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015 ちょっとした有名人

 


「じゃ、明日は狩りをさせてもらうからね。」

「わかった。俺たちが畑に行く前に来るようにしなさい。」

「……うん、がんばる……」

「お宿の人に起こされることになりそうですね。それともわたしが起こしてあげましょうか?」

「あれ、同じお部屋に泊まってるんじゃないんですか?」

「うん。まだ仮だからね。いつどちらかに仲間が見つかるかわからないし別の部屋だよ。」

「ふーん……、そうなんだ……」

 まだ日は高いが今日はケイルでやることもないのでユイナとメルリーはニームクメに転移をする。

「今まで意識してなかったけど、みんなの前でこれやるのってちょっと照れるかも……」

「はい……わたしもです……」

 まだ能力がそこまでは高くないユイナが転移をするためには傍から見ると抱き合っているように見えるくらい近づかなければならない。

 狩り仲間の同年代の子供や家族とは何度もやっていることのはず、ニームクメからケイルに向かうときしたのと同じことをしているだけのはず、それなのに家族がニヤニヤしながら見ている前でとなると、緊張して恥ずかしくなってくる。

「集中しないと変なところに転移するからな。」

「ここに来るときみたいになるってことですね。」

「おまえ、もしかして失敗したの!?だっさ!」

「し、失敗じゃなくて……、わざと、あれはわざとっ。メルリーにお花畑を見せたくて失敗したふりしてわざとやったんだよ!」

「……、目が泳いでる、髪をいじってる……。息をするように嘘をつきますね……」

 メルリーはジト目で睨んでくるが、家族は「いつものこと」と反応が薄い。やっぱりずっと前からバレてたんだ。

「確かにお花畑はきれいでしたしそういうことにしてあげますね。」

「次はちゃんとするから……。」



「転移!」



 家族に見守られて2人の少女の姿が消える。



「どう思った?」

「「仮」って言ってたけど……そんな雰囲気じゃないよね。」

「ああ、俺も村に来た開拓者のパーティーはたくさん見てるけど数日であそこまで仲がよくなるもんなのかね?」

「あした、お姉ちゃん来てくれるのかなぁ……」

「もしかしたら……、装備をそろえてからーとか言ってたけど、あいつのことだから明日には気が変わるかもな。」

「でも、よかった。もしメルリーちゃんとはうまくいかなくてもあれならなんとかやっていけそうだねぇ……」

 ほっとしながら、でも、どこか寂しそうな顔で2人が転移した後を見つめる家族たちだった。




 ◆




「くんくん。なんかわたしの服からメルリーの匂いがする……」

「なに気持ち悪いことしてるんですかっ!同じ洗濯屋さんにお願いしてるから当たり前です!」

「へー。ニームクメで洗濯するとこんな匂いになるんだぁ。」

「たしかに、ケイルの村ではこういう香りづけはしてないでしょうね。」

 宿に戻ってきて、できていた洗濯物を受け取ってじゃれあってる2人を「あいつらまたか……」という目で周りの人たちは見てる。



「メルリー、明日からうちで泊まるって……、本当にいいの?洗濯も頼めなくなっちゃうんでしょ。うちで洗ってもいいけどいい匂いはしないし、返り血浴びたのとか泥だらけになったのとかと一緒にだよ?」

「いいえ、ここで頼めますよ。宿泊無しだと割引が効かない分少しお高くなりますがその分稼げばいいんですから大丈夫でしょう。」

「そっか。メルリーがいいならそれでいっか。」

「言っておきますけれどあなたもここで洗濯をお願いしてくださいね。」

「えっ!?」

「えっ?って当たり前でしょう?あなた、開拓者として家を出たのだから洗濯をお願いするのは筋違いでしょう。」

「そう言われると……、ってことはうちにも宿代払わなきゃいけない?」

「それはいいんじゃないですか。せっかくのご厚意ですし。宿代も浮きます♪」

「そ、そっか」

 ダブルスタンダード。

 ここではない他の世界ではそう呼ばれている。

 メルリーは快適な宿から離れることは譲れても、きれいな服を毎日着ておいしいものを毎日食べるという欲望は譲れないだけだった。ただそれだけだった。

 残念なことにユイナはそんなことには気づかず納得してしまっている。



 夕食を終えた2人はそれぞれの部屋に戻り明日に備える。

「明日はがんばるぞ!そうだ!やっとこう!」

 ユイナが何やら作業を始める。




 ◆




「コンコン」

「はーい。」

「まだ起きてますか?」

「うん。起きてる。入っていいよっ!」

 メルリーが扉を開けるとユイナの後ろ姿が見えて

「あ、あなた!何してるんですか!?」

「別に……。ナイフ砥いでるだけだよ?」

「なんで今こんなことを……」

「ここんところ獲物もいなかったし、明日はがんばるぞって感じ。本当は毎日研いだ方がいいって言われてるんだけどめんどくさくって……」

「にしても同じようなナイフばかり3本も……何に使うんですか。」

「そりゃスペアが無いと……、歯が欠けたりしたら危ないし、投げて仕留めることもあるからたまーにあるから傷むんだよね。そっか、メルリーってあんまり狩りはしないから狩りのことは知らないんだね。

 えへへ、メルリーからは教わってばっかりだったからなんかうれしいよ♪」

「……。わたしもまだまだ知らないこといっぱいあるんですね。ありがとうございます。明日からもいろいろ教えてくださいね。」

「うん。もしわたしがメルリーの知らないことをしてたら言ってね。変なことをしてるのかもしれないけどメルリーが知らないことをしているのかもしれない。」

「わかりました。ユイナもそうしてください。」

「5秒に1回聞いちゃうかもよ。」

「それはちょっと困ります……」

 ほのかなランプの灯りの下で語り合いながらもユイナの手は止まらず視線はナイフを見つめていた。

 ユイナの部屋に来た理由をすっかり忘れているメルリーはそれをうっとり見ていた。




 ◇




「お世話になりましたー。」

「はーい。気を付けてね。ニームクメに来た時はまた使ってね。」

「はい、しばらくの間お洗濯だけはお願いしに来ると思います。こちらで頼むとすごく着心地いいんです。」

「ははは、ありがとう。無理にうちに来なくてもいいけど来てくれるとうれしいよ。洗濯だけでも歓迎するよ。」

 本人たちは気づいていないがこの宿ではちょっとした有名人になっている2人。明日からはいなくなるという話をしていると、がっかりした表情になる人や、よかったねぇという表情になる人もちらほら見受けられる。

 ユイナとメルリー以外のここにいる全員が2人はパーティーを組んだと思っている。



「よし!それじゃ、メルリー、いこ!」

「はい!行きましょう!」



「転移!」



 2人の少女の姿がニームクメから消えていく。




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