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第22話:岬の街オズパーシー

「ハァ、ハァ、ハァ・・・まだ歩くのかよ・・・」


「ま~だよ。このペースなら今日はずっと歩きね」


「えぇ・・・!?」


 ヨーラーを離れて2日目。俺たちは今、山道を歩いている。いや、道という道はないからマジで単純に山を歩いてる。次の街オズパーシーまでのルートを、オズパーシー水系の川の所まで北上してその川に乗るってしたからだ。


 別の水系に行くには陸移動がいる。コリス・ヨーラー水系にいるうちはV字移動の繰り返しが基本だったけど、もうそこは離れた。今日はもう(休憩はたまに取るけど)半日は歩きっぱなしで、足がパンパンだ。


「今日は半分ぐらい船って言ってなかったか~?」


 オズパーシー水系までは3日かかるらしいけど、他にも独立した川はいくつかあるから、そこは船移動できる。船に乗りてえ・・・船って、偉大だったんだな。


「あなたが途中で失速しなければ、の話だったのよ」


 そういうエルダは、ヘロヘロになってる俺の横で、余裕そうな顔して船を水で浮かばせている。水操術も疲れの要因になるはずなのに、俺と同じ量の歩きに加えてそれだからな・・・本当にタフな奴だ。


「いっそのことこれに乗る?」


「い・・・」


 船の誘惑。ここでイエスと言えば楽になれる。楽になりたい・・・ああ、あれに乗れさえすれば・・・! こんなにも船に誘惑されたのなんて初めてだ。


「いや、やめとく。ここいらで鍛えといた方がいいだろ」


「感心なことね」


 なんか乗ったら負けな気がするんだよ。船乗りたるもの陸では船に乗らん! とまでは言わないけど。


「でも・・・ちょっと、休憩させてくれ・・・」


「はいはい」


 運よくすぐにちょっとした池が見つかり、もう何回目か分からない休憩。


「フゥ、フゥ、あ゛ぁ゛~~・・・」


 生き返らない。文字通りの足休めにしかならない。けど、休める。ああ、休める。


 ガサガサッ。


「ん?」


 左を見るといたのは、


「げっ!」


 イノシシだった。


「私がやるわよ」


 エルダが池から少量の水を出して、それをピッと飛ばした。イノシシは足を怪我して、それでも威嚇を続けたけど勝ち目がないと悟ったのか退散した。


「日没までに着きそうになくなったら、乗ってもらうからね」


 エルダは船を指差しながら言った。ぜってー乗らねえからな・・・。



 結論から言うと乗ることになった。時間切れになったんじゃなくて、歩けなくなったからだ。というか立てなくなったから、布団に寝かされて横になってる。水操術で浮かばせてるとは言え、人が運んでる船の上で寝るなんて自分でもビックリだ。人って、休み休み行けば1日ぐらい歩けるもんだと思ってた。


「着いたわよ」


「ん、ん・・・?」


 やっべマジで寝てた。目を開けるとエルダが上から顔を覗かせていた。


「お・・・水か」


 船が水に浮いて揺れてる感覚がする。水場まで着いたんだ。


「悪ぃ・・・」


 頭が上がんねえ。


「別にいいわよ。元は1人でやるつもりだったことなんだから」


 そうか、エルダが怒ったりしないのはこれか。元々1人旅だったところに俺が来たから、俺が何かやった分だけプラスで何もしなくてもマイナスは無いって考えか。今日は文字通りのお荷物になったけど・・・船の重さに比べたらゴミみたいなもんか。マジでゴミ扱いされないようにしなきゃだけど。


「けれど疲れたわ。私も休もっ」


 ボフッ。


 エルダが俺の隣にうつぶせで倒れ込んだ。タオルケットの上に乗る形で、中には入って来なかったけど。顔も反対を向いてたけど、わざわざこっちに向けてきた。


「寝具、やっぱりもう少し上等なものが欲しいわね」


 近い。


「でも俺らが入れるような店にあるのか?」


 確か高級家具屋は貴族ご用達店しかなくて、こんな体操用のマットみたいなのとタオルケットになったはずだ。エルダのはもっと薄くて絨毯みたいだ。


「クロスルートでは無理だったけれど、オズパーシーに期待しましょう。最悪はお金で突破を図るわ」


 エルダは見た目は良いし、俺が付いて行かなきゃ普通に大丈夫かもな。


「てかエルダは薄いのでも平気なんじゃなかったのか?」


「疲れている時は、さすがにね」


 一応そのくらいの繊細さはあったらしい。船を水に浮かばせて運ぶのも疲れるだろうし。


「だからもう少しここで休ませて」


「それはいいけどよ」


 その、とろーんとした感じの目はやめて欲しい。耐え切れず、目も逸らして立ち上がった。


「んじゃ、今まで寝てたぶん俺が船進めとくわ」


 まだ外は明るい。時計を見ると4時ぐらいだった。


「えー別にいいわよ。あなたも休んでなさいよ。私が寝てる間に動けなくなられても困るわ」


「う・・・」


 そうなる可能性は否定できない。もう普通に歩けるし船の操縦に足は使わないけど・・・否定できない。


「せっかく2人で旅しているのだから、別々に行動することもないわ」


 意外だな。エルダみたいな論理派は、1人が働いて1人が休むのを交代でやればいいとか言いそうだと思ってた。わからん。


「そういうことなら、まあ・・・」


 とは言えあんまり眠くなかったし、エルダのすぐ横で寝たくもなかったから、いつもエルダが使ってる椅子に座ることにした。実は初めてだ。普通に、固い木の椅子だった。


「それじゃあおやすみなさい」


「ああ」


 それでエルダは目をつぶった。珍しかったはずのエルダの寝顔を、また見ることになるなんてな。


 ぐぅぅ~~~。


 腹減った。なんか焼いて食おう。


 --------------------------------


 それから2日かけて、川をV字移動したり陸を歩いたりしながら北を目指し、


「ここね。オズパーシー水系よ」


 ようやく地獄の北上が終わった。あとはひたすら船で街を目指すだけだ。


「うっし、行くか」


 エルダが川に下ろした船に乗り込んで、早速動かす準備をする。


「あら、随分元気じゃない。さっきまでヘロヘロだったのに」


「なんか急に元気出たわ」


「そういうものよね、人って」


 そういうものなんだよ、人は。病は気からって言葉があるけど、体力も気からくるらしい。


「ひゃっほーい!」


 ここからオズパーシーにかけてはずっと下りだ。今まで散々歩かされた分、楽しませてもらわなきゃな。


 ブルッ。


「ん?」


 一瞬、身体がブルッと震えた。寒い? いや涼しい。


「風が冷たくて気持ちいいな!」


「そうね。だいぶ北上してきたから」


 “北上してきた”って言葉からも、ゴールが近付いてることが実感できてテンション上がる。


「けどもうすぐ夏なんじゃなかったっけ?」


 今は多分、1年のうちの180か190日目で、こっちの世界で言うと7月頭ぐらいだから間違っちゃいないはずだ。


「オズパーシーは真夏でも20℃を超えることはないと聞くわ」


「マジか!」


 そりゃめっちゃ涼しいな。30超えないってだけで十分なのに、20超えないとか神だろ。

 そういや赤道付近だったクロスルートもあんまり暑くなかったし、この世界が全体的に涼しめなんかな。


「それに今は、標高1000メートルの場所にいるから」


「あ」


 そうだった。俺たち山にいるんだった。ってことは15℃ぐらいかも知れない訳で、半袖だと風も冷たく感じるはずだ。で、今、方角的には10時の方向に向かってるから、もうちょっと北に行くわけだ。標高は下がるけど。


「んじゃ飛ばしてくぞぉ~~っ」


 進むたびに涼しくなっていくような気がしながら、向かい風を全身で受けてオズパーシーを目指した。


 --------------------------------


 適当な池で一泊して次の日。


「お、海だ!」


 昨日と同じように船で進んでると左右に海が見えてきた。先細っていくような地形になってて、真っ正面はまだ地面が続いてる。まだ街は見えないから真っ直ぐか?


「オズパーシーはこの岬の先端よ。このまま進んで頂戴」


「オッケー!」


 川は横の海に向かう支流も多いけど、メインのはこの岬の先端に向かってる。もうエルダの案内がなくても行けそうだ。どんどん陸地が細くなって左右に海が広くなっていく。山からもだいぶ下ってきて、潮の香りもしてきた。ゴールは近い。久々の海にテンションが上がる。


「オズパーシーって、どんな街なんだろうな」


「有名なのは、鍾乳洞ね」


「鍾乳洞?」


「そうよ。街の中にあるみたい。自然にできたもので、洞内は年中5℃ぐらいしかないわ」


「5℃!?」


 そりゃ涼しいを通り越して寒いだろ。


「地中だと日射の影響を受けにくいのよ。海で深く潜ると水温が下がるのと同じね。近くに火山もないからこんな低い温度になっているのだと思うわ」


「へぇ~っ。そこって入れるのか?」


「入れるわよ。行ってみましょうか」


「だな!」


 鍾乳洞かあ。入ったことないから楽しみだな。



 それからしばらく進んでると、


「街だ!」


 ついに岬の先端が見えた。いつものように街中に張り巡らされてる水虹菅も。まだ遠くてよく分からないけど、淡い灰色が多くて雰囲気とはしてはクロスルートに似てるかな。全体的に低地で高低差がないってだけで。


「着いたわね。このまま行きましょう」


 待ってろよ鍾乳洞!



 オズパーシーに着いた。


「かなり賑わってんな」


 街のあちこちで人がウロついてた。けどクロスルートみたいな広さは無さそうで、高い建物も少ないから開放感がある。その開放感が乗ってるみたいに住人たちが明るい。


「ヨーラーの調子が悪かったからね」


「ああ、そっか」


 あのサルのせいで沈みきってたからな。前に寄った街がそうだったからそのギャップも感じてるんだろう。


「ひとまず食事にしましょう。久々に海水魚が食べられるわ」


 そういや海に戻って来たのはランデス湖群を離れて以来か。俺も魚にすっかな。



 適当な店でランチ。


「ぷはーっ! 食った食った」


 海水魚うんぬんの前に、落ち着いてメシ食うこと自体久々な気がする。ヨーラーでは解決後も何かと街が慌ただしかったし。


「それじゃあ行きましょうか、鍾乳洞」


「よっしゃ」


 店員に場所を聞いて、ちょっと離れてるっぽいから船に乗って鍾乳洞を目指した。

次回:鍾乳洞

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