3話 ここが、ダンジョン
「――入場ですね。それでは『500イル』お支払いお願いします」
「500……イル?」
「おい、勝手に行くなって! あー、こいつ今日初めてだから……」
「あっ、そうなんですね。でしたら初回無料で入場いただけます。そちらの探索者様、次回からは入場料が掛かりますのでご用意をお願いしますね。ご用意できない場合はあちらでお借り入れもできますから」
怖い顔を見せた郷田さんの気を逸らそうと、一際人の多い場所、多分そのダンジョンの入り口だと思うところまで一直線できてしまった。
ただ、入場の係りの人がいるものの、入口らしい所は見当たらない。
相場は階段とか、扉とかだと思うんだけど……もしかして、その整備もされていない『穴』が入り口? というか何? 500『イル』って……。
「……。『イル』っていうのはここで使われている通貨だ。これの価値については……買取、あるいは返済の時に確認しろ。それよりここでたむろしてると後ろが詰まる。さっさと入口、その穴に入れ。奥の方にあるのは出口だから間違えるなよ」
俺の考えを察してくれたのか、仕方ないといった様子で教えてくれる郷田さん。
やっぱりその穴が入口だったか……。あっ、ちょっと待てよ。これって直下するやつだよね? だったら……。
「了解! でも初めてで不安だから直ぐ追ってきてもらってもいい?」
「わかったから早くしろ」
「はいはーい……。うおっ!」
穴に足を突っ込む。すると中は滑り台のような構造で、勝手に身体が滑っていく。
どうなってるのかわからないけど、ちゃんと灯りもあって……これ、ちょっとたのしいかも。
でも、俺の楽しみはここから……。
――しゅぅぅぅぅぅぅ
この衣擦れ音。約束通りすぐに郷田さんが……。
であれば……。
「やっぱり、見える!」
「ちょ、おま、まさか……。み、見るなぁあああああああっ!!」
必死に手でスカートを抑える郷田さん。
でもね、摩擦でスカートがずり上がるプラスこの角度ならちらちらとその白いパンツが見えるんですよ。
あ、よく見るとかわいいレースが付いてるな。
「――絶景かな絶景か、なっ! って、いてぇ……」
郷田さんの羞恥声とパンチラを楽しんでいるとあっという間にゴール。
さっきまでのばっちり整った綺麗な床とは違って、草の生い茂った地面が俺を出迎えてくれた。
「ここが、ダンジョン」
「そうだ。空気中の『魔素』によって、人間以外が生きるために最適な環境を作っている。それで感動しているところ悪いが、流石に1発殴らせろ」
地下だってのに広がる青い空。それに生い茂る草木や小川。
物静かな雰囲気が俺の心を清らかなものにして……殴られてるのに、心地がいいのはそのせいかな?
「セーフティゾーンっていってもここはもうダンジョン。あんまり馬鹿なことをやってるなよ郷田。三鷹も今から説明することをしっかり覚え――」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
男の絶叫。というか断末魔?
かなり近いようだけど……一体何が。
「ちょうどいいか。買取場所の案内をするよりも先にここ、ダンジョンがどういう場所なのか見せてやる。ついてこい」
神妙な面持ちで歩き始める高野さんと郷田さん。
その足は目の前の森林に真っ直ぐ向かい……そして、凄惨な光景の映るそこで止まった。
「やっぱりオーガ、か……。捕まってる奴は……生きてはいる、が……」
「最近は債務者、いや探索者も数が少ない。前までなら見殺しでよかったが……。高野っ! 私がオーガの気を引くからその間に探索者を頼む」
「了解。さて、三鷹。これから借金返済のために必須な『戦闘』を見せる。殺されないように距離を――。……。そうだよな。初めてってそうなるよな」
人間を片手でつかみ上げ、嬉しそうにその腕を齧る化け物。
血で汚れた口元には一切悪意が見えない。
これが弱肉強食、自然の摂理。
ダンジョンでは、俺たち人間でさえ『餌』に成り下がる。
「はは、こっわ……。脚が、笑ってらあ……」
お読みいただきありがとうございます。
モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。