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第43話:火山のシンクタニア

「シンクタニア、と言えば分かりますか」


「あら」

「マジか」


 噴火したての溶岩を採取しに行った先で、シンクタニアと遭遇した。


「私以外のシンクタニアに、会ったことがあるのですね」


 俺たちの反応で察したようだ。


「ええ。フィンデルとメイミスに」


 メイミス、の単語に驚きを見せたのは青年の方だ。


「珍しいですね。陸にはほとんど上がって来ないと聞きますが」


「確かに、会ったのは海の上だったわね」


「なんと・・・そういうことでしたか」


 納得したような、それでもやっぱりメイミスに会うのは珍しいような、といった様子で目をぱちくりさせる青年。


「申し遅れました。私は、サランと申します。実は、私はメイミスさんに会ったことがないのですよ」


「あら、そうだったの」


 まあ、ほとんど海の上でシャチと一緒に生活してるからな。


「あなたは何故ここに? 噴火直後のイグンマウンテンの様子見かしら」


「そんなところです。歩き回っていると、船を見かけたものですから。あなた方は・・・岩石の採取ですか」


 サランは俺たちの背中のカゴに目を向けて言った。ツーツリウム合金作ったことを知ってるかどうかに関係なく、これを見れば俺たちの目的は一目で分かる。


「探求心に駆られてね。ツーツリウムに目を付けたのも、その一環で過去に調べたことがあったからよ」


 エルダは事もなげに言った。ツーツリウムが錆びにくいのを知ってたからこそ出来たものだけど、単なる探求心で調べてただけってのがエルダだよな。それがいきなり役に立つなんて世の中わからん。同じようにお蔵入りしてる過去の実験がどれほどあることやら。


「あの合金は本当に素晴らしいものでした。多くの人はその耐久性にしか目が向いてませんが、800度にも耐え得るということは、水虹結晶の内部残留を防ぐこともできるのです。もしや、それも狙ったものではないのですか?」


 おっと。まさか、それに気付いてる人がいたとは。俺たちも諦めて高温高圧蒸気での駆動しかウリにしてなかったのに。


「あら。あなたも知っていたのね」


 さすがはシンクタニア、といったところだろうか。


「ええ。スチミウムの登場で採掘の効率は大幅に上昇し、マリンダースでは漁船の高速化が始まりました。一方で、無虹水が排出されることによる生態系への影響を危惧していました」


 うんうん、そうなんだよ。これ分かる人がいるというのは、こんなにも嬉しいことだったんだな。感動してきた。俺の心の感動を余所に、サラン殿の話は続く。


「いつかは人類の生活にも波及し兼ねない。そう思って私も何度か警鐘を鳴らしていたのですが、白い目を向けられてしまいまして・・・」


 だよな。そこは俺たちも悩んだところだ。この世界の人たちは、盗むとかの発想をしないし人類の発展を優先する良い人たちだけど、それが災いして、便利なものを使っちゃダメだというのは受け入れられない傾向にあって、言った方が異端者扱いされてしまう。


「まさかそれを、新しいものを作り上げることで解決してしまうとは・・・」


 サランさんはサランさんで、俺たちとは違った苦労をしたんだろうな。声を上げても誰も聞いてくれなかったという意味では、黙々と作業してただけの俺たちよりしんどかったのかも知れない。


「従来技術の欠点を偶然知っただけで、あとはその対抗策を生み出しただけよ」


 今となってはあの地獄のような日々を過ごしたエルダもケロッとしている。エルダのことだから、試行錯誤を繰り返すってのを頻繁にやってるんだろうけど。


「あれほどのものを作り出して、まだ何かやりたいことがあるのですか?」


「ええ」


 エルダはあっさりと答えた。


「まだ私の知的好奇心が満たされていないもの」


 ほぉ・・・まあ、いつも言ってることか。と思ってたら、


「それに、」


 エルダがチラリを俺の方を見て、またサランさんの方を向いて言った。


「トオルを元の世界に帰してあげたいし」


 大きな問題が解決した以上、残ってるのはそれだ。


「あ、もちろん私も一緒に行くわよ? 行くことができたら、だけど」


 エルダも来てもらえるなら嬉しいけど、そこがどうなるかだよな。俺1人だけ送還ってことも有り得る。


「そうですか・・・」


 サランさんが視線を落とし気味で呟いた。


「あ、やっぱりまずいとか・・・?」


 今までの情報を整理すると、俺がこの世界に呼ばれたのは、無虹人の血をもつ、水虹を必要としない生物の繁栄のためだ。


「そうですね・・・この世界に残って頂かないと、役目は果たせないことになりますから・・・」


 やっぱり、そうか・・・。


「ですが、無理強いをするつもりはありません。あなたからすれば、こちら側の事情に巻き込まれたも同然でしょうから」


「ああ・・・」


 まあ、そうだな。いきなり水道に吸い込まれてこの世界に落とされたのが始まりだったから。でも何だか、気を使わせてしまったな。何て言おうか考えていたら、サランさんが続けた。


「それに、あの合金を作った功績は非常に大きいものです。十分すぎるほどだと、私は思います」


 とは言っても、その合金を作ったのはエルダだからなあ・・・一応助手はやってたけど。


「トオルはトオルの好きにしていいのよ。あなたがいたお陰であの合金ができたのは確実だし、一方的にこの世界に連れて来られたのでしょう。役目だなんて、放っておけばいいのよ」


 エルダもこう言ってくれている。シンクタニアの目の前で帰る宣言はしづらかいけど、帰りたいものは帰りたい。


「あなたの人生をこの世界に捧げる必要はないわ。シンクタニアには悪いけれど、帰りましょう。私も連れてってもらえると嬉しいわ」


「ああ、そうだな。帰ろう」


 決めたんだ。帰る。無虹人の役目のことを考えるとと気が引けてしまうけど、ここは、心を鬼にしよう。


「ええ、それでよいと思います。合金の功績だなんて関係なしに、あなたにはその権利がある」


 この話はここまで、かな。帰る方法は探さなきゃいけないけど。

 別れを告げようとすると、サランさんが申し訳なさそうに手を合わせながらこう言った。


「すみません、こんな話をしておきながら難ですけど・・・溶岩を採取しに来たのですよね。私もご一緒してよろしいですか・・・?」


 本当に、”こんな話をしておきながら”だな・・・でもエルダは気にしないだろう。俺も別にいい。


「ええ、いいわよ。大したことはしないけれど」


「ありがとうございます」


 サランさんも学者肌なのか、シンクタニアとしての立場があるからなのか、エルダのやることには興味があるらしい。


 とはいえ、休憩に船に戻って来てたところなのでこの場でメシついでに休憩。その後サランさんも一緒に岩石採取に出かけた。やったことは、さっきと変わらない。手当たり次第カゴに詰めていく。人手が増えたことで採取量も1.5倍だ。


 再び船に戻る帰り道。


「水操術、凄いですね・・・」


 エルダが水の塊をぷかぷか浮かせたまま行動してるのを見て、サランさんが半ば呆れ気味に言った。


「ええ、まあ」


 慣れっこなのか、エルダの反応は素っ気ない。


「あなたのような方にそこまでの力が与えられたのは、嬉しい事ですね」


 何でも調べたがるエルダにクマやゴリラを圧倒する力があって良かったという意味だろうか。確かにそのお陰であちこち旅して回れてるし。


「そうね。けれど、強い水操術を使えたから興味が湧いた、というのもあるわ。幼いうちがそうだったから」


「なるほど。自分自身の能力が興味の対象だったのですね。通りで、お若いのにベテラン顔負けの成果を出せる訳です」


 “ベテラン顔負けの成果”、はツーツリウム合金のことだろう。


「やっぱり学者って年寄りが多いのか?」


 こっちの世界だと、テレビで出る専門家とやらは若くても40代とかだ。俺の問いかけにはサランさんが答えてくれた。


「時間が掛かるものですからね。それに、子供のうちは何かと家の手伝いをさせられます。自由な時間も、周りの子たちと遊ぶことが多いですから」


 ま、そりゃそうか。こっちの世界でも、子供のうちから水の研究がしたいと思っても古文とか世界史の授業も受けさせられるし、テストやら部活やら何やらある。それ1つに没頭、なんてできるのは大人になってからだ。


「エルダさんも、狩りに引っ張りだこだったのではないですか?」


「それはもう」


 即答。文字通り100人力っぽい感じだし、狩って来るのは自分ちだけの分では済まなかっただろう。


「それでも狩りのついでに散策をしたり、黙ってオンラヴァまで行って何日も帰らなかったりもしたけれどね」


 うわ・・・エルダならやりそうだ。あんまり悪事を働く方向に思考が行かないこの世界の中では、かなりの異端児だっただろうな。


「あはは・・・ほどほどに」


 これにはサランさんも呆れるしかない。けど、


「止められるなら腕づくで止めてみろって言って、旅に出てしまったわ」


「そうですか・・・」


 エルダが今ここにいることが答えだ。本来なら街のみんなのために狩りをしまくってることだろう。



 船に着いた。


「それじゃあ、街に持ち帰って溶かしましょう」


 拾って来た、石。噴火した溶岩が固まったもの。こいつらはまた溶けることになるのか・・・。

次回:地底の奥にあるもの

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