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第8話:調査続行

「どうだった? ハイドライルでの1日は」


 結局あの後はまっすぐ宿屋に帰って休憩(というか昼寝)して、日が沈んでからまた外に出て酒場で飯を食うことになった。エルダは酒は飲まないらしいけど、収穫があったからか機嫌が良さそうで、まさしく年上のお姉さんって感じで「どうだった?」ときた。今日の感想かぁ。


「んー、まあとにかく新鮮だったよ。慣れるのには時間かかりそうだけど、エルダといれば水操術とか水虹のことを色々聞けるし、生活にも困らないし」


 そう答えると、エルダはより一層機嫌が良さそうな笑みを見せた。


「それじゃあ、明日からもよろしく、ということでいいのかしらね」


「ああ。俺は俺で元の世界に帰る手掛かりが欲しいからな。こっちこそ“よろしく”だ」


 その辺で店番とかレンガ積みしてたって手掛かりは見つからないだろうし。


「そうだったわね」


 エルダが歯を見せて笑う。なんか、都合の良い助手ゲットみたいな反応にも見えるけど、俺は俺で強力な旅のお供が付いてくれた訳だし、お互い様だと思うことにしよう。


「ん~~、美味し♪」


 エルダが肉を頬張る。ナイフとかフォークはあるけど、その辺の野郎共と所作は変わらない。確かに美味いな、これ。


 帰りがけに明日の朝飯を買って宿屋へ。1日が終わる訳だ。初日なだけあって色々と新鮮だったな。明日からもまた、ゾナ湿地林の池の底か。


「明かり、弱い方がいい?」


「いや、大丈夫だ」


 俺は特にすることもないから寝るしかないけど、エルダは机に本を開いてペンも握っている。卓上のオレンジのライトで照らされる頬が、シャワーを浴びた直後だからかキラリとする。船を操縦したりイノシシを狩ったりしてたイメージが強く残ってるけど、学者肌でもあるんだな。昨日は同じタイミングで寝たけど、初日だったし合わせてくれたのかも。


 視線に気付いたのかエルダがこっちを向いた。俺は既にうっすい布団の上で横になっている。


「それじゃあ、おやすみなさい」


「ああ。おやすみ」


 エルダに背中を向けて、目を閉じる。疲れてたからか、眠りにはすぐ落ちた。


 --------------------------------


 翌朝。俺たちはまたゾナ湿地林へと向かった。川上りで操縦する船は、川の抵抗があるからか減速の応答が早くて下りの時よりも楽だった。それでも馬力があるからアクセル全開にするとスピードは出る。


 川をのぼりきり、湿地林に到着。


「今日は、あの辺りね」


 エルダが池の水を跳ね上げ、今日のポイントを指示する。当然、昨日からちょっと動いたぐらいの場所だ。


「このペースだと、あと7日ほどで終わるはずよ。途中で狩猟に回す日も出ちゃうけれど」


「その辺はエルダに任せるよ」


 池の底を調べるための水操術で疲れるのと、生活費は狩りで稼ぐ必要がある。俺はマジでアシスタント程度だし、リーダーに任せよう。


 昨日と同じようにエルダが池の水を割いて底に下りて、水が落ちて来ないよう維持しつつ泥の中の水も動かして大きな石を探す。


「この辺りにはないわね。一旦移動しましょう」


 どうやら不発だったみたいだ。エルダが船に上がって来て、両サイドの水の壁を船の下に回して浮上。と思ったらすぐに止まった。


「このまま横に移動するわよ」


「え?」


 聞き返したけど、エルダは返事をせず水操術で左の水の壁を割いた。ああそうか、わざわざ上に戻らなくても移動できるのか。大した移動距離じゃないし。

 エルダが水を割いてできた道に、船を進める。用済みになった後ろの場所は、少しずつ閉ざされていく。相変わらず怖いな。


「止まって」


 10秒もしないうちにストップが掛かった。船を止めるとエルダは下の水を両サイドに払って船を降り、再び泥の中を調べた。


「ちょっと怪しい所があるわね。行ってみましょう」


 今度は大きな石が見つかったらしく、エルダがその方向の水を割いた。歩いた方が手っ取り早い距離のようだ。スコップを2つ取って、俺も船を降りた。


「ありがとう」


 スコップをエルダに渡して、歩く。目的地にはすぐに着いた。


「深さは昨日と同じぐらいよ。頑張りましょう」


「いよっし」


 作業開始。腕が疲れたら休んだりしつつ、15分ほどで石にぶつかった。


「うーーん、ハズレかも知れないわね」


 エルダが呟いた。明らかに、昨日の石板とは色から違う。一応掘り起こしてみたけど、やっぱりただの石だった。


「仕方ないわ。一旦上に戻って休憩しましょう」


 エルダは、こんなのはザラだと言わんばかりだ。本当に、昨日がたまたま良かっただけで、いつもはこんな感じなんだな。船に戻り、池の上にも戻って休憩。


「ふぅ、お腹すいちゃった」


 エルダは、川上りの途中で狩った魚をカゴから取り出し、鉄板みたいなやつ(スタビリウムって材料だっけ)の上で粉に水を掛けて火を起こして焼いた。昨日も見た光景だけど、金属の粉と水だけで火が起こせるなんてな。俺も便乗して、朝買ったフランクフルトを炙らせてもらった。


 30分ぐらい経ったところで、エルダが立ち上がった。


「さ、続きをやりましょうか」


「うし」


 昨日は1回だけだったけど、基本は何回かやるのか。こりゃ骨が折れそうだな。



 結局、池の底には4回行ったけど今日は収穫ナシだった。夕方と言うほど空は朱くなってないけど、日は結構傾いてる。


「こういう日もあるわ。むしろこういう日の方が多いわね」


「だろうな・・・」


 分かってはいても、地味に堪える。確かにこれは、夢とか目的でもなけりゃできることじゃない。


「あんまり無理はしなくてもいいわよ。倒れられても困るから」


「ああ。自分のペースで休ませてもらうよ」


 具合が悪いと言えば丸1日休ませてくれたりもしそうだ。でも俺は俺で元の世界に帰るっていう目的があるから、できる限り手伝わないと。


 --------------------------------


 結局、池の底の調査を3日繰り返したけど、あれ以来の収穫はなかった。俺が加わっててから進んだ分と残ってる分が同じぐらいだから、あと3日か。


「んん~~っ。明日は狩猟にしましょうか。少し疲れたわ」


 さすがのエルダも、ぶっ続けでやり続けるのは辛いらしい。それでも狩りをする余力はあるってのが凄まじいけど。


「完全に休憩ってのはしないんだな」


「大した労力は掛からないし、休憩のようなものよ。あなたも、見てるだけか街で休んでていいわよ?」


「俺も行くよ。狩りの方にも早く慣れたいしな」


 それに、エルダと比べてたら“疲れてる”って言えるか怪しいし。


「いい心掛けね。頼りにしているわ」


 どこまで役に立てるかは分からないけどな。



 街で晩飯を食べて、宿屋に戻った。


「せっかくだから明日はハーバー湖に行きましょうか。ゾナ湿地林ばかりじゃつまらないでしょう」


「うん、たまには違う場所がいい。気分転換にもなるし」


 クマも出るって話だけど、ビビッてばかりもいられない。とか言いつつ、


「ハーバーベアってのは凶暴なのか?」


 やっぱり気になる。


「そうね・・・性格だけで言うとイノシシと変わらないけれど、パワーがあるから槍や水虹銃で数回攻撃したぐらいでは倒れないわ」


「マジかよ・・・」


 1人で10体狩って来たら話題になるだけはあるな。


「その分高く売れるのと、お肉も美味しくて毛皮の質もそこそこよ。けれどまずはイノシシに、あっちはシカも出るからトオルはそれで練習ね」


「そうだな」


 いきなりクマと戦わせられたんじゃ堪らん。明日はエルダにとっては休憩でも、俺にとっては緊張感のあるものになりそうだ。

次回:狩猟日

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