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短編集 ぼくの、わたしのシリーズ

ボクのおしごと

作者: 瑛

ボクは地面に立っている。何をするでもなく突っ立っている。


あー、足が冷たい。またこの時期がやってきた。にぎやかな季節が。


水しぶきの音と一緒に黄色い声が飛び交う。そしてたまに響く怒声。


微笑ましい光景。水の温度が高くなっているような感覚。ボクの心は暖かくなっていく。


辺りに力強い歌声が鳴り響いている。それに合わせて徐々に家族が増えていく。


まだ、青々とした背の低い家族たち。辺り一面兄弟で埋め尽くされていた。


そしてそれと同時に静けさに包まれる。寂しさはない。


だってボクには守らなきゃいけない家族がいるのだから。


ここには沢山の訪問者がやってくる。家族よりも小さな訪問者たち。


そして、時が経ち訪問者たちは隣人になっていた。


すいすいと泳ぐもの。時には水面を滑っているものさえいる。


ボクの周りはにぎやかになっていく。


ただ、その隣人を狙うハンターがやってくる。


ハンターは明るい昼間が苦手で暗い夜中に暗躍する。


ボクが目を覚ますと隣人が一人また一人といなくなっていく。


ただ、この恐ろしいハンターも子ども思いの面もある。


ボクの足元で子育てをしているのだ。子どもに付きっ切りで面倒を見ている。


まあ、子どもも獰猛で隣人が減っていくんだけど。


ハンターはいつの間にかいなくなっている。そして周りは以前のにぎやかさはなくなっていた。


敵はボクの家族にもやってきた。家族をいじめるものが現れる。


食べ物を取って行ったり、時には直接的に攻撃してくるものもいた。


ボクの家族は元気をなくしていく。ただ、ボクはこいつらには無力で見守ることしかできない。


そこに面倒見のいい隣人が越してきた。あっという間にいじめっ子たちを撃退していく。


その家族たちはブクブク太っていく。なぜだろう。


不思議に思いながらも僕は隣人に感謝をする。



家族たちが育ってきた。まあ、まだ僕を超すことはないだろうけどね。


この時期の夜は賑やかだ。隣人の大合唱。それに幻想的な景色が広がる。


点滅する光が辺り一面に広がり、ボクは星空のなかに紛れ込んだみたいだ。


家族も嬉しそうにゆらゆら揺れている。惜しみながらも僕は眠りにつく。


ボクの足元に水はなくなっていた。別れの季節がやってきたみたい。


嬉しいような、寂しいような複雑な感覚。


隣人も水中から空中に住居を変える。最後に隣人たちはボクの肩に乗っかってきた。


そして、肩から飛び立ち、ボクの目の前を旋回する。別れの挨拶をするように。


そして隣人たちは、遠く遠くへ飛んでいく。一人また一人飛んでいく。


飛行機が無数に飛んでいくような光景。


足元が水分を失い硬くなっている。ボクまで干からびそうだ。


家族が育ち、黄金色に輝いてきた。そしてボクの体も追い抜きそうである。


そろそろボクの仕事がやってくる。奴らが空中から家族を狙っていた。


ボクは睨みを利かせて奴らを追い払う。奴らはむざむざ帰っていく。


ふん。他愛もない。でもたまにだけどボクを怖がらず頭の上に載ってくるやつなんかもいる。


ボクは冷や冷やして仕方ない。でも奴らは一瞬で逃げていく。


辺りはキラキラ光るもので一杯になっている。光は奴らの天敵だ。ボクの次にね。


そしてまた、にぎやかになる時がきてしまった。ボクの仕事の終わりを告げる。


どこか前とは変わった黄色い声。ギラギラ光るものが点々としている。


ボクの家族も一人また一人旅立っていく。黄金色に輝いている体を揺らして。


徐々に周りが拓けて、空気に触れる面積が大きくなり寒さが直にやってくる。


ボクの足は動き出した。ゆっくりゆっくりと。



そしてボクは薄暗い部屋のなかで永い眠りにつく。



次のボクの仕事がやってくるその日まで。


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