第37話:貴金属採掘
「とりあえずここでやってみましょう。待ってるのも退屈でしょうからトオルも適当に壁を削ってていいわよ」
800度の熱い水蒸気(エルダが言うには水でも水蒸気でもない状態らしいけど)でも錆びない金属を求めて、かなり高い位置まで登って来た。エルダはショベルで、俺はドリル車で岩肌を削って石を採りまくることになった。
「この中に金とかがあるのかぁ」
言った瞬間、“あ”って思った。こっちの世界は金属の名前が変わるんだっけ。
「あら。金はあなたの世界でも“金”なのね」
「お、一緒か。もしかして銀とか銅も?」
「ええ、あるわよ。特別なものは同じ呼称のようね」
金銀銅の名前がかぶってるのは助かるな。なんとかビウムみたいな変な名前が付いてたらこんがらがってた。
「金や銀みたいに安定性の高いものが確実だけれど、鉱山労働者1人1台持つ掘削機械には向かないわね」
「確かに」
純金とか純銀の配管なんて見たことないぞ。あったとしても水とか蒸気流すなんてもったいなくてできないな。
「けれど800度の駆動で水虹結晶ができないことを確認したいから1つは金か銀、それか同じぐらいの安定性をもつフォーファイビウムで作るわよ」
あ、出た。なんとかビウム。てかマジで純金か純銀の配管作るのか! 純フォーファイビウムかも知れないけど。
「含有量が多い鉱石を探すよりは、量で攻めるわよ。貴金属は水虹はもちろん、大抵の薬品とも反応しないから、周りの石が勝手に溶けていくの」
「あ、なるほど」
金を手に入れる方法、金が混ざってる石を採って溶かす。単純なやり方だな。
「この中に0.01%もないから頑張るわよ」
「うげ・・・」
でも、そうか。石10キロの中に1グラムあればいい方か。
「うっしやるか。おぉりゃああぁぁぁぁ」
ガガガガガガガガ・・・。
早速、ドリル車を回して壁を削り始めた。
振動で手の間隔が狂ってきたところで休憩。エルダはショベルだからか、削れてる量は少ないけど平気そうだな。
「休憩なら、削れた石を溶かしてみましょうか」
「おっ」
確かに腕休めついでに丁度いい。船から鍋を出して、石も入るだけ入れて、エルダがドバドバ薬品を入れた。
「漬けるだけで溶けてくれるから温める必要はないわよ。むしろ勝手に熱くなるわ。石が小さくなってきたら次のを入れてね。薬品には触らないように」
「うおっ」
怖っ。人の指も危ないのか。硫酸とか塩酸みたいなもんか。ちょっと離れて眺めてたけど、あんまり変化はない。秒で溶けたりはしないみたいだから、ちょっとドリル回しに行くか。
また腕の間隔が麻痺して戻ってくると、そこそこ泡が出てて石も縮んでた。えっと、薬品に触らないように・・・次を投入。
「順調みたいね。さすがに薬品の交換は私がするわ」
「ああ、頼む」
減ってるようには見えないけど、交換もいるのか。石溶かしてると汚くなんのかな。
そこからはしばらく、石を削っては薬品に漬けるルーチンワークだった。これでちょっとしか金がなかったら泣けるな・・・。
ドリルを使ってる俺の方がペースが速いけど、エルダもそれなりに掘り進んでほら穴が2つ並ぶ感じになった。休憩がてら手を揉みながら外に出ると、
「あら?」
エルダが不思議そうな声を出すのが聞こえた。ちょっと覗いてみるか。
「どうかしたのか?」
声を掛けたらエルダが振り向いた。
「ほら、これ」
エルダは右斜め前を指差した。ショベルもそっちを向いていて、見ると明らかに周囲の壁と違う色になってる部分があった。
「あ。それって・・・」
あれだ。オズパーシーの鍾乳洞で見た。最深部にあった、白くて綺麗な水晶みたいなやつ。
「ツーツリア結晶ね。覚えているかしら、酸化ツーツリウムの結晶よ。見ての通り飾りものとして使われることが多いのだけれど・・・取り出したツーツリウムは酸化されやすい割に内側までは腐食されなかったのよね・・・もしかしたら、使えるかも・・・」
エルダは1人でぶつぶつと呟いた。そういえばオズパーシーでもそんなこと言ってたような・・・どうせ分からないから聞き直さないけど、何か思いついたみたいだ。
「俺はこのままでいいのか?」
「そうね。お願い。こっちもどうなるかは分からないから、続けてて」
「オッケー」
じゃあ酸化ツーツリウムとやらはエルダに任せよう。今エルダは少し右向きで、俺が掘ってる穴は左側にあるから反対だし。
掘るのと石を薬品に漬けるのとを繰り返してたら、エルダが出て来た。ミニショベルの後ろに付いてる荷台にツーツリア結晶を積んで。
「大量だな」
「ええ。後でツーツリウムを取り出してみるわ。そっちはどう?」
「どうだろ。次から次へと石入れてるから、底の方まで見れてないや」
「一旦取り出してみましょうか。銀ならそれなりに混ざってそうよ、ここの岩石」
「おっ?」
マジ? 銀って銀だろ? なんか楽しみなんだけど。
「ちょっと来て頂戴」
エルダは船に向かったので付いて行く。部屋に入って床下からノズルを出した。
「水を流すのか?」
「ええ。だけど、鍋を温めるのではなくて、薬品の方に流し入れて薄めるのよ」
なるほど。薬品を川に流す訳にもいかないからな。鍋から溢れた分がその辺の地面にばら撒かれることにはなるけど。
「じゃあそっちをお願い」
「おう」
エルダが鍋のそばに残り、俺が川に向かった。ノズルを入れると、早速水が流れ始めた。
ドボボボボボボボ・・・。
うわ・・・水で薄まるとは言え岩を溶かすような薬品が地面に・・・。なんかちょっとジュワッて言ってるし。けどだいぶ薄まってきたのか、すぐに収まって鍋から水が溢れるだけになった。
「もう近付いても大丈夫よ」
ホント怖いんだけど・・・。
ノズルはほっといても大丈夫っぽいので鍋の方に向かった。確かに薬品の色は薄まってほとんど透明になってる。
「持ってて」
「ああ」
エルダが持ってた方のノズルを渡されて、受け取るとエルダは鍋から溶け残ってる石を取り出し始めた。大丈夫だって分かってるんだろうけど、よくさっきまで薬品だったやつに手ぇ突っ込めるな。
かく言う俺も、エルダが石を取ってく鍋を上から覗き込んでいる。だんだんと底の方が見えてきて・・・、
「おっ! 銀か!?」
1つ1つは小石みたいに小さいけど、銀っぽいのがたくさん転がってた。
「全部銀か、フォーファイビウムよ。どっちも貴金属で、簡単には腐食しないわ」
「マジか~~~っ!」
フォーファイビウムはよく分からないけど、貴金属ってぐらいだから銀と同じようなもんなんだろう。
「でもこれどうやって見分けるんだ?」
見た目はどっちも完全に銀だ。どれが銀でどれがフォーファイビウムかがサッパリ分からない。
「融点に差があるから後で分かるわよ。銀は1000度近くで溶けるけれど、フォーファイビウムは2000度近く必要だから、銀だけ溶かせば分離できるわ」
「お、なるほどな」
じゃあ1000度にすれば銀だけ溶けるってことか。確かにそれなら分けられそうだ。
「どちらが多いかにもよるけれど、溶かしやすい銀の方でやりたいわね」
「銀が多いといいな」
800度でも錆びないやつで配管を作らなきゃいけないから、まだまだ足りないな。
「それから・・・、」
「ん?」
エルダが鍋に片手だけ突っ込んで、銀とかが転がってる底の方から、やたら小さい欠片をつまんだ。ん・・・? 今の色は・・・。
「量は少ないけれど、あったわね。金よ」
「おおぉ~~~~~っ!!」
金だ! マジ金だ! 純金だ!! 米粒みたいに小さいけど、金だ! すげぇ!
「さすがに大した量は採れないわね。でもその調子で銀とフォーファイビウムを集めて頂戴」
エルダの言う通り、銀とフォーファイビウムに比べて金は小さいし量も少ない。これじゃ純金の配管を作るのはキツいな。純銀か純フォーファイビウムでやるしかない。
それからも、俺は銀とフォーファイビウム(プラスちょっと金)、エルダツーツリア結晶を集め続けて、夕暮れを迎えた。
「結構集まったわね」
「おう」
石を溶かして残った銀は、溜まってきたら別の入れ物に移してたけど、もうバケツ一杯ぐらいの量になった。すっげー、これ全部銀かフォーファイビウムって貴金属なんだよな。アルミとかステンレスじゃないんだよな。売ったらいくらになるんだろ。
「金はちょっとだけだったけどな」
金は結局、コップ一杯分にもならなかった。金が採れる場所は王国が管理してるって話だし、そうそう甘くないか。
「まあそんなものよ。けれどこれなら、明日に採れるまでの分で800度の試し打ちができそうね」
「うっし」
作業自体は単純で面白味はないけど、銀が増えてくってのが楽しい。
「エルダの方も大量だな」
「ええ、お陰さまでね」
エルダが集めたツーツリア結晶も、かなりの量になっていた。というかもう軽トラにも積みきれない量だ。宝石ほどの透明感はないけど、キラキラして綺麗で、オブジェには十分なれる。これはこれで高く売れそうだ。
「ツーツリア結晶の鉱床が見つかったのはラッキーだったわ。ここから単体のツーツリウムを取り出すのが難しいのだけれど、見ての通り貴金属よりもケタ違いに多く採れるから、普及させるにはこっちで考えるしかないわね」
確かにな・・・。ショベルより掘るペースが速いドリルを使っても、集まった銀とフォーファイビウムは合わせてもバケツ一杯程度。一方のツーツリア結晶は、もう軽トラを超えている。今普及してるやつの代わりに新しいのを使ってもらわなきゃいけないから、量産できなきゃいけない。純銀配管はあくまで実験用だ。
晩飯の後はまた、銀鉱石(と呼ぶことにした)を溶かす作業を始めた。
「ツーツリア結晶の方はやらなくていいのか?」
砕けば鍋にも入りそうだし、その量だから寝てる間にもやってた方がよさそうだけど。
「これから金属ツーツリウム取り出すのが難しくって、船に乗せてる道具だけじゃできないのよ。前やった時は旅に出る前のことで、専用の小屋を作ったぐらいだから」
「専用の小屋!?」
そんなのが必要なレベルなのか。
「銀と同じようには行かないのか?」
「薬品だとツーツリウムが溶けてしまうの。貴金属は、それ自体が溶けないことを利用して取り出しているから」
ああそっか、銀は溶けないから強力な薬品に漬けるだけで取り出せたんだっけ。ツーツリウムが周りの石と同じぐらい溶けやすいやつだったら、その手は使えない。
「ツーツリウムは後で、街に戻って道具も揃えてからやりましょう。ひとまず今は、集めることに集中するわよ」
ということで鍋にまた銀鉱石を入れまくる。満杯も超えて更に上まで積んで、崩れないように支柱も立てて、薬品に浸かってる部分が溶けると自動で下に下がってく感じにした。これで、寝てる間にもどんどん銀が鍋の底に溜まっていく。寝てるだけで銀ができるとか、錬金術ならぬ錬銀術だな。と言っても、元々銀が入ってる石を溶かしてるだけだけど。
エルダはツーツリウムの効率の良い取り出し方を考えるとかで机に向かい、俺はそのまま就寝。明日も、銀を採りまくろう。
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次の日も、やったことは同じだ。俺は銀とフォーファイビウム、エルダはツーツリア結晶を集めていく。相変わらず金はコップ一杯程度だったけど、銀とフォーファイビウムはバケツ何杯分にもなった。バケツがめっちゃ重い・・・。そしてエルダが集めたツーツリア結晶はもう船に載り切らない・・・。
その次の日、街に戻ることにした。乗り切らなかったツーツリア結晶はその辺の木で作ったイカダで引くことになって、その重みのせいで山下りだというのに30キロぐらいのスピードしか出ない。船のコントロールも、どこかいつもより難しい。さすがに石から目が離せない状況なので、エルダも部屋に籠らずに外に居てくれてる。
街が近付いてくると他の船ともすれ違うようになったけど、山積み&イカダで引いてるツーツリア結晶はかなり人目を引いた。透明感はあんまりないけど水晶みたいなやつだから、どこでそんなに採れたのか聞かれることもあってエルダは普通に答えた。
「これに普及してもらう必要があるからね」
とのことだ。個人の金儲けよりも人類の未来を優先するのは、この世界の人間のサガだ。現実世界で水晶の産地なんて見つけたら独り占めする自信があるぞ俺は。
当然注目は、街に戻ってからも浴びることになった。人の集まる船着き場に、水晶を山ほど積んでるんだから無理もない。
「こいつはタマげたな・・・」
なんかもう、“ほぇ~~っ”って感じの反応だ。
「どこかに大きな釜のある工房はあるかしら?」
“この街ならありそうだけれど”、といったニュアンスでエルダが聞く。鉱山の街だからな。
「あ、ああ・・・あるにはあるが・・・」
“どうするつもりなんだ?”と言いたげだ。
「ここから金属ツーツリウムを取り出すわ。空いてる釜があれば貸してもらっていいかしら?」
「金属を取り出すだって? なんでまた、そんな綺麗な石なのにわざわざ」
「今みんなが使ってる機械よりも、馬力のあるものを作ろうと思って」
「なんだってぇ!?」
これに驚いたのは1人だけじゃなくて、周りの野次馬もザワつき始めた。ツーツリア結晶から金属を出すことがよほど珍しいみたいだ。金属なんて他にいくらでもあるし、わざわざこの綺麗なやつを溶かすなんて考えは起こさないんだろう。しかもエルダは、スチミウムの発見で良い機械ができたばかりだというこの状況で、その上を行くものを作ると言い放っている。
「蒸気の温度と圧力、もっと上げたいでしょう。でもそれをしようとすると、配管も羽根車も腐食する。だから、新しい材料で試すのよ」
「よく知ってるな、あんた・・・」
エルダは嘘もつかずに言った。だけど、水虹結晶ができないようにするためとは言わなかった。単純に、機械の能力だけで上位互換を作って普及させようって考えなんだろう。水虹結晶の話は後からでもできる。
「まあ、お前さんが採って来たものだから好きにして構わんが・・・」
明らかに金になりそうなこれを、ただの金属にするなんてもったいない。それは俺にも分かる。だけど、そうも言ってれらない状況なのも確かだ。こればかりは説明しても分かってもらえないかも知れないけど。
「あの辺に行ってみるといい。1個や2個ぐらい余ってる釜があるだろう」
おっちゃんは、町工場っぽいのが集まってる場所を指差した。
「ありがとう。行ってみるわ」
早速行ってみることにした。大量のツーツリア結晶も銀も船に放置だけど、この世界の人に“他人の物を盗む”という発想は出て来ない。水操術並みに凄いと思う。
釜どころか、工房を丸々貸してもらえることになった。「そこなら誰も使ってないぞ。見ての通り汚いけどな」とのことだった。学校の教室の倍ぐらいの広さで、確かに掃除は必要そうで散らかってもいるけど、エルダは「これならできそうね」と満足そうに言った。
大きめの荷台付きショベルを借りて石を運び出して、晩飯の後に作業が始まった。
「まずは銀の方を準備しましょう。そっちはそんなに難しくないから」
本当に難しくなくて、溶けた銀を流し落とす用の穴を釜に開けて、後は銀とフォーファイビウムをまとめて溶かすだけだった。溶かした銀は、他の工房から借りて来た金型に流し込まれる。普通に配管を作ってる人がいたから配管用の金型だ。1500度ぐらいまで溶けないらしいから、1000度で溶ける銀の金型に使える。ちなみに受け手となる金型も、500度ぐらいにはあっためておくらしい。
「さ、後は待つだけよ」
釜に火をつけたら、後は待つだけ。釜には銀とフォーファイビウムの他は薬品も水も入ってない。本当に温度だけで溶かすんだ。
「さて、と」
ツーツリウムの方は、かなりの手間になるらしい。メインの釜の他にサブの釜がいくつかあったり、それらが逆U字の配管で繋がれたり、サブ釜には水と電極を使うやつもあったりした。エルダが言うには・・・、
「使うのは、ツーツリア結晶・・・これからは酸化ツーツリウムと呼ぶわね。これと、炭と塩素よ。塩素は海水に電気を掛けると取り出せるわ。酸化ツーツリウムと炭を混ぜて1000度まで加熱した状態で塩素を混ぜると、塩化ツーツリウムが気体として取り出せるの。二酸化炭素も一緒にできてしまうのだけれど、塩化ツーツリウムは130度近くまで冷ませば液化するから分離できるわ。
今度は塩素を取り除かなければいけないのだけれど、これにはトゥエルビウムを使うわ。800度まで上げて液化させたトゥエルビウムに塩化ツーツリウムを送ると、塩素成分をトゥエルビウムが引き受けてくれるの。これでツーツリウムの完成よ」
俺は途中から理解するのを諦めたけど、とりあえずこれで金属のツーツリウムが取り出せるらしい。
「以前酸化ツーツリウムを手に入れた時、興味本位でやってみようと思ったのだけれど、苦労したわ」
俺は今の説明を聞くのに苦労したぞ。しかも理解は諦めた。
「けれどそのお陰で、必要になった今すぐに取り出せるのは良かったわ。方法を編み出すのに何十日かかったか分からなかったから」
「は・・・!?」
その方法を編み出すのに何十日もかけたのか・・・!? 確かに複雑そうだけど。そりゃ誰もやんねぇわ、他の金属もあるんだし。
さすがにこれは寝てる間に放置とは行かず、夜更かしすることになった。銀の方は割とすぐに、金型に流れ始めてくれた。真っ赤に光ってて、溶鉱炉のマグマみたいにドロドロだ。それがすぐに冷めていって、銀色に固まっていく。
「うっはー・・・」
釜の中も普通にドロドロになってた。マジで溶鉱炉みたいになってる。フォーファイビウムは溶けてないはずだけど、沈んだんかな。
「この分だと、銀の比率が多かったようね。良かったわ」
「フォーファイビウムの方が珍しいのか?」
「一般的にはそうね。そっちの方が高値で取引されることが多いわ。狩りに行く暇もないから、残った分は売りましょうか」
「おっ? マジか!」
キタぞ? 貴金属販売。金もコップ一杯分だけど採れてるから、そっちも売れるな。銀も売りてぇ~。
銀が全部溶け落ちた。金型3つ分が埋まって、中途半端に残った銀塊は保管だ。500度にキープされてた保温を止めて冷ましていく。溶けて真っ赤に光ってた液体銀の状態と比べると普通に金属の塊だけど、まだ500度か・・・。
「いい調子ね。こっちもできたわよ、ほら」
「おぉ~~っ」
エルダが小さい玉を指でつまんで見せてきた。多分ツーツリウムだ。見た目は銀とそんな変わらないか、先入観のせいか濃い目のグレーが混ざってるように見えなくもない。アルミもステンレスもこういう色だし、大抵の金属はこうだってエルダも言ってたな。
「上手く行ったんだな。配管も作れそうか?」
銀はフォーファイビウムとの分離ついでに溶かして金型に落としたけど、こっちはそうはしなかったみたいだ。
「ツーツリウムは融点が1700度近くあるから溶かすのが面倒なのよ。精錬の時に経由する塩化ツーツリウムの状態だけ、融点どころか沸点も150度を下回るから、そこから塩素を取り除く時に大きな塊にしようと思うわ。塊を切るだけなら、そんなに難しくないから」
「なるほどな・・・」
エルダは今までも散々配管とかを水操術ウォーターカッターで切ってきた。デカい塊を作ってくり抜く方がやりやすいのか。
「で、それが銀とかよりも手に入りやすくて錆びにくい金属ってことか」
「実はそうでもなくって、表面だけならもう酸化してしまってるのよ」
「えぇ?」
それでどうするんだよ?
「けれど、この酸化ツーツリウムがとても安定性が高くてね、以前遊びで作ったとき驚くほど腐食に強かったのよ。表面だけは酸化してしまうけれど、内側の腐食を防いでくれるのではないかと期待しているわ」
「表面にできる酸化ツーツリウムが本体をバリアしてくれるってことか」
「その解釈で合ってるわ。後は、800度まで耐えられるかだけれど・・・こればかりは、やってみる他ないわね」
ひとまず今日のところはこれまでになった。もう日付が変わる時間もとっくに過ぎてるからな・・・けど、夜更かしで泥臭い作業をやって銀を作るっていうのは、結構楽しかった。明日はいよいよ、純銀の配管を使って800度の蒸気を作ることになる。
次回:800度への挑戦