6話 胸が……
「……マジで?」
好きにしていいっていうのはあれだよね、こう……揉んだりしてもいいんだよね?
なんか妙に、郷田さんが可愛く見えてきた。
いや元から顔は整ってるなって思ってたんだけど。……顔がちょっと赤くなってるのたまらんわ。
この胸の高鳴りはこ――。ん? 胸になんか違和感が――
「お前ら……。オーガの死体だらけの場所で何ラブコメしてんだよ……。ちょっと引くわ。それに郷田……お前あんなことされてそんな顔するとか、もしかしてドM?」
「ち、ちちちち違う! 私はただ『清四郎』に可能性をだな……」
「はいはい。とにかく郷田は死んだ探索者から『魔石』を回収してくれ。三鷹は……俺たちの『戦闘』と郷田の身体で借金返済へのモチベーションが上がったみたいだな」
「もうやる気満々! 咳ももう出ないし……最高のコンディションって言っても過言じゃないかもしれない。はは、1回死んでるし、いろんなところ齧られまくったのにこれって、信じられないわ」
「そうか。じゃあやる気のあるうちに、とりあえずお前の身体に起こったことと、『魔素』について説明する。と、その前に……。うん、もうこの辺りは大丈夫そうだな」
高野さんは俺たちの話に割って入ってくると、今度はそっと目を閉じた。
どうやら『自他索敵操作向上』で、辺りにさっきみたいな化け物がいないか確認したらしい。
便利な力だけど……。早くその使い方してくれてたらなぁ。
「さて、まず『魔素』っていうのはここ、ダンジョンで自然に発生している異常粒子のことで、これは人間にとって極めて有害なものになっている」
有害。
それは男を食った時に体感した。あの体の中に満ちて膨らむ感覚……思い出すだけでゾワゾワする。
「というのも『魔素』は一定量を取り込むと体になじみ、死ぬまで体外に排出することができなくなるから。体内に留まった『魔素』は時間をかけて膨張、ほとんどダンジョンに潜らない状態だったとしても5年から……確か最大で10年だったかな? 今みたいに全身から血を噴き出して死ぬ。これを俺たちは『魔留体』と呼び、病として認知している」
「5年から10年の寿命になる病気か。……。なぁ、そんなところにろくな説明もなく連れてくってお前ら相当ヤバくないか?」
「金は命より重い。債務者にはその命を懸けてでも借金の返済をしてもらわなければいけない、っていうのが社長の考え。で、それはダンジョンから資源を得たい日本国にとって都合のいい考え。だから、こんなヤバいことをしていてもうちの会社はお咎めがない。それどころか、いろいろな支援を国から受けている」
「日本終わってるな」
「ああ。この国は終わってるよ。それで話を『魔素』に戻すが、『魔素』はこの世の奇跡、超常現象を引き起こす力を持っている。それは一定量、『魔留体』を発病させる量と同じ。だからお前も『魔留体』になってすぐにその不死身の身体を併発できた。通常発病するまでもう少し時間が掛かるから、初めてダンジョン侵入に俺たちがついてきてやってるってわけだ。……ここまでは大丈夫そうか?」
「まぁ理解はできたけど……。その病って化け物も――」
「モンスターな。奴らは人間と違って、ダンジョンに適応した体になっているから、むしろ『魔素』は力の源になっている。ただ、『魔素』を取り込み、体外に排出できる器官、『核』にだって限界がある。短い期間で取り込める『魔素』の限界を超えたから、オーガたちはお前の身体を食って死んだんだ」
「核、ね。じゃあ俺のここに感じる……よっと、これも『核』ってやつ……。ってちょっときもいな」
「それは!?」
俺は自分の胸に感じる違和感をぐっと押し出した。
すると、自分が思っていた以上にグロテスクで青黒い内臓が浮き出し……なんか吐き気が――
「う、ぐっ。……。……。……。……。ぷ、はぁっ! はぁはぁはぁはぁ! やば……。多分だけど、今俺死んでなかった?」
「気配は完全に消えてた。なぁ三鷹、とっさに、簡単に死ぬのやめてもらえるか? あー、新しい首輪はちょっと設定変えてもらわないと。うわ、めんどくさ」
「いや、もっと心配してよ! 俺死んでたんだよ!」
お読みいただきありがとうございます。
モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。