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第42話:再び火山へ

 3日後。予定通り出発することになった。イグニフォールの鉱山労働者もまだこっちにいるんだけど・・・帰省ついでの連休も兼ねてるんだろう。

 あれ以来鐘は鳴ってないけど、エルダが言うには最初の1回を観測したら撤収するらしい。で、ぼちぼちイグニフォールに人が戻って行くんだと。採掘作業の再開日も特に基準が決まってる訳じゃないらしい。人がある程度集まったらやる、ぐらいのもんなんだろう。


「うしっ、と。船走らせるのも久々だな」


 6~7日ぐらいは街にいたからな。操縦の勘がナマっちまうところだった。レバーを引いて豪快な音と共に発進。この感覚がたまらない。元の世界に帰ったら車になっちまうけど、車運転するのもこんな感じなのかね。でも船は道がないから自由だ。金貯まったらボート買って免許も取ろうかな。


「ん~~っ。ずっと動かずにいたから気持ちいいわね」


 エルダも風を受けながら気持ちよさそうに背伸びをしている。もし、エルダも一緒にこっちの世界に来るのが実現できたら、たまにこうやってドライブするのも良いかも。なんて思ってしまう。



 日が傾く前には、イグンマウンテンがくっきり近くに見える所まで来た。


「なんか煙出てんだけど・・・」


 山頂からは、いかにも火山ですって感じでドス黒い煙がゆらゆら出ていた。


「まだ火山活動が続いているようね」


「おい!」


 3日しか経ってないしそうなんだろうけどさ・・・煙出てんの怖いんだけど。


「小さな噴火は起こるかも知れないけれど、その方が新鮮な溶岩を調べられるというのもあるのよね」


「新鮮な溶岩って・・・」


 恐ろしい単語を出さないでくれ。


「近くに行くほど噴火の予兆は捉えやすくなるし、水場から離れなければ防御もできるから、トオルも私から離れないようにね」


「ああ」


 まあ、エルダがいれば大丈夫か。いざとなったら巨大噴水で船ごと打ち上げるとかできるだろう。


「今日はここまでにして、鈍った体を動かしておきましょう。それっ」


 バシャン。


 相変わらず、煎餅つまむぐらいの感覚で海に飛び込むよな。


「ほら、あなたも来なさい」


「今行くって」


 さすがに、これから山に登るから準備運動はしとかないとまずい。シャツとズボンを脱ぎ捨てて、海に飛び込んだ。



 --------------------------------



 次の日。朝からボートを走らせて、ついに山の中に入っていく。1週間ぶりか。この世界には”週”の概念がないんだったけど。


「溶岩がどっちの方角に流れたかなんて分かるのか?」


「分からないわ。王国の者も海から見てるだけで、そこまでは監視していないから。今はとにかく、高い位置を目指して登りましょう」


 麓でぐるぐる回っててもしょうがないしな。上の方が360°回る時の距離も縮まる。


「シンクタウンで火山湖の底の方で水虹密度が高かったから、噴火した手の溶岩も普通の岩石より多くの水虹を含んでいる可能性が高いわ。まずはそれを確認したいところね」


「分かるのか?」


「溶かさないと無理ね。普通の岩石より多いと言っても、たかが知れてるでしょうから」


「え、じゃあ噴火したてかどうかを見極めるのって無理じゃないか?」


「そうでもないわよ」


 エルダはきっぱりと言い切った。その自信はどこから、と思って横にいるエルダを見ると、教えてあげると言わんばかりに、にこやかに言った。


「色が違うから」


「あー・・・」


 単純な話だった。そりゃ、元からある地面の上に固まった溶岩の層が増えるからな。そこは目で見りゃ分かるってことか。水虹だの合金だのいう話ばっかりしてきたから、変に難しく考えてしまった。


「でも、些細な変化しかないこともあるから、注意して見ないと気付かないこともあるわよ」


「うし」


 エルダ任せにはなるんだろうけど、一応俺も気にするようにしておこう。



 昼メシどきには中腹ぐらいまで登った。傾斜がほぼない川のほとりに船を止めて、スタビリウム板でバーベキュー。これも久々だな。んー、美味い。


 昼メシを終えて再び上を目指す。だんだん緑が減ってきた。定期的に噴火していると大きな木が育たないのだろう、雑草とコケぐらいしかない。それから更に進むと、ほとんど灰色一色になってしまった。いかにも火山って感じだ。もうイグニフォールよりは高い所まで来ている。


「トオル、あそこ」


「ん? あっ」


 エルダは上の方を指差していて、見ると岩肌の色が変わっていた。


「あそこまで溶岩が流れて来てたってことか?」


「そのようね」


 冬の雪化粧似たような感じで、途中から頂上にかけて灰色が薄くなっていた。一部だけ、そこを多くの溶岩が流れたのか、だらんと下に垂れるような模様になっている。火傷の痕のようにも見えて、山にとっては何ともないんだろうけどちょっと痛ましい。


「あれが噴火したての溶岩か」


「と言ってももう常温まで冷めているでしょう。近くまで寄ってみましょう」


 結局、川の方が終点を迎えたので船で行けるのは途中までだった。ここまで登ったらエルダも噴火の予兆を感じ取ることができるらしく、今日は大丈夫とのことで巨大な水の塊だけを宙に引き連れて歩いた。幸いにも30分ぐらいの距離だ。


「へぇ~~っ。冷めちまえば溶岩も普通の石なんだな」


「元々、岩石が液体化したものだからね」


 そういやそんなこと言ってたな。温度を上げれば溶けるのは理屈として知ってるし、ドロドロに溶けた金属も嫌というほど見たけど、石が溶けてるってなんか頭で理解しにくいんだよな。黄色とか赤に光ってるし、何かが燃えてるように見えちまう。


 背負ってるカゴを下ろし、転がってる破片を拾い上げる。


「結構軽いんだな」


 軽石って言うんだっけか、これ。


「1000度近くあるものが地表に出て一気に冷やされるから、水分や火山ガスが抜けた痕が空洞として残るのよ」


「ふーーん」


 とりあえず生返事をして、軽石を拾い上げていく。


「水分抜けたのに水虹が残ってるのか?」


「軽石だと厳しいわね。密度のあるものを回収していきましょう」


 結局か・・・。


「石を拾うよりは地面を削り取る方が良いわね。もうすぐそこよ」


 エルダが指差した先に、地面が薄くなってる部分があった。本当に、斜面の上から垂れてきたみたいになってる。粘り気のあるものが固まった感じで、近付いてみるとシワみたいなのも多くてちょっと気持ち悪かった。


「これが噴火したての溶岩か」


 なんか怖いんだけど。熱かったりしないだろうな? と思っていると、エルダはしゃがみ込んで躊躇なくハンマーとノミで削り始めた。


「はい。これでカゴに入れて頂戴」


 火ばさみを手渡された。素手で触らないでいいだけマシだけど(その理由も汗とかアブラを付けたくないとかだろう)、なんか怖ぇぇ。


「よく溶岩をそんな軽々しく扱えるな」


「そんなことを言ったら、いま私たちが立ってるのも溶岩の上よ?」


「いぃっ!?」


 マジかよ、おい!


「そもそも火山というのは固まった溶岩が積み重なってできたものだから、古い溶岩の上を歩くことになるわよ。古くに噴火したものというだけであって」


 1年前に噴火したのと3日前に噴火したのとでは違うと思うんですがね・・・。

 そんなこんなで、地面で固まってた溶岩を削っては採集するのを繰り返した。溶岩はこの粘り気のありそうな模様のやつだけじゃなくて、普通にゴツゴツしたものとか、石として転がってたのもあった。


 カゴが2つとも埋まってきたところで、それぞれ2人で背負って船へ。ちょうど、疲れてきてたところだ。


 船の所まで戻ると、船と一緒に人影があるのも見えた。誰か、いる・・・? 


「誰かしら」


 その人物も俺たちに気付いたようで、こっちを見た。噴火したばかりの火山に人がいるのが珍しいんだろうか。って、俺もこの人に対して思ってるからお互い様だろうな。


「あなたたちは・・・」


「ん?」


 いたのは20代前半ぐらいの短髪の青年で、なんか、俺たちのことを知ってそうな反応。それともエルダの知り合いか? と思ったけどエルダもこの人のことを知らなさそうだった。誰なんだろ。エルダと顔を見合わせてたら、その答えは本人の口から明かされた。


「オンラヴァの街で見かけました。ツーツリウム合金を作った人たちですね」


「あぁ~~~」


 俺たちの普及活動を見てたのか。俺たちが“作った”ことまで知ってるってことは、初日から見てたんかな。


「正確には、ほとんどエルダ1人で作っちまったけどな」


 エルダを指差しながら言った。エルダは肯定も否定もせず青年に聞き返した。


「ところで、あなたは?」


 街で偶然俺たちを見かけたってだけだろうけど、何者かぐらいは聞きたいところ。


「シンクタニア、と言えば分かりますか」


「あら」

「マジか」


 まさか、フィンデルやメイミスと同じシンクタニアだったとは。

次回:火山のシンクタニア

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