憂いの種 【月夜譚No.60】
あの探偵は当てにならない。
皆が口を揃えてそう言うので、依頼をした身としては不安で仕方がない。噂によれば、どうやら持ち込まれた依頼を正しく解決しないというのだ。
とにかく急を要する状態だったので近場の探偵に依頼をしたのだが、この選択は間違っていたらしい。しかし今更依頼を取り下げる勇気はないし、今から他の探偵を探すのも骨が折れる。
深く長い溜息を吐き出して、彼は膝を抱えたまま自室の壁に後頭部を凭せかけた。四畳半の狭い部屋はとても静かで、夕陽に照らされた空気に細かな埃が舞う。
こうも静けさに満ちていると、不安が余計に膨張しそうだ。せめて何か音を求めてテレビのリモコンに手を伸ばした時、玄関を叩く音が響いた。いきなりのことに肩がびくりと跳ね上がる。
何故インターホンを鳴らさないのか不思議に思いながらドアを開けて、思わず顔が強張った。
そこに立っていたのは、今まさに不安の対象だった人物だった。壮年の男性はそんなことは露知らず、恭しく頭を下げた。