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第24話:観光と準備

 次の日は、洞窟探検をしまくった。オズパーシー内にあるのは昨日の鍾乳洞だけだったけど、周辺には陸地にも断崖状の海岸にも、大小問わず至る所に洞窟があった。


「うっへぇ~~~」


 昨日の洞窟マニアさんが言った通り、1つ1つ違いがあって全然飽きない。正直素人目には似てるやつもあったけど・・・それでもたまに、見違えるほどの新空間があったりする。例えば今いる、赤い宝石が散りばめられている場所。


「これはサーテニア結晶ね」


 目立つ色なだけあって、名前が付いている。昨日の鍾乳洞最深部みたいに全面が結晶で覆われてる訳ではないし、むしろ9割以上は普通の岩の色だけど、壁にルビーみたいな赤い宝石が埋め込まれてるみたいで綺麗だ。こっちの明かりを反射してるのかキラッとしている。


「これも何かが酸化したものなのか?」


 昨日のツーツリア結晶は、ツーツリウムっていう金属が酸化したやつだったな。


「ええ。サーテニウムの酸化物よ」


 やっぱりか。そのネーミング規則は何なんだ?


「普通の酸化サーテニウムは白い石みたいな色をしているけれど、微量に含まれる金属種によっては色が付くことがあるの。ここのは赤いみたいだけれど、青くなるものもあるわよ」


「マジか」


 そしてこの後、本当に青い宝石がある洞窟も見つかった。すげぇな、金属。マニアになる人がいるのも分かる気がする。


 街の外の洞窟巡りの良いところは、人が少ないことだな。昨日の鍾乳洞は管理されてることもあって美術館か博物館みたいな感じだったけど、外の洞窟だと同時にいるのは多くても5~6人。貸切状態になることもあった。気になることがあるとすれば・・・、


「またか」


「大丈夫?」


「ああ、任せろ」


 ポァァン!


 森の中だとたまにイノシシが現れることだ。俺も少しは慣れてきて、というか守護神たるエルダがいる状況に慣れて、水虹銃を当てきれる距離まで近付くを待てるようになった。とは言え、


「あとは私がやるわね」


 一発で仕留めきれることは少ない。その時は守護神の出番ということになる。


「街に帰ったら売りましょう」


 観光中に襲われるのは鬱陶しいけど、プラスの面もない訳ではない。でも船に積める量も限られているので、後半は専ら海岸の洞窟を巡ることになった。ちょっとよじ登らないと入れなかったり、船に乗ったまま中に入れたりするものもあった。


 とある洞窟で奥に進んでいる途中で、重そうなカゴを背負った2人組とすれ違った。宝石を採取したんだろうか。完全にすれ違って、声も聞こえないぐらい離れたところで聞いてみた。


「宝石があったら自由に持ってっていいのか?」


「構わないはずよ。壁を削ってもまた次のものが姿を出すし」


「なるほど・・・」


 外から埋め込まれてるんじゃなくて、初めから中に入ってるんだもんな。


「採りに来る労力の代わりにお金で解決する人もいるからね」


 確かに。宝石屋で売ってる宝石も、誰かが山で採ってきたものだ。俺らの世界だと一般人が勝手に宝石採取はできないと思うけど。


「1つ1つは小さいし、周りの岩と一緒に削り落とすことになるから、あとの加工も手間が掛かるのよね」


「そうなのか?」


「ええ。宝石そのものを削るのは困難よ。だから周りの石ごと採って、あとから石の方を削ぎ落すことになるの」


「あぁ~っ、なるほどな」


 確かにダイヤとかルビーって、工具でガリガリやっても削れるイメージないな。壁側に宝石の外周を残す覚悟でくり抜いてをゲット、はできなさそうだ。


「研磨なら何とかできるから、それで光沢を強くしたものが売られるわね。洞窟にあるものよりも綺麗になるから、そっちを好む人も少なくないわね」


「ふ~~~ん」


 これでも十分綺麗だと思うんだけどな。暗い洞窟で明かりを持ってるだけだから分かりにくいけど、さすがに宝石店に並んでるやつには敵わないか。


「宝石だけを眺めるなら買っていれば良いのだけれど、岩に混ざっているのを見る方が趣があって私はいいわね」


 エルダならそうだよな。誰かが仕上げた宝石単体を手に入れてウットリ、っていうタイプじゃないだろう。


「洞窟は洞窟で、人に削られたりもするけどな」


「人の手が入るからこそ、楽しめることもあるわよ」


「なんでだ?」


 こういうのって、完全な天然の方が良さそうだけど。


「壁を削ってもまた宝石は出ると話をしたけれど、分布に偏りがあるから、しばらく出なくなることもあれば、ただの壁を削って出て来ることもあるわ」


 自然にあるものだからな。金太郎飴みたいに切っても切っても同じ模様ってことはないだろう。


「ああやって採取する人たちもいるから、来るたびに景色も変わるはずよ。そういうのを楽しみの1つにするのも良いんじゃない?」


「おぉぉ~っ・・・!」


 それはちょっと面白いな。洞窟の壁削る人がいるんだから、その模様も変わるに決まってる。全く同じ模様には二度とならないってことか。確かにこれは飽きないかも知れない。今までその文化が守られてるなら、1人で乱獲しまくったり爆破したりする不届き者も出てないんだろう。


 採取する人がいたぐらいだから、ここにも宝石はあった。これが、黄緑だった。


「ほぇぇ~~っ。こんな色もあるんだな」


 エメラルド、じゃないな。絵の具で表現するなら黄緑に白を混ぜたような感じだ。こんな色の宝石もあるんだな。こっちの世界にあるかは知らないけど。


「これもサーテニア結晶の1種なのか?」


「私もそこまで詳しくないのだけれど・・・緑のサーテニア結晶は聞いたことがないわね。別のものではないかしら。全ての宝石がサーテニアという訳でもないから」


「色々あるんだな」


 昨日のもツーツリアってやつだったしな。金属にも色々あるんだから、宝石にも色々あるってことか。



 洞窟ツアーをしている間に、夕方が迫ってきた。


「暗くなる前に、泳ぎましょうか」


「え?」


 バシャン。


 気付けば海に引きずり落とされていた。なあ、夏でも20度の土地だから冷たいんだけど・・・。あと俺は服着たまま落とされたのに、エルダはちゃっかり上着脱いでるのがなんかムカつく・・・着替えぐらいあるからいいけどさ。


「泳ぎも少し上達したんじゃない?」


「かもね」


 足着かない海とか湖で散々泳くことになったからな。というか足着く場所でエルダが泳がないんだよ。あいつ基本潜るから。


「あの辺りに行ってみましょうよ。浅いから」


「はいよ」


 お蔭さまで、3~4メートル程度の深さなら余裕で行けるようになった。息も40か50秒ぐらいはもつ。そして、


「ぽあぁっ!」


 限界近くまで付き合って水操術で一気に打ち上げられるのがセットだ。これ自体はやめてくれって感じなんだけど、直前にいつもエルダに背中をそっと触られるのがまんざらでもでもない。なんて思ってることだけは絶対に知られたくない。



 次の日は、氷河に行く準備をした。まず、服。俺はもちろん、エルダもずっと南側にしか住んでなかったから薄着しかない。ここの夜を過ごす用の長袖は買ったけど、まだまだ心許ない。


 これから行く氷河は真夏の昼間でも5度って話だ。普通に真冬の装いが必要になる。エルダによると今日は192の日、こっちの世界で言うところの7月12日だけど、コートとかマフラーも普通に売ってた。氷河には行かないにしても行商人は大陸の北回りで移動することもあるからだろう。

 あと、これは中古屋にしかなかったけど、ロシア人が履いてるような靴も買った。サンダルで氷河に行くなんて自殺行為だからな・・・。


「寝具も必要ね。あんな薄いものでは凍えてしまうわ」


 寝心地以前の問題があったな。夜は絶対に0度以下だし、寒くて死ぬ。


「これなんかいいんじゃない? とても柔らかいわ」


 今まで薄っぺらいタオルケット的なので寝てきたエルダも、ふかふかの布団を前にはこの様子だ。


「一度これで寝ると安い宿屋にも泊まれなくなってしまいそうね・・・」


 確かに。でも、これを機にグレードを上げてもらいたいもんだ。金に余裕はあるんだから。


「てか布団だけで凌げるのか?」


「無理よ。だからヒーターも買うわよ。室内で火は起こせないから」


 火なんて起こして寝ようもんなら、凍死はしなくても中毒死だな。


 エルダの言った“ヒーター”は、ストーブみたいなものだった。コタツ中にあるアレが表に出てて、スイッチを入れればオレンジに光る。水虹と金属の反応で発電してるらしい。水を補充するだけでいいから、水ストーブだな。



 次に買ったのは、鍋。


「あれ? 持ってなかったか?」


 確かクロスルートで、買った石を砕いてホーロー鍋みたいなやつで煮込んでたような気がする。


「あれは実験用よ。これから買うのは調理用。それとも、薬品を使った鍋で作ったスープを飲みたいのかしら?」


「嫌だ!」


 そういうことか。そういえばいつもスタビリウム板で焼いてばっかりだったな。寒い場所に行くとなるとスープも欲しくなる。ここまで鍋料理がなかったのは、エルダが茹でよりも焼きが好きなせいだと思う。俺もそうだけど。


 ということで大きめの土鍋と、加熱・発電用金属粉の原料になる石も買いに行った。後で石を薬品で煮込む姿を見ることになるけど、本当に魔女そのものなんだよな・・・。



 午後は食糧集めだ。


「多めに買っておきましょう。シカぐらいは出るけれど他の動物や魚は極端に少ないから、現地調達に苦労するわよ。寒いから保存も効くしね」


「ほぼ冬の山だもんな」


 寒いから動物は少ない。けど、寒いから保存が効く。買い溜めしておくのがベストだな。


「保冷用の入れ物とかあるのか?」


「あるわよ。それも買いましょう」


 この世界のクーラーボックスは陶器の箱だった。もちろんただの箱じゃなくて、外側から、陶器・空洞・陶器・氷・陶器の5層構造になってるらしい。ぶ厚くて、ざっと5センチはある。

 氷を使ってるせいかこれ自身も保冷箱みたいなのに入って売られていた。氷が溶けるまでの時間制限付きだけど、氷河に行けば0度切ることもあるしまた凍る。


「そういや、保冷ってどうやってるんだ?」


 持ち運び用のは氷の塊に任せてるっぽいけど、据え置きタイプの冷蔵庫みたいなのはどうしてるんだろ。


「水の蒸発で熱が奪われる作用を利用しているわ」


「蒸発?」


「そう。物質が融解や気化するのには熱が必要で、例えば容器に入れた水が蒸発する時は、周りから熱を奪ってるのよ」


 聞いたことあるような、ないような。


「でも、それで冷気なんて出せるのか?」


「正確には、冷やした水を使って冷気を作ってるの。だから、水を冷やす方法を話すわね」


 あ、これ、難しい話になるやつだ。


「まず、水が循環する流路を2つ用意するの」


「ふんふん」


 まだ簡単だな。


「片方の流路には、水を蒸発させるためのプールを設けて、もう片方の流路は、一部がプールに浸かるような経路にする」


「うん」


 まだ、大丈夫。


「プールがある方を1番、プールを通る方を2番としましょう。

 2番の流路を流れる水は、プールに突入する手前では暖かくしておくの。こうすれば、プールの中の水は2番の流路から熱を受けて温度が上がる」


「う・・・うん」


 なんとか、分かる。


「反対に、熱を奪われる2番流路内の水は、温度が下がるわ」


 だよな。


「あれ? わざわざあったかくして送った方を冷やすのか?」


「実は、2番流路の水は、室温でも大丈夫なのよ。水虹と金属の反応で上げてもいいけれど」


「あ、ふーん・・・」


「一度冷えてしまった分も、よそで冷気を作る時に相手の空気から熱を奪うから温度が上がるわ」


 ふーん・・・。


「肝は1番流路の方にあるわ。箱や配管に閉じ込めた狭い空間ならポンプを使えば圧力がコントロールできるから、それは沸点や蒸発量をコントロールできることを意味するの」


 ふーん・・・そうなんだな・・・。


「詳細は省くけれど、温度が上がるだけで、沸点には届かなくても一部が蒸発するのよ」


 そーですかー・・・あれかな、その辺に放置してる水もほっとけば蒸発するし、温度高い方がそれも促進されるんだろう。


「そういう訳だから、とにかく大量に蒸発させれば2番流路の水は冷やせるわ」


 一気に説明が雑になったな・・・理解が追い付かない俺が悪いんだけどさ。


「実際の道具では、プールの蒸発量をコントロールして、2番の水をどこまで冷やすか決めるの。2番の水も、圧力を上げれば融点が下がるから氷点下にもできるわ」


「ああ、それで・・・」


 冷凍庫だってできる訳だな。


「けれど船に乗せるには大きいから、こちらの方にしましょう」


 という訳で買ったのが5層構造の容器だ。陶器と氷なだけあって重そうだけど、台車も買った。あとはこれに食材をバンバン入れてくだけだ。



 買い物が終わり、宿屋に戻る前に荷物を船に運ぶ。買ったばかりの布団を部屋に入れる前に、エルダが「ちょっと待って」と言って床を漁り始めた。・・・あ、床下収納。そんなのがあったのか。そこから取り出されたのは、ホーロー鍋。そして液体の入った瓶。


「薬液に電圧をかけると、鉱石中の金属成分を取り出すことができるのよ」


 石煮込みがマジで魔女にしか見えねえ・・・。



 作業後は晩飯をその辺で食って宿屋へ。布団を新調したとは言え、ちゃんとした場所で寝るのはまた当分ないのか。魔女の作業で血の気が引いた分も含めて、しっかり英気を養っておこう。

次回:フリーグ氷河

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