第7話:池の底
「池の底?」
地面に埋まってるらしい、古代人が残した石板を探すことになっていて、どこを探すのか聞いたらエルダが指差したのは斜め下、池だった。
「そうよ。もうここは、闇雲に地面を掘っても何も出ないぐらいには調べられてるから」
「それで、調べにくい池の底をやろうってことか」
「そういうことよ。さ、船に乗って」
「え、端っこからやるんじゃないのか?」
「端っこから始めたけれど、既にちょっとは進んでるのよ」
「あ、そっか」
エルダにとっては今日が初日って訳じゃないか。木に巻き付けたロープをエルダがほどいてる間に、船に乗り込む。エルダもすぐに来た。
「でも、水操術があるなら池の底ぐらい誰でも調べれるんじゃないのか?」
「そうだけど、疲れるのよ。大抵の人は底に辿り着くぐらいで息切れするわ。そこから水が落ちて来ないよう維持し続けるのは無理でしょうね」
もう、自分がかなり水操術を使える部類であることを隠すつもりはないらしい。一緒に旅をする以上は隠すにも限度があるしな。
「そうだ。あなた、船の操縦を任せてもいいかしら?」
「え、俺が?」
「ええ。そうしたら移動が楽になるし、不足の事態が起きても私は水操術に専念できる」
「あ、それもそうか」
確かに、何から何までエルダに頼りっぱなしだ。この世界なら船の免許とかもないだろうし。
「それじゃあ、やり方教えてくれ」
「ええ。こっちに来て」
エルダから船の動かし方のレクチャーを受けた。T字のレバーとか2つあって、片方は引っ張るとエンジンが掛かり、その後も引くか押すかでアクセルとブレーキになる。もう片方はハンドルだ。慣れない操作だったけど、そんなに難しくなくて感覚としてはレースゲームっぽかった。
「やるじゃない。今まで気にしてなかったけれど、操縦してくれる人がいるとこんなに楽なのね」
「役に立てそうで良かったよ」
あと、何気に楽しい。
「さあ、慣れたところで目標地点に行きましょうか。今から水柱を立てる所に向かって頂戴」
少し離れた位置で、パシャンと魚でも跳ねた感じで水が飛び上がった。あそこに行けってことか。まずは低速でゆっくりと旋回して、正面を向いたところで加速、そのまま真っ直ぐ向かった。
「そろそろ減速してくれるかしら?」
「はいよ」
トロトロと、停車直前の電車みたいな感じで進んで、
「ここでいいわ」
ストップ。
「それじゃあ、今度は私の番ね。揺れるから捕まってて」
適当に、フチの方に座り込んで捕まった。エルダはその脇に立って、斜め下に右手を開いて出した。水操術で水をよけて船ごと下に向かうみたいだ。
「うおっ」
動き始めはグラリと揺れた。その後は、少しずつ、少しずつ、水を掻き分けるように下に進んで行った。船に合わせてか縦長の楕円状に掻き分けてるらしく、両側に水の壁ができていく。エルダが力を抜いた瞬間これが落ちて来ると思うと、ちょっと怖い。
「もうそろそろよ」
エルダがそう言ってから10秒ぐらいで、下降は止まった。底に着いたらしい。
「うへぇ・・・」
相変わらず、両側には水の壁。学校の校舎ぐらいの高さはあるか?
「さあ、やりましょう」
エルダはずっと斜め下に向けて開いていた右手を戻した。俺は一瞬ビクッとしたが、手をかざしてなくても水操術は使えるみたいで、水の壁はそのままだ。船に積んであるスコップを手に取って、降りる。
べちょ。
「うぅわっ」
かなりぬかるんでる泥だ。池の底だから当たり前か。すぐに足を引っ込めて船に戻った。
「あっははは。履き物は脱いでおきなさい」
エルダは既にサンダルを脱いでいた。よく見ると服の裾も上げて腰の辺りで紐で縛ってる。足を洗うための水はいくらでもあるから、俺も裸足でいいか。靴も靴下も脱いで、改めて泥に降りた。なんか気持ち悪ぃ・・・エルダは悠々とした様子でスコップ持って歩いてるけど。
「で、どこを掘ればいいんだ?」
「ちょっと探ってみるわね」
それでエルダはしゃがみこんで、右の手のひらをそっと地面に当てた。泥だというのにためらいがないな。慣れてるんだろうけど。
「何をしてるんだ?」
「これだけ湿ってると、地中の水を動かせるのよ。それで、水の浸透が鈍いもの、つまりは石の塊を探すのよ」
「あ~・・・なるほどな」
確かに、この泥を拾い上げたら絞らなくても水が垂れてきそうだ。
それにしても、両側の水の壁が落ちないようにキープしながら泥の中の水まで動かすのか。器用だな。さすがに表情が少し険しそうだけど。
「見つかったわ」
エルダがそう言って泥から手を離した。
「すぐに見つかるもんなんだな」
「ただの大きな石ってことが多いけれどね」
「あー」
そういうことか。
「あっちよ、行きましょう。大きな平たい石があるわ」
エルダは水の壁の方を指差しながら言って、その手がパッと開かれてると同時に壁も開いて道ができた。水操術、便利だな。ぺちょぺちょ音を立てながら泥の上を歩き、進む。
「この辺りよ。ここから先は機械的に掘るしかないから、お願いね」
2人して、せっせと泥を掘っていく。スコップが簡単に刺さるからやりやすい。10分ぐらいで、深さが3メートルぐらいになった。
「うぉ・・・きっついな・・・」
手が疲れてきた。穴掘りの成果も、7割ぐらいはエルダだ。
「だらしないわね。休憩は適当に取っていいわよ」
「すまん・・・」
スコップでひたすら泥を掘るだけってのも結構きついな。体、鍛えないと。エルダと旅してれば自然に鍛えられそうだけど。
座る場所はないから、突っ立ったまま自分の腕を揉みながらエルダの作業を眺める。相変わらず涼しい顔してるな。両側の水の壁を維持し続けてるからか疲れの色はあるけど、表情自体はかなり涼しいものだ。
自分のやりたいことのためなら苦じゃない、か。そんなもんなんだろうか。部活をラクそうな弱小から選んだ俺には分からないけど、目標のために頑張ってる奴らも、“辛いこともけど目標のため”とか言ってる気がする。
2~3分ぐらい休んだところで、穴掘り作業に合流。
「もうそろそろだと思うから、ちょっと見てみるわね」
そう言ってエルダはしゃがみ、泥に手を当てた。中の水を動かして石の場所を確認してるみたいだ。
「うん、だいぶ近付いたわね。あと5分もあればいけそうよ」
その言葉通り5分も経たないうちに、泥に刺したはずのスコップがカツンと音を立てた。固いのがある。
「見つかったみたいね。上に乗っかってる土をよけていきましょう」
「ああ」
スコップを使って、石の上に乗ってる土を横に放り投げていく。
「意外とデカいな」
せいぜいA3のポスターぐらいのサイズだと思ってたら、うちにある50型テレビぐらいあった。輪郭は欠けが多くてガタガタしてるけど。
「これは、当たりかも知れないわね。今までの石とは見た目の質が違うわ」
“当たり”っていうのは、ただの岩じゃなくて探してる石板ってことか。だとしたら何かが書いてあるはずだけど、見えてる方の面には何もない。
「反対側を見てみましょう。大した厚みはないから」
「ああ」
長方形の石の、長い方の辺に2本のスコップを差し込む。
「水操術で下からも押すから、合わせてね」
「分かった」
石の下は土のはずだけど、これだけべちょべちょしてれば水も集まるか。
「いくわよ。せー、のっ」
掛け声に合わせてぐいっと、てこのようにスコップを下げて石を持ち上げた。エルダ自身のパワーなのか下から水操術で押してるからなのか、思ってたより軽い。スネの高さまで持ち上がると、エルダはスコップを離して石の下に手を回した。
「ひっくり返すわよ。手伝って」
「うし」
俺も同じように、石を下から掴んだ。本当に下から水で押してるらしく、親指以外は水の中だ。
「せー、のっ」
エルダの声に合わせて力を入れ、石を持ち上げる。ここでも水操術を使ったようで、途中からはほとんど水だけで押された。石はそのままひっくり返り、掘ってきた穴の傾斜に立て掛けられる形で止まった。もちろん、これまで下を向いていた面が見えるようになった。
「・・・当たり、みたいね」
石板には、石を直接削ることで文字が刻まれていた。石板自体の大きさに対してたった2行しかないけど。
「古い文字ね」
この世界の文字はどのみち俺には読めないんだけど、確かに、どことなく違う感じはする。400年もあれば文字も多少は変わるか。さすがにエルダは読めるようで、困惑する様子もなく口を動かし始めた。
「“我らの生活を変えしもの、我らに災いをもたらす。我ら、これを西の彼方に沈め、災いの再来を封じる”」
石板の文字の中身が、それのようだ。
「生活を変えしもの? それに、災いって・・・」
文章からすると、“生活を変えしもの”とやらが原因で何かが起きたらしい。
「やっぱり何か、人々の生活を変えるほどの技術があったようね。けれどそれで、良くないことも一緒に起きたから、封印した」
エルダは手を顎に当てたまま、視線はこっちに向けずに返事をした。書いてある文章からするとそう考えるのが妥当だよな。
「“西の彼方”って?」
「海じゃないかしら。“沈め”、とも書いてあるし。ずっと西の方に、オクシデ海溝っていう海溝、つまりは海底の谷のようなものがあるから、きっとそこに」
「海溝・・・」
エルダは多分、俺のために“海底の谷のようなもの”という補足をくれた。確かにうろ覚えだったけど、海の中で部分的に深くなってる場所のことだったな。
「技術を沈めるって、やっぱりその機械をか?」
「それもあるけれど、その機械の作り方を記したものも一緒に、じゃないかしら」
「そっか。作り方わかったら意味ないもんな」
また誰かが同じ機械を作っちまう。さすがに海の底に沈めれば誰も・・・と思ったところでハッとした。
「まさか、海の底まで探しに行ったりしないよな」
エルダならやり兼ねない。水操術があれば潜水艦は要らないし。
「さすがに無理よ。海溝ともなれば何千メートルもあるから、途中で力尽きてしまうわ」
「ホッ」
正直ホッとした。そういえば水操術やると疲れるんだったな。この池でもせいぜい数十メートルだから、その百倍ともなればいくらエルダでも身がもたないらしい。
「何を安心してるんだか。残念なことなのに」
ちょっとむくれた様子でこっちを見るエルダ。大きなヒントがある場所に行けないことを安心するのは、確かに違うな。でも海の底とか怖すぎる。
「この石板は、海には沈めなかったんだな」
目の前にある石板を見る。これはこれで手掛かりになったけど、これも沈めれば災いをもたらす技術があった事実さえ隠せたんじゃないのだろうか。 それに、沈めるんじゃなくて完全に壊してスクラップにでもすれば誰かに発掘されるリスクもなくなる。
「きっと、一部の有力者の間では残しておいたのよ。誰かが同じものを作ろうとした時に止められるように」
「ああ~。事実ごと忘れてしまったら、誰かが作った時に分からないのか」
「当然その“事実”の中身、どんなものを作ってしまったが為にどんな災いがもたらされたかを記したものも、どこかにあるはずだけれど・・・」
今のところは、この石板1枚だ。
「もしかしたら、別々に分けて保管していたのかも知れないわね。一度に全部見つかることがないように」
「ってことは、ゾナ湿地林にはこれだけか?」
「その可能性が高いけれど、どうでしょうね。少なくとも、今日調べられる範囲にはないわね」
エルダはさっき、池の底に着くなり土の中の水を動かしてデカい石がないか調べていた。その範囲にあったのはこれ1枚ってことか。何枚かの石板に分けてたとして、ゾナ湿地林の中で散らばってるのか、世界中に散らばってるのか。
「あなたがいたお陰で普段よりは楽だったけれど、疲れたわ。続きは明日にしましょう」
当然エルダは、まずはこの池を調べ尽くすつもりみたいだ。車ぐらいのスピードが出る船でも他の街に行くのに数日かかるって言ってたし、一度離れたら戻るのは面倒だからな。
「一応、掘った分はある程度復元するわよ。手伝って」
「おう」
石板をまた裏返しに倒して、雑だけどある程度は埋めて、船の方に戻る。水が両側に割かれる形でできていた道は、帰り道で後ろからエルダが閉ざしていく。エルダを怒らせるとあれに追い掛けられるのかと思うと、ちょっと怖い。
船に着いた。
「汚れてしまったわね。足だけでも洗ってから船に乗りましょう」
べちょべちょの泥をスコップで掘る作業をしたから、体も服もかなり汚れてしまった。膝から下はもう泥まみれで、確かにこのまま船には乗りたくない。
「さ、船に腰掛けて」
水は四方八方にあるけど、足場が泥である限り、洗ってから歩いてたらまた汚れる。足を外側にして、船のフチの部分に座った。
「それじゃあ、水を戻すから」
水の壁が、少しずつ迫って来る。ゆっくりで、エルダがコントロールしてると分かってても怖いな。エルダがコントロールしてるから怖いってのもあるけど。
「何か言った?」
「言ってない」
マジでに怖いんだけどこの人。
「さあどうぞ」
水の壁が目の前まで来た。膝を伸ばして、足を中に入れる。
「おぉぉ~~っ」
なんか、横方向にある水に足を突っ込むって、変な感じだ。
「強い汚れなんだから、こすらないと取れないわよ」
エルダは、手も水に突っ込んでバシャバシャ洗っている。
「エルダが水を動かしてくれないのか?」
「動かして欲しいの?」
「やっぱやめとく・・・」
なんか怖い。
「・・・あなた、自分が失礼なことを言ってる自覚、あるわよね・・・?」
さすがに今のは、エルダが何かイタズラするんじゃないかと疑ったのがバレる言い方になってしまった。
泥まみれになった足も、水で洗えばすぐに綺麗になった。
「上に戻りましょうか」
うおお、やっと帰れる。壁のように両サイドにそびえ立つ水に挟まれるって、かなりの威圧感だな。エルダがイタズ・・・じゃなくて気を抜いただけで落ちて来るし。
「揺れるから掴まってなさい」
しゃがんで船のフチに掴まると、エルダが水の壁をゆっくり崩して船の下に水を回し始めた。
「うおっ、と」
船が水に浮いて、揺れる。そのまま、少しずつ、少しずつ、船は浮上していった。ずっと地上にいたはずなのに、なんだか地下にでもいた気分だ。そびえる水の壁の向こうに見える空が、眩しい。
そのまま、水の壁がどんどん低くなっていく形で、最後には水面まで上がってきて視界が一気に開けた。
「やっと、帰ってきたのか・・・」
想像以上に無意識下では気を張ってたみたいで、どっと疲れた。
「ふぅ、ふぅ・・・そうね」
これまでずっと水操術で水が落ちないように維持してたエルダも、その集中を解いたことで疲れが押し寄せたのか、呼吸を整えている。
「ちょっと、この場で休みましょうか」
「だな」
帰りを急ぐ理由もない。これから船で川下りで、それはそれで楽しそうだけどその前に休憩したい。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・」
エルダは、船のフチを背もたれに片足だけ伸ばして座っている。さっき泥を洗い流したっきり拭いてないから、水滴がきらめいている。
「どうかした?」
俺の視線に気付いたエルダが声を掛けてきた。しまった、足をガン見してた。とりあえず顔を上げて返事。
「あ、いや、疲れてるんだなと思って。いつもこんなことしてるのか?」
「ゾナ湿地林ではね。これまで寄って来たアルコ渓谷やハーバー湖は、土壌が固くて地中を調べられないし、昔からの遺物が埋まってる可能性も低いから、水や岩石、土壌を調べる程度よ」
エルダは、俺の視線が足に行ってたことは気にしてない様子で、淡々と答えた。エルダはエルダで、向かいに座ってる奴が足の裏を向けてきたら意味もなくそれ見そうだから、お互い様か。
「ゾナ湿地林は時間を掛けてやってるんだな。実際、石板が見つかったし」
「ええ。これまではずっと不発だったのだけれど、あなたと会った翌日に収穫が得られるなんて、やっぱり運命なのかしら」
「偶然だと思うけど・・・」
「その偶然があったからこそよ。これからもよろしくね」
半分以上ジョークだろうけど、変な期待はしないでもらいたいもんだ。
「偶然はともかく、いつもより楽だったのは確かよ。帰りの操縦もお願いね」
「ああ、いいぜ」
元よりそのつもりだ。どう見たってエルダの方が疲れてるし。
「やっぱ水操術って、やってると疲れるんだな。どんな感覚なんだ?」
「うーん・・・体内に水虹を持たない人にどう説明すればいいのかしら・・・感覚としては、走ったりして体力を使った直後に似てるかも知れないわね」
「走った直後、か」
確かに今エルダが座って呼吸を整えてる姿は、体育の授業でマラソンやった直後の様子にも見える。実際さっきまで30分はぶっ続けで池の水を割いてたんだから、マジでマラソンと同じようなもんか。
しかもそれやりながら、泥の中の水を動かしたりスコップで穴掘ったりしてたんだろ。よく今まで1人でやってたな。船の操縦ぐらいは代わってやりたくもなる。飯と宿ももらってるし。
「ちょっとはイメージできたみたいね。そんな訳で、体内の水虹の流れが乱れると疲れるのよ。疲労っていうのは体から出てる注意信号だから、無視してやり続けると体調も崩す」
俺の表情の変化から、俺がどんなことを考えたかは大体読み取ったらしい。
「・・・それで昔の人も、水虹結晶の作り過ぎで倒れてしまったのでしょうね」
エルダはその一言を、軽く目を伏せながら言った。死ぬほどまでにも、なるんだよな。学校のマラソン大会でも吐いたり病院送りになったりした奴はいたけど、それさえも超えて頑張り続けたら、ってことか。走るのと水操術とでは違う部分もあるだろうけど。
それから15分ぐらい、腹ごしらえしたりもして休憩してから、街に帰ることにした。
「うっし」
レバーを引いて、船を動かす。まさか、車とか原付よりも先に船の運転をすることになるなんてな。
「あっちよ。お願いね」
帰り道の川がある方向を、エルダが指差す。船をゆっくりと旋回させて、正面を向いたところで加速。そのまま、下り坂に差し掛かった。
「あら、もう少しスピードを上げてもいいのよ?」
「初心者に無茶言うなよ・・・」
普通にやれば車ぐらいのスピードは出る船だ。川は広いし流れも緩やかだけど、カーブもあればド真ん中に岩があったりもする。チャリで急坂を下るぐらいにはビビッてしまう。
ただ、船の操縦自体は割と楽しい。
「本当に楽ね。自分でやらなくていいっていうのは」
エルダが隣に来て、船尾のフチに腰を掛けた。落ちるなよ、とも思ったけどエルダなら大丈夫か。
「本当によく今まで1人でやってたな」
「まあ、自分のやりたいことだから。その気になれば、いつだってただの狩猟生活に戻れる訳だし」
相変わらず淡々とした様子でエルダは言った。船が進むことによる向かい風もあってか、かなり涼しい顔をしてるように見える。エルダに何でこんなことを続けてるのか聞くのは、登山家になぜ山に登るのか聞くようなものなのかもな。
下流に進むにつれて、専業の狩猟生活者たちの船も行き交うようになったので余計にスピードが落ちる。周りの人たちは慣れてるのか普通に飛ばしてるけど。
「何も狩って帰らなくていいのか?」
「大丈夫よ。お金に余裕はあるし、狩猟は池の穴掘りの疲れが溜まった時にするから」
疲れた時が狩猟日かよ。穴掘りよりは熊狩りの方が楽なんだろうけど。
川を下りきり、左に曲がって南へ。森の先にクロスルートの街が見える。宙を巡る水虹管は相変わらずあるけど、水虹結晶の話を聞いてイメージが変わった。400年前の人が、命を削ってまで遺したもの。そして石板に書かれていた、封印された技術。この2つに関係があるかは分からないけど、封印された技術ってやつは、気になるな。
次回:調査続行