7話 食って死んで強くなる
「――死んでただって!? おい、お前は私の身体を……。こほん。それはどういうことだ高野?」
「いや、それが三鷹の身体に『核』が生成されたらしくて……。意図的に表層に移動させたのが負担になって、間違いなく1回死んだ。それでこんなに簡単に死ぬなら、首輪もそれ用のものを用意しないといけないと思ってな。新しく債務者を連れてくる業務は一度中断。首輪が出来上がるまでは、メイン業務の1階層の見回りをしながら三鷹の監視を――」
「なるほどなるほど。それじゃあその役、業務は私が全て預かろう。高野は債務者探しに欠かせない存在だからな」
「そ、そうか? 正直見回りの方が疲れるから嬉しいけど――」
「ということだ。今後しばらくは私が常に気にかけてやるやらな!」
郷田さんは俺との約束を知られたくないのか、出かけた言葉を誤魔化すと、心なしか早口で話を勧めた。
そんでちょっと嬉しそうな表情なのは……もしかして俺と居れて嬉しいみたいな?
やば、それだとしたらにやにやが止まらないわ。
「それで郷田、『魔石』の回収は?」
「ん。無事完了だ」
郷田さんは高野さんに向かって虹色に輝く不格好な石を放った。
大きさはペットボトルのキャップくらい。
『魔石』なんていう物々しい名前の割に宝石みたいに綺麗だ。
「……やっぱり小っちゃいな。オーガに一方的にやられるくらいの実力だから発病して……大体1か月くらい。苦労して連れてきてこの程度の成果だと、やる気が削がれる」
「といってもこれ1つの価値は100万イルはある。今月の給料もそこそこで、美味い飯が食えるさ」
「100万、イル?」
ここで扱われている貨幣の単位『イル』の物価レートは分からないけど、明らかに大きな数字。
あれがあれば俺も、美味いもんで腹一杯に……なるかなあ。借金の返済って月々どれくらいなんだろ? てか、そもそもここでの返済って月払いじゃなくて、もっと過酷な方式だったりするのか?
「そうか、お前……三鷹は。……。いや、清四郎にはまだモンスターの素材売却等について説明してなかったな。ちょうどいい。100万イルってのは……そう、大体そこに転がってるオーガの犬歯1万本くらいの価値だ」
「えーっと、ということは犬歯1つ100イル……。俺の借金は1億だから……100万本の犬歯が必要――」
「残念ながら1憶の借金はイル換算で約10億。オーガの犬歯だけで返済しようとすれば1000万本必要だ」
……途方もな。本当に完済できるの? これ。
「まあオーガは危険度の低いこの1階層でも素材の買取額の低いモンスター。もっと奥に進んだ場所や以降の階層に出現するモンスターからならもっと高額な素材を剥ぎ取れるから安心しろ。三鷹……清四郎ならもっと高額な素材を手に入れられるはずだ」
「優しい。あの郷田が優しい。それに下の名前呼び――」
「あまり詮索し過ぎると腹パンするぞ、高野」
「俺には厳しいままかよ。まあいいや。詳しいモンスターの素材の買取については、入り口にいる買取担当から聞くといい。それじゃあ発病も確認出来たことだし、1度地上に戻りたいが……三鷹、地上に戻ると俺たちはお前の側にずっとってわけにはいかなくなる。今のうちに質問があれば聞いてくれ」
質問ねえ。聞きたいことはまだ山ほどあるけど……。
「じゃあまず、借金の返済方法は?」
「通常ダンジョンから地上戻る際モンスターの素材を全て売却し、そこで得た額の半分が返済に充てられる。加えて地上に戻る際には買取額10万イルを超えてなければいけないって条件があるから……最低でも5万イルの返済になるな」
「地上に戻るのに10万イル!? それだと――」
「お察し通り、なかなか地上に戻れない奴らが結構な数いる。ただそういう奴らはしばらくすれば死んで魔石に変わるからな。借金を1円も返せないままってことはない。それで完済できれば万々歳。そうでない場合、お前と同じように相続した親族を連れてくるってわけだ。あ、因みにダンジョンには絶対再侵入しなければいけない。インターバルは……今は3日だったはずだ。それで、次の質問はなんだ?」
最初に自殺を選んだ奴……もう戻りたくないっていうのはここで地獄みたいな思いをして、ようやく地上に出ることが出来た経験があるから、ってことだったのかな?
「次は……高野さんも郷田さんも特別な力を持っている。ということは、発病してる。今の寿命って……」
「安心しろ。私たちは『借金を返済した』会社の犬。『魔素』に侵されたこの身体を延命する処置をとっている。私が死んで約束が反古になることはない」
「約束っていうのはよく分からないが、そういうことだ。それでこれも因みになんだが、俺たちはその処置によって『魔素』を大量に取り込むことが出来ているから、恒常的にこの強さ、身体能力を手に入れることができている」
「? それって……」
「つまり、魔素で満ちた、大量の魔素を内在している人間は通常寿命が短い代わりに『強い』ということだ。私が清四郎なら、といったのは――」
「うがあああああああああああっ!!」
「死にかけだ。危険はほとんどない。ほっとけば死――。三鷹?」
高野さんはほっとけばいいって言うつもりだろうけど……あんなこと聞いたらちょっと試したくなるよなあ!
「う、ぐ、ぎゅ、ごぐ……。……。……。……。……。……ぷはぁっ!」
「清四郎の奴……。なるほどオーガの死体食って死んで食って死んで魔力をこれでもかと取り込んでるのか。ふふふ、これは思ったより早く……。私もその時までには身体を磨いておかないと、よね」
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