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第21話:休息

「ご協力、感謝する」


「別にいいわ。個人的な調査の一環だし」


 戻って来る頃には日も沈んでしまっていて、王国の調査団もたくさんいた。サルが水虹結晶を量産してた事実には誰もが耳を疑ったけど、船に積んで帰って来てたことで説得力が付いた。

 他にも水操術を使うサルがいるかも知れないということですぐに兵士が増員されることになったのと、次の日から2日間俺たちも付き合った。けど、これ以上は民間人の手は借りられないと言われ、やることが無くなった。


 切り株に座ってパンをかじりながら、街の様子を眺める。事態が解決の方向に動いたことで、住人からは笑顔も見えるようになってきた。夜だというのに、2日前の昼間と比べたらうんと人が多い。こんな明るい街だったんだな、ここ。


「もう2日はここで過ごしましょうか。水虹密度がちゃんと戻るかは気になるわ」


「だな」


 融点800度の水虹結晶を溶かすのは普通の人にはできないけど、エルダには自作の金属粉がある。水虹と反応しやすい材料は水虹結晶とも反応するから、石の釜に水虹結晶と大量の粉を入れれば溶けるらしい。そこに普通の水を混ぜて、ろ過して金属粉を除去すれば低水虹症の薬(と言ってもただの水、水虹密度が高いだけ)の出来上がりだ。

 低水虹症で寝込んでる人たちはそれと、他の街からも運ばれて来る水で快方に向かっている。川とか水虹菅の水も、エルダによると2日前よりマシになってるらしいけど、人が健康に暮らすにはまだ不十分だそうだ。街の雰囲気ももう少し良くなって欲しいし、待ってみよう。


「けど、いきなり手伝わなくていいなんて言われても暇だな」


「いいんじゃない。ちょっと疲れたし」


 エルダが両手を上げて背伸びをした。水操術を使うボスザルは昨日と今日で1匹ずつ見つけて、そこに行くまでの間も小ザルどもに襲われるものだから確かに疲れはある。俺はポァンポァン水虹銃撃ってただけだけど。


「なあ、次はどこに行くんだ?」


 そういえば聞いてなかった。


「峠を越えて東側に来ちゃったけれど、一旦西側に戻りましょう。大陸の北北西の海岸にオズパーシーという街があるわ」


「お、じゃあまず西側から制覇だな」


「そうなるわね」


 東は東で何があるか気になるけど、後のお楽しみってことで。


「海岸沿いってことは、ランデス湖群まで戻るのか?」


「いいえ、せっかくだから道を変えましょうか。この中央山脈を北上して、オズパーシー水系に入ったら西を目指しましょう」


「そうこなくっちゃな」


 同じ道を通るんじゃつまんないからな。オズパーシーか、どんな街なんだろうな。これも行ってのお楽しみだ。


「また長旅になるからしっかり休まなきゃね。ふあぁ~~~あ」


 エルダがあくびをした。たまに見るけど、エルダが気の抜けた顔をするのが俺の中でちょっとツボになってる。


「どうかしたの?」


「何でもねーよっ」


 自分のあくび顔が人のツボになってることも知らずに、キョトンとしてる。これも地味にツボだ。


「んん~~~~っ」


 エルダはまた背伸びをして立ち上がった。


「せっかくだし木の上で休もうかしら」


「はぁ?」


「あなたも来る?」


「いや、俺はいい」


「暇なのでしょう、来なさいよ」


 そう言うとエルダは返事も聞かずに歩き出した。俺も渋々立ち上がって、後を追う。街の人もよく木に登るのか、ハシゴが掛かってたりヤグラが組んであるのもある。適当にヤグラを上って、太めの枝に飛び移って、しばらくピョンピョン移動して、


 ズルッ。


「うわっ!」


 がしっ。


「何をしているの」


「わりぃわりぃ、サンキュ」


 あぶねー、落ちるとこだった。引き上げてもらって、また進む。


「ここにしようかしら」


「え、そんなところでか?」


「ん? 安定しそうだけれど」


 どこかだよ・・・体が1/4周回っただけで落ちるだろ、そこ。でもエルダはお構いなしに座って、横にはならずに太い幹に背中を預けた。あ、それで寝るのか。益々起用だな。

 てか俺寝る場所ねーじゃん。どのみち木の上でなんて寝付けないけど。とりあえず俺も座ることにして、エルダと同じ木の、すぐ隣の枝にした。エルダの枝が12時の方向なら、俺の枝は2時ぐらいか。


「こんな所まで来てしまったわね」


「エルダは70日ぐらい旅してるんじゃないのか?」


 確か、俺と会った時が50日ぐらいで、それからもう20日経ってる。元の世界に帰れる気配は一向にないけど・・・。


「クロスルートまでの間は、ほとんど近場よ」


 エルダは目を閉じて、笑みを浮かべている。落ち着いてるように見えて、普段とは違う雰囲気を満喫してるのかもな。確かに、夜風が気持ちいい。


「なんだか、楽しそうだな」


「ええ、楽しいわ。とっても」


 相変わらず笑みを浮かべてるエルダ。本心を言ってるみたいだ。初めての土地を訪れながら、趣味である水の調査。自由気ままに生きてるって感じだな。ここ3日は街のためにも動いてたけど、エルダは木の上でのんびり寝てる方が似合ってるのかも知れない。そこに一緒にいれて、俺もちょっと、いや結構楽しい。


「もしかすると、」


「ん?」


 ザザーッ、と、さざめきが鳴って周りの葉っぱが揺れる。


「旅のお供がいるからというのも、あるかも知れないわね」


「っ・・・」


 エルダがそんなこと言うなんて珍しいな。おもちゃか弟ぐらいにしか思ってないんだと思ってた。こういう恥ずいセリフを平然と言ってくるから困るんだよな。


「足を引っ張らずに済んでるみたいで、よかったよ」


 エルダは目を閉じたままだったのに、そこから視線を外して答えた。


「ええ。これからもよろしくね」


「こっちこそ、よろしくな」


 まだまだ、先は長い。ゴールがどこにあるのか、そもそもあるかどうかさえも分からない。けど旅自体が楽しいから、俺ものんびり行きたいと思う。


「本当に眠くなってきちゃった。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 それからエルダは一言も話しかけてこなくなった。実際寝付いたみたいで、途中からお腹も動いて寝息も立てるようになった。こんな所でホントに器用だな。


 そういえばエルダが寝てる姿ってあんまり見ないな。いつも俺が先に寝るし起きるのも遅い。こうして見ると普通にお姉さんって感じなんだけどな。水をブンブン振り回してる姿ばっかり見るからギャップが凄い。俺は・・・マジ何の変哲もない男子高校生だな。もうちょっと頑張るか。



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 それから2日が経った。


「うん、結構良くなってきたわね」


 川と、水虹菅から取り出せる水、両方をエルダがチェックした。まだちょっと微妙らしいけど、この調子なら大丈夫だろうとのことだ。


「そろそろ体を動かしたくなってきちゃった」


「散々動かしただろ」


 結局、休息日だった昨日と今日は、森に出掛けて狩りをしたり池で泳いだりした。じっとしてられない性分なんだろうな、俺たちって。


「それとこれとは別よ。大きな移動をしたくなる時もあるの」


「そうかよ」


 気持ちはすっごく分かるけど。



 翌朝、街を出る前に王国の人に声を掛けたけど、引き止められたりすることもなかった。


「後のことは任せて、旅を続けるといい。また何かあったら近くの街の兵に知らせてくれ」


「ええ、そうするわ」


 民間人は民間人で出来ることがある、ってね。俺たちの場合、自分らの目的の副産物ってことになるけど。


「それじゃあトオル、行きましょうか」


「ああ」


 こうして俺たちは船に乗り込み、ヨーラーを後にした。

次回:岬の街オズパーシー

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