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第17話:モンス・コリスの水源

 次の日は、さっそく昨日よりも遠出した。船を東に進めて川をのぼる。川もそんなにうねってないから高速道路みたいにぶっ飛ばせるけど、街に戻んなきゃだし、ところどころで水を調べるだろうから、どこまで行けるか。


 どれくらい進んだだろうか、2時間ぐらいしたところでエルダが俺のそばまで近付いて来た。


「少し休憩しましょう。船を止めて頂戴」


 確かに小腹が空いてきた。この辺で腹ごしらえするか。いつものスタビリウム板を敷いて粉をまぶして水で火を点ける。相変わらず便利だな、粉に水まくだけで火が点くなんて。


 ある程度食べ終わると、エルダがもぐもぐしながら船を降りて散歩を始めた。


「ふぉないの?」


「は?」


 “来ないの?”と言ったらしい。キョトンとした目をこっちに向けている。


「ちょっと待ってくれ」


 離れるのかよ。言ってくれないと分からないだろ。

 この辺りは川が小刻みにいくつも並んでいて、隣の川ならすぐだ。10秒もしないうちに着いた。エルダが足を入れて岸に座り、両手で水をすくう。


「ま、こっちも変わらないわね」


 水虹密度のことだろう。そう言ってエルダはすくったばかりの水を落とした。それから手は後ろについて軽くのけぞる体勢になって、そのまま景色を眺めている。森とか林はなくて、傾斜はゆるいけど結構のぼって来たから見晴らしは良い。俺もサンダルのまま川に足を入れて、隣に座った。


 バシャン。


「うわっ」


 いきなり水を掛けられた。


「何すんだよ」


「いいじゃない。せっかく旅のお供がいるんだから、こうした方が楽しいでしょう?」


 なんて開き直り方だ。だけど、一緒にいる奴と遊びたくなるってのは俺も同じだ。


「そう、だよ、なっ!」


 バシャン。


「おわっ!」


 何でだ? 反撃したのにこっちが濡れた。って、エルダは水操れるんだった。


「あっははは! 本当に楽しいわね!」


 こいつ・・・。そっちがそうなら、


「ん?」


 俺はエルダの手を掴んで、


「おらっ!」


 バシャーン!


 川に向かって投げ飛ばした。・・・あ。やりすぎた。いや待て、エルダなら防御できるはずだ。ということは・・・、


「ふっふ~ん。やってくれたわね?」


 やっぱり、狙ってさせたのか。川の深さは風呂ぐらいで、エルダはすぐに体を起こしてこっちを向いた。俺は逃げる気にもなれず、諦めた。


「仕返しよ。それっ♪」


「おい・・・」


 分かってたこととは言え、血の気が引いた。川の水が俺の視界いっぱいに広がって襲い掛かってきた。


「うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 体が水に呑まれて、洗濯機に巻き込まれたらこうなんじゃないかってぐらいにグワングワンにされて、気付いた頃には俺は川の中にうつ伏せで倒れていた。


 どうやら収まったようなので、川底に手をついて起き上がる。エルダはすぐ隣に座っていて、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「どう? 楽めたかしら?」


「くっそ・・・」


 水場では、いやそれ抜きの体術でもエルダには敵わない。まあでも、俺を釣るためとは言え一度はやられてくれたし、エルダ自身もズブ濡れだから悪い気はしない。まんざらでもないと思ってること自体がちょっと悔しいけど。


「濡れてしまったわね」


「脱ぐのかよ・・・」


 エルダは服を脱いでシャワー上がりの時と同じ恰好になった。内側にサラシがあるだけマシだけど、なんでそんなにためらいがないんだ。そういう種族なのか?


「んん~~っ。やっぱり気持ち良いわね。私って水が好きなのよ」


「そうかよ」


 じゃなきゃこんな所で服濡らしてまで川遊びなんてしないだろうけど。俺もシャツが張り付いてるのが鬱陶しくなってきたから脱いだ。なんだこの状況・・・。


「それっ」


 バシャン。


 まだ続けるのか。


「あなたもどうぞ? もう水操術は使わないわ」


 結局、5分ぐらいその場で遊んだ。絞った服を持って船へと歩く。


「人に水を掛けてもらうというのも、中々に良いものね」


 うん、エルダって、人に奉仕させるの好きそうだよな。途中から俺に水を掛けさせてる感が強かった。


「何か言った?」


「言ってねーよ」


「なんだか他意を感じてしまうのよね」


 それは気のせいじゃないな。鋭くて困るけど。



 船まで戻って来た。エルダはしょっちゅう泳ぐから気にしないみたいだけど俺は服も着替えたいしでシャワーを浴びに行った。その間にもエルダが船を進める。

 シャワーから上がっても「たまには私がやるわ」とエルダが操縦を引き受けて、東に向かって川のぼりを続けた。


 ちょうど昼間になる頃、エルダが船を止めた。昼飯だ。


「どの辺まで来たんだ?」


「うーん、モンス・コリスから東に400キロメートルほどかしら」


「うおっ」


 結構来たな。大阪から東京ぐらいか?


「じゃあこの辺までか」


「そうね。これ以上東に行くのはやめておきましょう」


 だよな。

 昼飯のあとは適当に北とか南に船で動き回った。結局この辺りの水は水虹が少なめってことしか分からなかったけど、この手の調べ物はそういうもんなんだろう。



 街に戻る頃には、空にオレンジは残ってるけど日は沈んでしまっていた。


「あの子の様子を見に行きましょうか」


「だな」


 昨日の今日だしノンアポでも大丈夫だろう。行くと父親が出迎えてくれた。


「おぉ、来てくれたか。お陰であの子も少し落ち着いてきたよ」


「あら。それは良かったわ」


「ありがとうな」


 部屋に行くと母親が看病しているところだった。子供の顔色は昨日よりはずっといい。


「問題なさそうね。やっぱり、ここの水で育つと治りが遅いみたい」


「そうなんですね・・・でも、おかげさまで助かりました」


「とにかく、あんまり無理はしないことね。水はもう少し作っておくわ」


 良くなってるのも分かったし安心だな。エルダがまた水虹密度が高めの水を作って、早々に帰ることにした。


「それじゃあ、明日から中央山脈を目指しましょうか」


「だな」


 3日しかいなかったけどこの街ともお別れだ。山脈から流れて来てる川が水源だから関係しない訳でもないし、行ってみよう。



 次の日は、ほぼ移動だけで終わった。1000キロあるからしょうがないけど。でも突っ走った甲斐あって山の入口までは来れた。広めの湖もあるしここで一泊だな。


「ホントに山ん中に入ってくんだな」


「谷間を縫う形になるけれどね」


 大陸中央の山脈というだけあって、これまでの平原の丘はもちろん、クロスルート周辺と比べてもゴツい。緑もあるけど岩の部分も多くて“山”って感じだ。川は続いてるから船のまま行けそうだけど、ここから傾斜もグイッときつくなる。川にも岩あるしカーブも多そうだから、慎重に行かないとな。


「それじゃあちょっと体を動かして来るわ」


 そう行ってエルダは湖に飛び込んだ。相変わらず元気だな・・・今日そんな暑くないってか水冷たいぞ。俺はちょっと寝るかー。



 夜。いつものように焚き火で晩飯。


「なあ、この辺もやっぱり水虹密度が低いのか?」


「一緒だったわ。水源からそうみたいね。明日は支流を見て回ったり、上にも湖があるからそっちにも行ってみましょう」


 エルダが片手に地図、片手に串焼き肉を持って言った。


「どの川がモンス・コリスに繋がってるかも分かるんだよな?」


「ええ。重要な情報だから地図に載っているわ」


 エルダが立ち上がる。2人で火を挟んで向かい合ってたけど、こっちに来るみたいだ。隣に来たエルダが地図を床に置いた。


「南北は何千キロメートルとある山脈だから、全ての川が繋がっている訳ではないわ。湧水は数えきれないほどあって、分岐や合流もあるけれど、それらで繋がっているものは1つの水系として扱うの」


「スイケイ?」


「そう。分岐とか合流で繋がってる川と、途中の湖とかをまとめて1つの水系と呼んでるの。海を経由したり空を飛んだりせずに船で行ける範囲は、同じ水系ということになるわね」


「“空を飛んだり”って・・・」


「ただの例えよ。普通は別の水系に移動するなら陸地で船を引くわ」


「エルダは普通なんだろうな」


 水で橋架けて移動とかできるからな、こいつ。


「それはどういう意味なのかしら・・・船を引くなんて2人で何十キロメートルとやることではないから、水に浮かばせて運ぶけれど」


 それは普通とは言わない・・・。


「あ、てかこの次どこ行くんだ?」


「実はモンス・コリスと水系を共有している街が山脈中にあるのよ。峠の反対側だけれど。水を調べつつ、そこを目指すわよ」


「もう1個街があったのか。じゃあそこも水虹密度が低いのか?」


「同じ水系である以上はその可能性が高いわね。その街はヨーラーと言って、そことモンス・コリスの水源になっている水系だから、コリス・ヨーラー水系と呼ばれているわ」


「へぇ~~っ」


 じゃあそこまでは船に乗ったまま行けるんだな。さて、いつものようにやることがないから寝るか。エルダはホント飽きないよなぁ勉強。


 --------------------------------


 次の日も朝から出発。傾斜がきつくなった川をのぼっていると、支流との合流地点が見えてきた。


「あそこで左に曲がって頂戴。池があるみたいだからそこで一旦止まりましょう」


 確かにこんな傾斜じゃ船は止められない。走ってる最中でもエルダは水を調べてるみたいだけど、どっかで降りて落ち着きたいだろう。左右への分かれ道を左に進む。こっちの方が細いから支流だ。


 池にはすぐに着いた。出発してからは1時間ぐらいかな。


「もしかしてこれ全部湧き水なのか?」


「まさか。これは窪んだ場所に雨水が溜まったものよ。言ってなかったかしら?」


 聞いたことあるな・・・でも全部覚えてろって方が無理だろ。エルダじゃないんだから。


「悪いけど1回言われただけじゃ覚えきれない種族なんだよ」


 ごめん、地球のみんな。代表が俺なんだよ。


「それなら私たちにもいるわ。種族のせいじゃないみたいね」


 良かった、こっちの種族がバカだとは思われずに済んだ。俺がバカだってことはバレたけど。


「けれど雨水の元はこの一帯の川や地表から気化した水分だから、水虹密度の低い水を循環させ合ってるのね」


 エルダは池の水を手ですくいながら言った。そっか、この辺の水が雨雲になるから結局降ってくるやつも水虹密度が低いのか。ん・・・?


「待ってくれ、じゃあ最初の水ってどこから来たんだ?」


 ニワトリが先かタマゴが先かって話になってきた。


「んーー」


 エルダが指をアゴに当てながら上を見て、考え込む。“どう説明しようかしら”って感じの顔だ。


「惑星の誕生から話すことになるけれど」


「え゛、そこからか」


 そこまで遡らんでも、って思ったけど、遡らないと説明できないんだろうな、多分。


「質量のあるものが互いに引き寄せ合う、というのは話したかしら」


「エルダからは初耳かもだけど、聞いたことはある」


 万有引力ってやつだっけ。てか俺の記憶力が悪いせいで、エルダ自身も話したことあるか分からなくなってるみたいだ。でも“まあいいわ”と言わんばかりにエルダは話を続けた。


「宇宙を漂ってる岩石が集まって惑星は出来上がっていくのだけれど、それに酸素や水素が含まれていて、やがては化学的安定を求めて岩石から分離して、あとは水素と酸素がくっつけば水になるわ」


「ふーーん。岩にも水素とか酸素があるんだな」


「ガスとしてではなく、金属とかの固体元素と化合する形でね」


「あーそっか」


 酸化ナントカとかいうやつか。


「でも分離するんだな」


「岩石同志が衝突を繰り返すことで温度が上がるから、その熱を受けて分離することがあるのよ。そっちの方が安定するから」


「安定するって何なんだよ」


 なんか、“なるもんはなる”みたいな言い方になってるけど。


「なるものはなるのよ」


 マジで言いやがった。


「物質というのは存在するだけでエネルギーを持っているのだけれど、これをできる限り減らす方向に動くのよ。そういった変化は、熱を得たり、他者と衝突したりすることで起こる。あとは自然の成り行き任せね。

 石を投げた時に、最終的にどこで止まるかなんて終わってみなければ分からないでしょう? 地面には凹凸があるのだから」


「んん? 投げた石が最終的にどっかで落ち着くのと同じように、宇宙で岩が集まって惑星が出来上がってく時に酸素とか水素が分離して水が出来ることもあるってことか?」


 ワケわかんねーー。


「まあ、そんなところね」


 いやワケわかんねーーー! でもこれ以上の深入りはやめよう。どうせサッパリだ。とにかく、ちきゅ・・・じゃなくてこの惑星が出来上がって、水も生まれた。それ以上も以下もない。そういうことにしよう。


「じゃあなんでこの辺の水虹密度は低くなったんだろうな」


「なんででしょうね・・・正直、始めからこうだったとは考えにくいわ。気象の変化に合わせて変わってきたのか、人の文明が変えてしまったのか・・・」


 エルダが難しい顔をした。こればかりは本当に分からないみたいだ。だから旅をしてるんだろうけど。


「少し休んだら、また移動しましょうか。湧き水があるところがいいわね」



 ちょっとの休憩のあと、また移動を始めた。支流を下りてメインの川に合流して、またのぼり、「こっちに行ってみましょう、池がないから湧き水ね」の声で支流に入って、船で進めなくなるほど細い所まで行った。


「ここからは歩きましょう」


「だな」


 ちょうど、そろそろ体を動かしたかった頃だ。少しずつ細くなっていく川に沿って、緑に囲まれた岩場を進む。


「あ、シカだ」


 シカが2匹、水を飲んでいる。


「食べたいの?」


「食わねーよ。食料残ってるだろ」


「そうね。ここで狩ってもヨーラーに着く頃には腐敗しているでしょうし」


 何で食うか売るかっていう前提なんだよ・・・そういう文化なんだろうけどさ。


 途中で枝分かれ(というか合流)があったりもしたけど、エルダの「こっちにしましょう」で進んでいって、15分ぐらい歩いたところで終点に着いた。


「湧き水って本当にあるんだな」


 岩の隙間から、普通に水道で出すぐらいの勢いで水が出ていた。


「そりゃあね。水分は雲だけじゃなくて地下にもあるから」


「あー・・・さっき石にも混ざってるって言ったやつか?」


「そうよ。惑星を形成する岩石に含まれる酸素と水素が元なのは話した通りで、それが地表まで上がって来て、揮発して、雲になり、雨となって地表に戻り、吸収される。これが常に休まず起こることで水は循環しているわ。私たちがこうしている間にもね」


 エルダが湧き水に顔を向けた。そこからはジョロジョロと水が流れ出ている。見てる分には景色はずっと変わらないけど、3分前に出て来た水はもう遠くに行ってて、いま出てる水はさっきまでは地面の中にあったやつなんだよな。


「なぁ、岩に水分があるのは分かったけど、何でそれが上がって来るんだ?」


 岩の隙間を上がって来るんなら、その隙間で落ちないのか?


「圧力の影響よ」


「圧力?」


「そう。地質や地形によっては地下水が圧迫されて、押し上げられて来るのよ。容器を潰すと水位が上がるのと同じよ」


「容器? あぁ」


 コップ潰したら水が溢れるのと同じってことか。あれも、水が圧力を受けて上に上がってるんだよな。


「あれ? でも、地面って水を吸収するんじゃないのか?」


「するけれど、水が湧き出る場所と吸収する場所は別よ」


「あぁ~~」


 そりゃそうだ。湧き水が出てるとこに水を落としたって吸収するはずがない。


「見ての通り、広大な大地に対して水が湧き出る場所なんてほんのひと握りよ。それほどまでに、条件が整わないと湧き出て来ないのよ」


 なるほどな。とにかく、地面に圧迫されて押し出されたのが湧き水ってことか。


「キキーーーーッ!」


「ん、なんだ?」


 なんか、動物の奇声みたいなのが聞こえた。


「サルね」


「サル?」


「この辺り一帯は、ヨーラーモンキーというサルが出ると資料で見たことがあるわ」


「まぁサルぐらい出るか」


「きっと、湧き水があるここを縄張りにしてるのね。縄張り意識が強い動物だから威嚇されてるわよ」


 マジか、威嚇されてんのか俺ら。


「どうすんだ?」


「ここはもう離れましょうか。彼らを追い払うことに意味はな…」


「キキーーーーッ!」


 ガササササッ。


「おわっ!」

「・・・・・・」


 音のした方から、サルが3匹ぐらい出て来た。目の両端が吊り上がってて、もう見るからに怒ってる。


「後ろにもいるわよ」


「はぁ!?」


 マジだった。気付けば俺たちは10匹を超えるサルに囲まれていた。


「おいおいオイオイ、どうすんだよこれ」


「じっとしてなさい。腰を引いちゃダメよ」


「んなこと言われてもよ・・・」


 この数だぞ?


「サルは、こっちが弱気になってるのを見ると襲って来るわ。こっちも威嚇をして、引き下がってもらいましょう」


 そう言ってエルダは片手を上に上げて、そこに川の水を集めていった。


「ギギ・・・」


 エルダの頭上の水が大きくなるにつれて、サルたちは緊張したように固まって、ジリ、ジリと、警戒するように後ずさった。そして、


 ドォォォォォォン!!


 豪快な音と同時に、エルダは集めた水を大砲のように真上に撃った。それが、大雨のようにこの場一帯に落ちてくる。


「ギギ・・・キキッ」


 今のが効いたのか、サルたちは1匹、また1匹と振り返ってこの場を離れて行った。


「ひとまず退散させられたわね。早いうちにここを離れましょう」


「もういいのか?」


「ここは彼らの縄張りのようだから、長居していると威嚇も通じなくなるから離れた方がいいわね」


 エルダはそう言って歩き出した。


「意外とあっさりなんだな」


 エルダなら“邪魔だどけー”とか言って蹴散らしそうなのに。


「水をせき止めらてる訳でもないからね。彼らだって人間の所まで水を奪いには来ないのだから、こちらも事を荒立てずに立ち去りましょう」


「へぇ・・・」


 意外と平和主義者だった。普段の狩りは人間が生きるのに必要だからってことか。

 まだサルに見張られてるような気配を感じながら、湧き水の流れる小さな川に沿って船の方に戻った。


「ふい~っ、どうなることかと思ったぜ~~っ」


「あんな熱烈な歓迎を受けるとは思わなかったわね」


「全然歓迎されてなかっただろ・・・」


「彼らにも自分たちの生活があるからね。こっちは危害を加える気はないのだけれど、対話ができない以上はどうしようもないわ」


 相手はサルだもんな、しょうがない。


「まあ、人間でも話の通じない人とかいるけどな」


 もちろん、言葉が通じるはずの日本人同士でも。


「そうなの? 私は見たことがないけれど」


「え」


 こっちの世界では、か。


「凄いよな。盗みをするような奴もいなくて話が通じない奴もいないなんて。土地とか資源を巡って争ったりなんてこともないのか?」


 だとしたらすげー平和な世界だぞここ。


「稀に、狂暴な動物に生活基盤をおびやかされて争いになることはあるわよ」


「いや、そうじゃなくて、人間同士で」


「人間同士で争う? 人が死ぬだけで物が増えないじゃないの。本来新しい資源を探すことに割くべき労力で、既に同族が見つけている資源を奪って同族も減らすだなんて生物として間違っているわ。そんな考えに至るあなたたちが理解できない」


「うわ・・・」


 ちょっと引いてしまった。本当に、俺たちの世界とは種族が違うみたいだ。少なくとも脳みその構造は絶対に違う。


「次はここに行ってもらっていいかしら」


 つまんない話なんて終わりにしましょうと言わんばかりに、エルダが地図を指差した。普通の池だ。


「はいよ」


 そんな感じで、エルダが指定した場所に立ち寄りつつヨーラーの方向を目指した。さっきの場所以外でも「キキッ」「キキキッ」といった感じでサルはちょくちょく出て来た。さすがにあんな数に囲まれることはもう無かったけど。



 そんなこんなで夕方になった。


「今日はこの辺りで一泊しましょう」


 どこぞの湖で、いつものように船中泊。


「明日、ヨーラーを目指すわよ」


「お、もういいのか?」


「ええ。この辺り一帯の水はどこも同じようだから。街の様子を見に行きましょう」


「そっか。あの子みたいに低水虹症になる人がいるかも知れないのか」


「そうそうはないはずだけれど、ね」


 もしものことは起こるかも、っていうのを匂わせてエルダは言った。


「明日中に着くのか?」


「日が傾く前には着くはずよ。この湖が峠の位置だし、寄り道もしないから」


「お、そうなんだな」


 次の街かぁ。楽しみだな。

次回:森の水辺の街ヨーラー

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