表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/67

016 狩り

ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!

読んでくださる人がいらっしゃるのかわからない状態で更新しておりました。

とっても励みになります。

 


「たっだいまー、じゃなかった、お邪魔しまーす。」

「おっ、ちゃんとみんながいる時間に来れたな。メルリーちゃんに起こしてもらったの?」

「もー。今日はちゃんと起きたって。」

「「「「今日は?」」」」

「う、うるさいなぁ。ほら、みんな畑に行くんでしょ。途中まで一緒に行こうよ。」

「はいはい。今日はお母さんも行くからみんなでね。」

「わたしもいきたーい!」

「だめだめ!お勉強があるでしょ!ちゃんとお勉強しないとユイナみたいになっちゃうよ!」

 ケイルの村には子供たちを集めて勉強を教えている学校のような場所がある。ケイルが特別というわけではなく多くの町や村にはそういうところがあって、子供はそこに通うのが当たり前のことになっている。

 学校では、生活に役立つことやこの世界のことをお年寄りや開拓者上がりの住民が教えている。

 ユイナも10歳になるまでは学校に通っていた。

 通っていた……。

 通って……いた?

 はずなんだけど……。



 メルリーに出会ったユイナはもしかしたらもう当分は戻ってこないかもしれない。

 昨日別れた時にそんな予感がしていた家族たちは少し肩透かしを食らったようにはなっているが歓迎しないはずはなかった。



「それじゃ、がんばってね。」

「メルリーちゃんとユイナも気を付けて。無理しちゃだめだよ。」

「わかってるって!いつもより浅いところまでしかいかないよっ!」

 畑に向かう家族と別れて2人は森に向かう。

「メルリーの服、かわいいけどここの森だと邪魔かもしれないなぁ。」

「確かにそうですね……。でも……、とりあえず今日はこのままにします。」

「うん。服装をとやかく言われたくないよね。あっ、ちゃんと毎日洗濯はするようにするからそれは心配しないで!」

「当たり前です……」



 メルリーは緊張気味に周りをきょろきょろ見回しながら歩くが、一方ユイナは

「うっさぎさんー、うっさぎさんー」

 などと謎の鼻歌を歌いながら進んでいく。

 ケイル周辺の森はユイナにとっては庭のようなものだ。

「この辺はウサギしかいないから大怪我することは無いと思う。でもやっぱり狩りだからさぁ……、怪我させちゃったらごめんね。昔開拓者やってた回復使いの人も村にいるから治らないってことはないからそれは安心してね。」

 ユイナもケイルが「村」だってことを認めた。

「お金ももったいないですしできれば治癒は使いたくないですね……」

「回復使い」と呼ばれているが、その種族は治癒とか解毒とかも使える。パーティーメンバー以外に対しても能力を使うことはできるが、治してもらった場合は物質的なものか貨幣的なものかはともかくなんらかのお礼をするのがこの世界の常識である。

 それは他の能力を使う種族にも言えることで……、本来ならユイナがメルリーを転移で移動させる場合はなんらかのお礼が必要なはずだった。2人はまだ「仮」パーティーなのである。

 世間知らずであまり深く物事を考えないユイナはともかく、この世界の常識に聡いメルリーもなぜかそのことが頭からすっぽり抜け落ちていた。




 ◆




「なかなかいないなぁ。でもいつものことー。昼までに3羽くらい狩れればいいんだけどなぁ。」

 一日中森を歩き回って1羽しか狩れないことは普通にあることで、獣と全くエンカウントできない日もある。狩りとはそういうものだ。ユイナでも獣が多い森の奥深くまで分け入っていくことは自重していた。それに、今日はメルリーと一緒なのだ。1人ではない。

 ケイル近傍の森は獣も多く住んでいるのでニームクメでの2人のように3日間も1匹の獣とエンカウントしないという話は聞いたことが無い。聞いたことが無いだけでそういうことももしかしたらあったのかもしれない。

 ケイルで暮らしていたころのユイナの記録はウサギ15羽だ。意気揚々と家に帰って父親に見せたら怒られた。こんなに獲っても食べきれないし干し肉にするにも手間がかかる、一度にたくさん獲ると減るかもしれない。お説教をされた。

 その時獲ったウサギは3羽を家に残して残りは父親がニームクメに売りに行った。遅い時間だったからあまり高くは売れなかったらしい。

 家族が一番喜んでくれるのは3羽から5羽くらい取れた時だ。そのくらいなら家でも食べられるし1羽か2羽なら村で売って臨時収入も得られる。その収入は狩りをしたユイナのものだ。旅に出る資金はそうやって少しずつ貯めていた。

 でも、それは特別なこと。いつもいつもそんなに獲っていてはウサギがいなくなってしまう。通常はウサギを2羽か3羽仕留めれば十分。1羽でも文句は言えない。もし運よくすぐに終わったら余った時間は農作業のお手伝い。それがケイル周辺での狩りだ。



「こんな時に限っていきなりウルフがでてきたりするとやだなぁ。あっ、ウルフが出たら速攻で逃げるからね。たぶんわたし一人だとまだ無理。」

 ウサギはせいぜいぶつかって来たり小さな口で噛みついてくるくらいだが、ウルフはやばい。

 大きな口で噛みつかれるはもちろん、引っかかれたり、体当たりされるだけでも結構なダメージがあるし、最悪の場合命に係わる怪我をすることだってある。

 転移持ちならそうなってもよっぽど運が悪かったり失敗したりしなければ逃げることができる。ただそれだけでも狩りには比較的向いている種族である。



「おっ!メルリー、ちょっと静かにしてて」

「(しゃべってるのはあなただけですよね?)」

 という言葉を飲み込んでメルリーはうなずく。

 ウサギだ。やっと見つけた。

 メルリーと目を合わせひそひそ声で

「ちょっとここで待ってて。もし他の獣が来たら大声出して呼んで。」

 ユイナはメルリーが今まで見たことのない精悍な表情をしてる。

「(この子、真剣になることもあるんですね……)」

 失礼極まりない。



「(行くよ!)」

 ユイナが無言でウサギに向かって忍び足で近づいていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ