4話 すげえすげえすげえすげえすげえ!!! ……
「っつ……。 おいうすのろ! そんな中途半端な『魔素』しか内在してないやつより私の方が美味そうじゃないか?」
「が? ……ぁあああっ!!」
化け物の正面に立った郷田さんは歯で自分の手を傷つけると、滴る血を見せつけわざとらしく見せつけた。
そして化け物は、そんなあからさまな『罠』に躊躇することなく応じ、その手に握っていた男を大事そうに木の根本に置くと、いきなり突進。
デカい図体の割には足は速いみたいだ。
2本の角に赤い身体でまさに鬼って見た目。最悪のリアル鬼ごっこってわけだ。
「よし、いい感じにあの探索者との間に距離が生まれたな。多分大丈夫だろうけど年には念をで……」
「高野、さん?」
高野さんは視界に映っているはずなのに、そこにいると認識するのが難しい。
なんだ、これ?
足音、匂い、服の擦れる音、呼吸、なにもかもの音がまったく聞こえなくなった。
「……。説明したほうがいいか。今のは『魔溜体』発病の時に併発した力。登録名はそのまんま『自他索敵操作向上』。三鷹の住んでる場所、あの廃墟を見つけるのもこれを使って――」
――ドンッ
「うがああああっ!!」
「ちっ! 遅いけど、なかなかパワーのある個体だ、ねっ!」
高野さんの存在感が復活して、説明が耳に入ると、肉と肉がぶつかり合う音がこだし始めた。
化け物のぶっとい腕と、ムチムチな郷田さんの脚でのぶつかり合いは、ぱっと見互角。
とはいえ、郷田さんがあんな化け物に勝てる想像がつかないよ。
「高野さん! 早くあっちで伸びてる奴をこっちに! そしたらいつでも俺が担いで、安全なところに移動できるだろ! とにかく高野さんは急いで郷田さんの加勢に行かないと!」
「分かってる分かってる、気持ちは分かるがそんなに慌てるなって」
「でも――」
「あいつはまだ『普通』に戦ってるだけ。余裕もいいところだろうから、さ」
「また、消えた。今度はもう、目でも……。『力』ってなんなのかよくわかんないけど……とにかくすげえっ!」
恐怖が吹っ飛ぶくらいの衝撃。
こんな芸当普通の人間には到底無理。まるでゲームの世界に入ったみたいで……ちょっと興奮してきたんだが。
「すげえすげえすげえっ! 発病がどうのこうのとか、よくわかんないけど、俺もそれ欲し――って早っ!」
「連れてきた。悪いがさっきの言葉通りこいつは任せた。あ、怪我は派手だが、しばらく死にそうにないし、首輪も爆発しないから安心しろ。ふー、郷田は遊び癖があるからやっぱり俺も加勢してくる」
一瞬で戻ってきた高野さんは、俺の目の前に片腕を亡くした男一人置いて、また姿を消した。
もしかすると、初めて郷田さんの攻撃を受けたとき、あれって高野さんの力も影響して――
「うが?」
「やっぱり」
高野さんが加勢に向かうと、信号の点滅みたいに郷田さんの姿が消えたり現れたりを繰り返し始めた。
化け物は郷田さんの姿を上手く捉えきれないせいか、その拳で何度も空を切る。
これが『戦闘』ってやつなのか。すっげえ、かっこいいじゃん!!
「って、感動してる場合じゃねえよな。おい、大丈夫か?」
「駄目だ、あんなの勝てるわけがない。勝てるわけが……」
「おいおいおい、しっかりしろって。ほらあれ見て見な。圧倒だよ、圧倒――」
「あんな『奴ら』勝てるわけがないんだっ!」
「え? 『奴ら』?」
「「――うがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
土の中から同じ化け物が何匹も……。
なるほど。ここはこいつらのテリトリーで、高野さんたちが戦ってる奴は下っ端で囮ってわけね。
「こいつ1匹だけだと思って……。くそっ! この仕事する前は再三全体索敵の癖付けはしないとって言い聞かせてたのに……おい三鷹! 急いでここから逃げろ!」
「分かってる! おいお前、いてえかもしれないけど我慢――」
――コホッ
咳? そうだ、今のは俺の咳だ。
風邪なんか引いてなかったし、なんか詰まらせたわけじゃない。
それなのにいきなり、どうして……。
「こほ、げほっ! う、うぉえっ!! な、なんだよこれ? 咳だけじゃねえ、血まで……」
「『発病』か。最悪のタイミングだな。これも私のスカートを覗いた罰なのかも……。とはいえ、あの耐久力、図太さ……期待していたんだけどね。残念だよ」
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