10話 格差社会極まる
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「――久々に来てみたけど……。こんなに汚かったかな? ここ」
「うわぁ……。ここが俺が住む場所。……最高じゃんっ!」
郷田さんは汚いとか言ってるけど、そんなことない。
ベッドの布団カバーはちょっと破けてるし、フローリングには焦げたみたいな痕が点々とあるし、台所のシンクは水垢が溜まって、布団はたばこみたいな匂いが若干あって、全体的にちょっと埃っぽいけど……激安物件のクオリティってだけ! 隙間風は少ないし、雨漏りの跡ない! ちゃんとユニットバスがあって、ミニ冷蔵庫、テレビ、それに洗濯機が外に備え付きされてる。
広さはベッド1つで殆ど埋まってるけど、別に部屋で運動するわけでも何か飾るわけでもないから気にならない。
本当にここで暮らしていいのかよ。しかも家賃なしで。
「水道、電気、ガス。ライフラインに関しては全て国が無償で提供してくれているから、使い放題。変にケチらなくても大丈夫だぞ。ただネット環境に関しては、ダンジョン街全体で使用できるフリーWi-Fiしかない。どうしても回線工事が必要な場合はそれなりに『イルがいる』」
「あっ! それ親父ギャグ?」
「ち、ちがぁう!」
ベッドの上に1つ置かれた枕を思い切りぶつけられる。
うん。枕は結構柔らかいタイプね。
「まったく……。でも、満足してくれたみたいで良かった。お坊ちゃんの債務者とかだとこんなところで暮らせないとか言って駄々をこねる時があってな」
「え? それ贅沢過ぎん?」
「同意だ。だが、満足しないというのもダンジョンへの意欲を高めてくれる。現在そいつは、ランク6までいってたかな?」
「その、気になってたんだけどランクって何?」
「ダンジョン街に住む人間、個人個人の価値を現す数字だ。ランクは借金の返済状況、ダンジョンの到達地点、モンスターの素材の買取数、価値の高い素材の買取、イベントでの活躍、商人の場合売り上げというか会社への支払い額で決まったりする。細かく何をどうするとどれくらい評価を上げてくれるのか、そんな細かい基準までは流石に分からないが、とにかく死ぬことなく頑張っていればそれなりに報われるシステムになっている」
「へぇ……。それってすごい優しいシステムじゃん」
「……そう思うのはまだ早いぞ。ランクってものがあるから格差が生まれる。格差が生まれると人は人を見下――」
トントントン。
「……。早速それを実感できそうだな。ちょっと出てみるといい」
「?」
部屋の扉をノックする音。
こんなの誰かが挨拶に来ただけじゃないの?
「はーい、どちら様――」
「おい! お前! 俺様の横に住むことになったんだから部屋でくつろぐ前に挨拶だろ! たく、新入りはこれだから……」
「はぁ……」
「『はぁ……』、じゃねえっ! 名前とランク、それと罰金300イルよこせ」
「俺は三鷹清四郎。来たばっかだから多分ランク1。……って300イル?」
「当然だろ。このアパートが取り壊されないのはこの俺、ランク3の鬼頭亮介が住んでやってるからだからな! もし支払わないって言うなら、ちょっとばかし痛い目見てもらうぞ。おい、外にで――」
「清四郎の案内は私が務めている。挨拶する前に部屋に上がらせたのは勿論私。その文句はランク10で社員の私に向けられたものだと判断できるな」
「……。ちっ! おい、そっちの新入りっ! 今回は許してやるがこの部屋でうるさくしたり、外で俺様に会った時挨拶がなければ、その時こそ罰金を払ってもらうからな!」
――ばたん!!
部屋が揺れたかと思うほど強く扉を閉めて帰って行った。
お前のがうるさくしてんじゃねえか。
「なんか、とんでもない奴だったな」
「いや、あんなのは優しい方だ。ランク制限のかかった場所付近はもっとやばい」
「うわぁ、まじか」
「施設やその店が設けてるランク制限。それらがある場合、一目でわかる場所にその旨を記載する必要がある。大丈夫だとは思うが、買い物をする時なんかは気を付けろ。無難なのは会社が直接運営している店だが……あそこはあそこでいろんなランクの奴らがいるからなかなか……。ま、清四郎は死ぬことがないんだし、余裕をもって行きつけの店を見つけるといいさ」
「……やっぱ俺、自由がいいや」
郷田さんはその後も、ダンジョン街の施設、暮らし方についてレクチャーをしてくれると、連絡先を紙に書いて名残惜しそうに去っていった。
これすぐ連絡してあげたいけどさぁ。
公衆電話1回30秒で300イル。ガラケー50万イル、スマホ120万イルとか……生き辛すぎないここ。
あーあ。めっちゃいい場所だと思ったのに……。寝て起きたら早速ダンジョン行くしかないな。
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