁ。久しぶりの獲物なのに……」

「ご、ごめんなさい。うれしいんですけど……それよりびっくりしちゃって……」

「そっか。そうなんだ。まだ1匹だけどいったん戻る?」

「はい、ユイナが言うならそうします……」

 まだ呆けているメルリーとイマイチ釈然としない表情のユイナは転移を使わずとことこ歩いて村まで戻っていく。




 ◆




「あっ、お父さん!おつかれさま!」

「おお、狩り、終わったのか?」

「うん。1羽獲ったから今日はもういいかなって。それでさ、もしかすると裏庭でさばくかもしれないけどいい?」

「いいぞ。1羽なら家の分はいらないからな。メルリーちゃんとおまえのものだ。」

「ありがと!みんなが帰ってくる前にニームクメに売りに行っちゃうかも。出かけるときはできるだけ声かけるね。」

「おう!わかった。メルリーちゃんと仲良くな!」



「うちでさばくときは裏庭でやるんだっ。どうする?このままおっちゃんのところに持ってく?それともさばく?」

「そ、そうですね。ユイナの狩りを見せてもらったんで、今度はわたしがさばくのも見せますよ。」

「みたいみたーい。わたしとどこが違うんだろうなぁ。」

「別に特別なことはしていないと思うんですけど……」



 2人はユイナの家の裏庭に来た。

「あれ?そういえば、さばくって言ってるのにこんなかわいい服じゃだめじゃん!やっぱりこのまま売ろうよ。それとも私がさばく?」

「??、なんでですか?」

「いや、だってさばくと絶対汚れるし……、ま、まさか、服汚れないようにしてさばけるの!?達人じゃん!!」

 ユイナは戦慄する。

「そんなことできるわけないですよ。おじさまはほとんど汚れないでさばいてますけどわたしなんて全然。」

 メルリーはふんわりと笑って、手を柔らかく前に突き出す。



「解放」



 メルリーがそうつぶやくと、体全体を覆う黒い布が出現する。

「これ、使いますから。」

「えっ!えっっ!!ええーーー!」

 ユイナは目を大きく見開いて

「メルリーって格納持ちだったの!!!!?」




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