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第33話:説得

 街に着いた。そしたらすぐに軽い騒ぎになった。


「おい、あれ・・・!」


「あいつら、クジラを獲って来やがった・・・」


「それより見ろ! オリエントルカの群れを連れてるぞ!」


 歓迎されてる様子はあんまりなくて、むしろ遠巻きに見られてる。幾多もの船を沈めてきたオリエントルカの群れを、引き連れて帰って来たからな・・・。当のオリエントルカたちは、街のことを気にも留めない様子で沖の方に去って行った。


 人だかりが少しずつ増えてきて、変わらず俺たちは遠巻きに見られている。人々のオリエントルカへのイメージは相当なようで、一部の人は震えてさえいる。


「誤解があるようだけれど、力でねじ伏せた訳ではないわ。彼らの目の前でターボドライバを壊したら友好的になったのよ。それ以前に、ターボドライバがなければ襲って来ないようだったわ」


「ターボドライバだって?」


 よし、狙ってる方向に話が進んだ。


「ええ。彼らが漁船を襲ったのは、ターボドライバを無くさせるためよ。あれが海の水虹密度を下げるものだということは、知っているでしょう。

 なぜクジラの漁場だけが狙われたのかは分からないけれど、他の漁場で襲われるようになるのも時間の問題だと思うわ。だからそうなったらもう、ターボドライバは使わない方がいいわね」


「なん、だって・・・」


 さっきまでとは違う意味で、また騒がしくなる。


「その話は本当なのか・・・!?」


「自分たちで試してもらう他ないわね。ターボドライバがあれば襲われるし、なければ襲われない。おそらく明日から、クジラ以外の漁場も狙われるわよ」


「「「っ・・・」」」


 驚いたのか落胆したのか、一同が感嘆の声を出す。どんなに口で説明しても、信じてもらうには限度があるからな。ターボドライバがあれば襲われるし、なければ襲われない。体験してもらうのが一番だ。


「いずれにせよ、私は長くは滞在しないから、やってみないことにはクジラも、どんな魚も獲れなくなるわよ」


「「「っ・・・」」」


 ちょっと重苦しい雰囲気は変わらない。あとまだみんな、エルダにビビってるっぽい感じだ。力でねじ伏せた訳じゃないにしても、普通は即で沈められるところを、こうしてクジラを狩って来てるのを見せている。実際オリエントルカと壮絶な戦いを繰り広げた。それを街の人は知らないだろうけど、エルダに対してビビるのは正しい反応だ。


 そのエルダは、街の人たちに興味をなくしたかのような表情で海の方を向いて、水操術でクジラを打ち上げた。それがドンッ、と激しい音を立てて地面に降ろされた。


「それはそうと、久しぶりに食べたいの。料理人を募集するわ」


「「「お、おぉ・・・!!」」」


 エルダの言葉に、色んな人が反応を示した。最初はキョロキョロと互いの様子を見る感じだったけど、少しずつこっちに向かってくるようになって、いつの間にか人だかりになった。金を持って来るレストラン経営者に行商人、デカい包丁を持って来る漁師、つまみ食い狙いの子供、いろいろだ。



 結局、大金が入った上にクジラにもありつけた。丸々1頭分だったから、料理してもらってもお釣りが来た。歯ごたえがあってめっちゃ美味かった。エルダも「んん~~っ」っとご満悦の様子だった。相変わらず街の人からはちょっとビビられ続けてたけど。


 夜。もうやることもなくなって、俺は布団、エルダは椅子に座って雑談。


「もう、何日もここにいる必要はないわね。明日は休憩にして、2日後にはここを離れましょうか」


「だな」


 ただ、明日は“休憩”じゃなくて、“もっかいクジラを食べる”だと思う。


「・・・何か?」


「いいや、なんにも」


 エルダがこんな分かりやすい反応をするのが珍しいから、ちょっと面白い。


「全く。失礼な人ね」


 エルダはエルダで、結構無神経なとこあるけどな・・・。


「まだ何か?」


「なんでもねぇよっ」


 心の中でぐらい呟かせてくれよ。顔に出てんのかな、俺。


 あ、そうだ。


「なあ、イグニフォールはどここあるんだ?」


「ここから南の方角よ。大陸東側の火山、イグンマウンテンの中腹にあるわ」


「火山・・・!?」


 そういや、大陸の東海岸にもあるって言ってたな。


「そうよ。海岸線に沿って南北に連なる山脈になっていて、中心にある最も標高の高いものがイグンマウンテン。それを含めて50を超える火山群になっているわ」


「50!?」


 そんな火山ばっかり並んでるのか。


「3000キロにも及ぶ山脈だからね。それに、火山と言っても小さいものもあるし」


「3000キロ!?」


 日本列島超えるじゃんかよ。そりゃ火山が50個あってもおかしくないな。


「一旦海から山脈の中心を過ぎて、その先にある街へ行きましょう。イグニフォールにはターボドライバの材料も出回ってるはずよ」


「どれくらい使われてるか確認しないとな」


 マリンダースみたいに古くなったのを水虹結晶ごと倉庫に放り込んでたら問題だ。望み薄のような気もしてきたけど・・・。


「というか火山のそばに街があるんだな」


 噴火の予知はある程度はできるって話だったけど。


「イグンマウンテンこそが鉱物の産地だから、鉱山労働者たちの居住用に街があるの。ほとんどの人は更に南方のオンラヴァという街に家を構えているから、噴火の時期や、満足いく稼ぎなった時に帰るのね」


「出稼ぎの時だけイグニフォールに行くって感じか」


「一度行けば数十日は滞在するし、年の半分以上はイグニフォールにいるけれどね」


「マジか!」


 でも、そうだよな。仕事だし。半分単身赴任みたいなもんか。


「ここからイグニフォールへは3日かかるから、明日はしっかりと休んで、英気を養っていくわよ。お金もたくさん入ったし」


 あ、豪華な食事したいのを隠さなくなった。バレるのが恥ずかしくなったんだな。


「・・・明日、海でもちょっと遊びましょうか」


 怖ぇよ! 絶対俺をいじめる気だろ。


「た、の、し、み、ね。覚えてなさいよ」


 だから怖いって。明日痛い目に遭う未来なんか脳にインプットしたくねぇよ。


「それじゃあ、おやすみ」


 それでエルダは、俺に背中を向けていつものように分厚い本を読み始めた。考えてもしょうがないから、寝よう。



 --------------------------------



 次の日は、穏やかな1日を過ごした。午前中は。

 朝飯食って、散歩して、その辺の公園のベンチで昼寝して、街の子供たちと埠頭で釣りして、昨日のうちからクジラ漁に出てた人もいるらしく凄い勢いでお礼言われて、料理を振舞ってもらって、平和なひとときだった。午前中は。


 午後はまず買い物を済ませたけど、そこからは海水浴になった。エルダにしては珍しく、船を出すこともなく足が着く浜辺での、ごく普通の海水浴だった。


 だが、足が着く場所になったことには意味があった。そう、エルダが容赦ないのだ。


「うわっ、おいっ! やめろって!」


「大丈夫でしょう? このくらい」


 あばばばばばばば・・・。エルダに手を真下に引かれて水没、立ち上がると今度は肩を掴まれ倒されて水没、以降似たような攻撃の繰り返しという極悪非道なコンボ食らうことになった。立ち上がらずに水中を漂っていると水操術で強引に浮き上げられる始末だ。弱い者いじめはよくないと思いまーす。


「覚えてなさいって言ったでしょう?」


 今度は後ろから肩にのしかかられた。


「俺寝たら忘れるんだよ!」


「じゃあ思い出させてるわ」


 ドボーーン。


 案の定、沈められた。エルダは立ちあがったのか俺の肩から手を離した。何とか反撃したいところ。だが、このまま水面に出てもまた同じのを食らうだけだ。何か、良い手は・・・そうだ!


 目を開けると、エルダの足が見えた。よし。


「わっ」


 ドボーーン。


 成功。エルダの足を両方とも掴んで引っ張ると、背中からエルダが落ちて来た。よし、逃げよう。


 がしっ。


 げっ。左足を掴まれて振り返ると、エルダは最高の笑顔を見せていた。楽しそうで何よりだ。これから俺に何をして楽しむつもりなのだろうか。


 !


 まず、引っ張られた。一瞬のうちに俺はエルダのそばまで来た。そして、がっしりと、人質を取るようにホールドされた。やばい、やばい! 何されるんだ! 放せ!


 と、心の中で叫んでたら、意外と何もされなかった。また目を開けて見ると、相変わらずの怖い笑顔。ゾッとしたね。人って、命の危機は感じ取れるもんなんだね。


 しかし、怖い笑顔とは裏腹に、相変わらず何もしてこなかった。エルダにはサラシにいつもの上下繋がりの下着があるけど、それ越しでも肌の感触が柔らかいなと思える余裕さえあった。


 が、それも一瞬だけだった。そう、今は水中だ。息が苦しくなった。何かするんなら早くしてくれと思った瞬間、俺は悟った。エルダは、何もする気がないんだ。このまま俺を水中でホールドし続けるつもりだ。


 俺がそれを悟ったことにエルダも気付いたのか、ニィッコリと目を閉じて笑みを作った。やぁめろぉぉぉぉ!


 気付いてしまったのが災いしたのか、急に息がもたなくなった。やばい、溺れる! 溺れる! 死ぬ! べしべし、べしべしと、水の抵抗を受けながらも俺はエルダの肩を叩いた。それを5秒ぐらい繰り返したところで、“許してあげましょう”といった顔になって解放され、水操術で押されたのかすぐに水面に顔を出せた。


「ぶはっ、あー、あ゛~~・・・」


 エルダもすぐに出て来た。


「おい! 殺す気かよ!」


「あぁら。てっきり、どちらが長く潜っていられるか勝負を挑まれているのかと思って」


 んなワケないだろ・・・! だったとして、ホールドするようなルールはないだろ。


「ったく・・・」


 溜め息をつく以外にできることがない。せめて、筋力だけでもエルダに勝っていればと、いつも思う。


「まだ時間はあるから遊びましょうよ」


「まだやんのかよ!」


「今みたいなことはもうしないわよ。それとも、楽しくないの?」


 これがちょっと楽しいのが、本当に悔しい。



 その後も散々にやられ、反撃しようものなら5倍ぐらいで返されたりしながらも、イチャイ・・・浜辺で遊んだ。イチャイチャとは言えんだろこれ・・・。



 ということで休息日も終わり、次の日は鉱山でもあるという火山、イグンマウンテンにある街イグニフォールを目指した。やっぱり気になるのはターボドライバと同じ材料が使われてるかだけど、どうなのか。

次回:鉱山の街イグニフォール

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