お姫様はポーカーフェイス 〜僕のこと大好きなお姫様、顔には出てないけど心が読める僕には通じないよ?〜
(ああ、好き)
僕の目の前で優雅にお茶を飲む少女から聞こえて来た声に、僕はいつものことながらドキッとした。
僕はディーン・ランパーレ。
この国の第三王女、イスティーナ・ジル・スピドーク・アヘンセラの婚約者である。
僕らの婚約は完全なる政略で、恋愛感情は皆無。イスティーナはいつもそっけなく、白い結婚になるのでは?だなんて囁かれているくらいだ。
だが、それがまったくもって見当違いだということを僕だけが知っている。
(ど、どうして私の方をじっと見ているの? まさか頬が緩んでいたのかしら!? 大変だわ、なんとか取り繕わなくては!!)
「あら、ジロジロ見てくるなんて不快だわ。もっと弁えてほしいものね」
冷たく突き放すようにそう言う彼女は、完璧なポーカーフェイスで内心などちっとも見せない。
もちろん、普通の人間にならば、ということだが……。
僕は他人の心が読める特殊体質を持っている。
まあ、僕個人というよりはランパーレ家の血を継ぐ者は必ずなんらかの特別な力を生まれながらに持っているものなのだ。
僕とイスティーナ王女の出会いは、まだ互いに七歳だった頃の話。とある茶会に出席していた時、こちらをじぃっと見つめてくる視線があるので気になって見てみれば、そこにイスティーナ王女がいたのだ。
(あ、あの子、かっこいい……!)
ツンとすましたイスティーナ王女の心の声を聞いて、僕は仰天した。
その頃の僕は少し女の子っぽくて可愛いと言われることが多かった。だがまさか、王女様から、しかも子供ながらに無表情と有名だった彼女が『かっこいい』と思ってくれるなんて思ってもみなかったのだ。
そしてその数日後に僕らの婚約は結ばれることになった。そう、他でもないイスティーナの意向によって。
だが彼女はそのことを少しも顔に出さず、ずっと政略結婚の相手として振る舞い続けている。素直な感情を言葉にするのが恥ずかしいらしい。……可愛い。
だが毎日一方的にイスティーナが僕をドキドキさせるのはずるいと思う。だから僕は、こう言ってやるのだ。
「別に取り繕わなくてもいいよ、イスティーナ。君が僕のことを大好きでしょうがないってことはお見通しなんだからね」
(――!!!)
赤面しそうな勢いで驚くイスティーナ。顔には出ていないが、(心臓がやばい心臓がやばい爆発するわッ!)という切迫した心の声がダダ漏れだ。
そんな彼女を眺めながら僕は、僕の姫君のことをたまらなく愛おしく思うのだった。