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011 1つだけ約束

 

「聞こえて無かったわけではないと思いますが念のためもう一度言いますね。

 ニームクメにいる間はわたしとあなた、一緒に行動しませんか?」

「そ、それって……、仲間になってくださるってことですか?」

「そうは言ってませんよ。ユイナさんとわたしの両方がここにいる間だけです。どちらかに仲間が見つかるか、どちらかが1人で旅に出ることを決めるまでの間です。」

「そういうのってありなんですか?」

「ありかどうかはわからないですが、もし仮にユイナさんとわたしが仲間になるにしてもその前に相手のことを知っておいた方がいいじゃないですか。合理的だと思うのですがいかがですか?」

「はぁ……」

 開拓者が自分たちだけでは不安を感じる凶暴な獣がいるエリアや、全くの未開拓領域に行くときに、一時的に別のパーティーと行動を共にすることにしたという話は聞いているが、仲間になる前に行動を共にするという話を聞いたことは無かった。



「うーん……たしかにこのまま毎日1人でお酒を飲んでいるよりはいいですね。それに楽しそう♪」

「でしょ?」

「あっ、でも一緒に行動すると言っても何をするんですか?」

「そんなの決まってるじゃないですか。ユイナさんが狩りをして私がさばくんですよ。それだけで全然効率がいいはずです。2人ともおじさまのお墨付きなんですから!」

「そっか。そっかそっか。それはいいかも。でも、メルリーさん、いいんですか?おっちゃんのところのアルバイトできなくなっちゃいますよね?」

「それは大丈夫です。開拓者だってことはおじさまにも伝えていますから。それにここを拠点にするのなら、さばいたお肉の売り先はおじさまのところです。」

「なるほどー。メルリーさんすごいですね。そんなこと全然思いつきませんでした!」



「わかりました。メルリーさん、よろしくおねがいします!」

「こちらこそよろしくお願いします。そこで最初に1つ約束してほしいことがあるんですがいいですか?」

「はい……、で、できることなら。」

 ここまでの経緯があるのでユイナは思わず体を固くする。

「そんな……緊張しないでください。簡単なことですから。」

「は、はい。」

「わたしのことはメルリーと呼びつけで呼んでください。わたしはユイナを呼びつけで呼びます。」

「えっ?それだけ、ですか?」

「はい。これだけです。ちゃんと意味があるんですよ?」

「どういういみですか??????」

 仲間になったわけでもないのにお互いを呼びつけで呼ぶというルール。なんでわざわざルールにするのか?ユイナにとっては全くの意味不明だった。



「たとえば狩りの時ユイナの後ろに別の獣が近づいていたとするじゃないですか。」

「はい……」

「その時『ユイナさん、後ろ!』っていうのと『ユイナ、後ろ!』っていうのとどっちが速く言えると思いますか?」

「え、えっとそりゃもちろん『ユイナ、後ろ!』ですけど……、そんなのほとんど変わらないじゃないですか!」

「そんなことありません!『さん』を付けてなければ倒せたのに『さん』をつけたがために襲われて大けがをしたり命を落としたりすることだってあり得るじゃないですか。だからこれは譲れません!もしもっと短い呼び名がいいのならそうしますけど。たとえば『ユ』とか。」

「それじゃわからないよ!わたしはメルリーさんのこと『メ』って呼ぶの?わけわかんないよ!」

「それは冗談ですよ。」

 メルリーはにっこりと笑って。

「それだけが約束して欲しいことです。」

「わかりました。で、では早速……」

 互いの手をギュッと握りしめて。

「しばらくの間よろしくお願いします。メッ、メルリー」

「うふふ。ユイナ、こちらこそよろしく。」




 ◆




「あっ、メルリー、教えて欲しいことがあるんですけど。」

「はい。わたしがわかることなら。」

 いつのまにやらずいぶん長い時間酒場で話し込んでいて、町は赤く染まり始めている。

「一時的にはなるとは言ってもメルリーと一緒に行動するのにひとりだけ家に帰るっていうのは違うと思うんです。だから今日からニームクメに泊まろうと思ってるんですけど……

 恥ずかしい話、わたし、ニームクメのお宿全然わからなくて……」

「なんだ、何かと思いましたよ。そんなことなら。おすすめのお宿を紹介しますね。わたしが泊ってるお宿でいいですか?」

「はい!もちろんです!メルリーが泊ってるお宿なら!あっ、仲間ってわけじゃないからもちろん別の部屋にします。」

「うーん。わたしは節約になるからユイナと同じ部屋でもいいんですけれど……、そうですねそこは別にしておいた方がよさそうですね。いつどちらかが急にこの町から出発するかわからないですし。」

「じゃそれで決まりってことで!案内してください!」



 暗くなり始めたにぎやかなニームクメの町を2人の少女が付かず離れずの距離で宿屋に向かって歩いて行く。

「ちょっと意外でした。」

「何が?ですか?」

「酒場を出たらユイナは家に転移していくものだと思ってました。わたしとはまだ仲間じゃないし、帰れるってことはわたしも知っているんだから問題ないですよね。」

「うーん……、実はね、ちょっと迷いました。でも、家から転移する人と故郷を離れて知らなかった町で生活する人とだと一緒に行動してもうまくいかないんじゃないかなぁってなんとなく思ったんです。」

「……そうですか。やっぱりユイナっていい人だと思います。」

「うーん。わたしはメルリーの方がずっといい人だと思いますよ。」

「そうですか……、ねぇ。

 あっ、見えました。あそこのお宿ですよ。わたしは気に入ってます。」



 角を曲がると宿屋の看板が見えた。メルリーおすすめのお宿にはもう明かりがともり始めている。



意識的に読んでくださっている方はたぶんいらっしゃらないと思うのですが……、明日から更新時刻を20:00に変更させていただきます。

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