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13話 こぶしでっ!

「まずいっ! この距離じゃ――」

「2人は退いてなっ! 郷田さん! 2人を頼む!」


 俺は慌てた様子の男の人たちの身体を脇に挟んで担ぐと、できるだけ遠くへ、思いっきり放り投げた。


 痩せ形の2人だったけど、大人2人だし、きついかなって思ったけど……さっき食っといた分が効いたのかな?自分が想像した以上に飛んでくれてる。


「うわぁあっ!」

「な、ななななななんつぅ、怪力だよっ!?」

「まったく清四郎の奴、私に余計な仕事を……」


 驚く2人を、どこからともなく現れた郷田さんがキャッチ。

 すぐさまその場から離れていく。


 俺のこと見てくれていたのは分かってたし、助けてくれるのも分かってたけど……あんだけ食ってもまだまだ郷田さんには力で勝てないんだな、俺。


「ありがとう、郷田さん! 帰ったら何かお詫びさせてよ! なんでもいいよ!」

「な、なんでも!? 今なんでもって言ったか!? ふ、ふふふふ。清四郎の奴、割に合いすぎる仕事を……」


 な、なんかいやぁな笑い声聞こえたけど……今はいっか。

 それより……。


「これで一対一だな。待っててくれてありがとよ」

「……」


 離れていく郷田さんたちを茫然と見送るオーガプリースト。

 驚いて動けないのか、それとも……。


「うがああああああああああああっ!」

「お楽しみを奪われて、怒っちゃったか。まるで子供だな」

「う、あがぁあぁぁあっ」


 うなり声と共に掌で複数の火球が作られる。

 そして、それをなぎ払うようにして、一気に発射。

 一個一個はそこまで大きくないが、範囲が広すぎて避けるのが難しい。

なら、そのまま突っ込むしかないよな!


「よっしゃやったるぞぉおぉおお……あっちっ! あっ、う、あああっ! ……。……。ぷはぁっ! よし、復活!」

「うあ?」


 着弾した火球に身体を一気に燃やされたけど、火は身体の再生と共にかき消されて、復活した瞬間には熱さを感じなかった。

 殴られて殺されるより、死ぬのに時間が掛かるこっちのが遥かにきっついなぁ。


 指切って身体を食わせるのと、火で身体が焼けるのでダブルパンチは頭おかしくなるかも……。

 ちょっと今回は殴り合いで片をつけさせてもらお。


「もちょっとポカーンしてくれよ……。おらあっ! ――あっ?」


 ――バキッ!


 顔面の骨逝った。勿論俺のが。

 このやろう、咄嗟にカウンターとかやめろよ。

 ま、俺の拳も届いてはいるんだけど、ねっ!


「うがっ!」

「うっ!」


 距離を詰めたせいか、それとも、俺と同じで殴り合って殺すことにムキになってるのか、俺たちの拳は何度も何度もすれ違って互いの頬を赤くする。


 にしても、普通のオーガと比べてオーガプリーストはタフ過ぎる。

 単純な殴り合いは、今の俺じゃあ分が悪いな。



「――う、くっ……。……。ぷはぁっ! こ、いつさっさと死ねやっ! こっちはもう、お前に5回は殺されてんだ、ぞっ!」

「う、あぁぁ……」

「はぁ、はぁはぁ、んっ、はぁはぁ……うっしゃあ! お・れ・の・か・ちぃいいいい!」


 泥臭く戦うこと30分ほど……オーガプリーストはゆっくりと地面に倒れ込んで口からどろっと血を吐いた。


 めちゃくちゃ気持ちいいけど、しばらくこの戦い方はやめよ。


「おーいっ! こっちはもう大丈夫だぞ!」

「……なんだよ、今の。お前、もしかしてモンスターか?」

「ちげぇよ! ただの『不死身』で……ランク1の探索者だ!」

「は、ははは。これが、ランク1……。信じられん……」

「お、俺も……は、はは」


 男の人たちからパチパチと拍手が……。

 ヤバい、オーガプリースト並みのどや顔が出そう。


「そ、そんな誉めるなって! あ、俺は奥のオーガプリーストも倒してくるから、特別にこっちはあんたらにやるよ! そんじゃあな! て、郷田さんもう消えてるし……」

「あ、ちょ――」


 何か言われかけたけど、今の俺はヒーロー気分。

 ここで去るのがカッコいいと思うお年頃なのさ。


 ――いや、ちょっとカッコつけすぎて、ださかったかな?


 ……。……。……。あー、時間が経てば経つほど恥ずかしく――


「うがあああっ!」

「お、いたいたモンスター」

お読みいただきありがとうございます。

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