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 魔法2

前々回、UP後にそこそこのボリュームを改訂しています。^^;




 エチエンヌは簡単に言ったが、どう考えてもそれは簡単ではなかった。

(絶対に無理だから。そんなの、出来る気が全くしないから)

 心の中で叫ぶ。

 やる前からあたしはちょっと諦め気味だ。

(自我を持っている動物の目や耳を借りるって、ほぼ憑依だよね? 乗り移っているよね?どう考えても)

 最初からハード過ぎる。

 だが、エチエンヌは妙にやる気だ。

「わたしが教えるから一緒に頑張りましょう」

 にっこり笑う。

 このポジティブさはどこから来るのだろうと不思議に思った。

 だが、エチエンヌが教えてくれるのはとても嬉しい。

 そしてやる気満々の推しに嫌だと言えないのが乙女心(ちょっと違う)だ。

 しかしそんなことをしてエチエンヌの立場は悪くならないのだろうか?

 あたしは心配になる。

「勝手な約束をして、大丈夫ですか?」

 あたしは聞いた。

 いくら王子妃だといっても、勝手なことは許されないだろう。むしろ王子妃だからこそ、周りの目は厳しいかもしれない。

 エチエンヌの立場があたしのために悪くなるとしたら本末転倒だ。

「大丈夫よ。まあ、少し根回しは必要だと思うけど。魔力で役に立たない分、そのくらいのことはわたしが頑張るわ」

 穏やかな顔でそう言う。

 中の人はあたしが思っているより頑張り屋さんのようだ。

 仕事とかで損するタイプに思える。一番大変なところを引き受けちゃう人だ。

(あたしも自分が出来ることはがんばろう)

 口には出さないが、そう思う。

 エチエンヌを助けたかった。

「いろいろ手を打つ必要があるから、次に会えるのは来週くらいかしら。この一週間、何もしないのは勿体ないわね。フライングで少しだけ魔法について教えるから、次に会うまで宿題をやってきてくれない?」

 にこやかな顔でエチエンヌはなかなかスパルタなことを言う。

「はい」

 あたしは返事とは裏腹に微妙な顔をした。

 あまり自信がない。

 魔法なんて当然、初めてだ。

 自習できるものなのかと疑問に思う。

 そんなあたしを見て、エチエンヌはくすりと笑った。

「そんな顔しなくても、大丈夫よ。難しいことを教える訳ではないから」

 緊張で顔が強張っているあたしを慰めてくれる。

(推しが優しすぎる)

 あたしは感動で震えそうになった。

 じっと見つめるあたしを少し不思議そうにエチエンヌは見る。

「布団圧縮袋って知っている?」

 唐突に奇妙なことを言った。

 一瞬、あたしはきょとんとする。

「あの、布団入れて、掃除機でがーっと空気を吸うと、布団がぺた~ってなるあれですよね?」

 わたしの言葉に、エチエンヌはこくこく頷いた。

「そう、それ。その布団圧縮袋をイメージして、自分の魔力を圧縮して欲しいの」

 説明する。

 どうやらそれが宿題のようだ。

「言いたいことはなんとなくわかりますが、どうしてですか?」

 何故、そんなことをするのか聞く。

「簡単に言うと、魔力量を増やすためよ」

 エチエンヌは答えた。

「魔力ってね、勝手に湧いてくるけど、容量が決まっていてそれがいっぱいになるとそこで打ち止めなの。でもそれは逆に言えば、空いてるスペースがあればどんどん湧いてくるってことでしょ? だから空き容量を増やせば魔力量を増やせると思うの。……たぶん」

 最後はちょっと曖昧にエチエンヌは言葉を結んだ。

 それを聞いて、あたしはお祖母ちゃん家の押し入れを思い出す。あたしが祖父母の家で暮らし始めた頃、祖父母はあたしの貯めに布団を一式買ってくれた。でもすでに押し入れの中はいっぱいで、あたしの布団を入れるスペースはない。そこでおばあちゃんは布団圧縮袋を買ってきた。あたしの目の前でそれに布団を入れ、空気を抜く。薄っぺらくてかちかちになったそれの体積は減って、無事にあたしの布団は押し入れにしまわれた。

(あんな感じか)

 凄くイメージがしやすい。

「じゃあ、さっき見せてくれた靄みたいなのをビニールの袋いっぱいに詰めるのをイメージして、それを掃除機で吸って薄くしてみます」

 あたしの言葉に、エチエンヌは満足そうな顔をした。

「そういう風に具体的にイメージした方が魔法は扱いやすいのよ。真希はけっこうセンスがあると思うわ」

 褒めてくれる。

(褒めて伸ばす主義なのね)

 あたしは納得した。

「ところで、どうしてたぶんなんですか?」

 疑問に思ったことを聞く。

「自分で試して実感しているけど、他の人に教えたことはないし、教えるつもりもないから検証できなくて」

 エチエンヌは答えた。

「魔力って強ければ強いほどいいという単純なものではないの。強すぎる魔力は嫌悪されるし、危険視される。だからわたしも魔力は一部しか人に見せていない」

 なんとも微妙な顔をする。

「だから、真希もこのことは内緒ね」

 小指を差し出された。指切りを求められる。

「はい」

 あたしは自分の小指をそこに絡める。

 約束した。












エチエンヌはにっこり無茶ぶりタイプです。


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