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リア奪還作戦 前編

 以前と違って大通りには活気がない。

 客引きをしている人が一人もいないのだ。

 まっすぐ歩いているだけでそこらの店の中からピリピリとした視線を感じる。


「はぁ……絶対失敗して終わるよなぁ……つか俺も死ぬだろこれ」


 後ろ、ぼやきながら離れて歩いているのはデフという、俺に舌打ちをしていた男だ。

 リヒトさんのいう事を一応聞くが俺に対して一切信用していないのだろう。

 視線を向ければ凄い呆れた目で俺を見てくる。


「……そのまままっすぐ行けば内門だ。くそ、お前が上手く行ったら合図しなきゃいけないから。それは失敗出来ないから俺が無理やりお前の傍に置かれたけど、くそ……」


 ため息をついている。

 俺は反応せず内門まで歩いて行った。


 内門前。

 沢山の兵士がいた。

 近づいた俺とデフを兵士が止めてくる。


「こらこら、ここから先は通行禁止だ。見たところ旅人か?」

「はい、先日ここに着きました」


 嘘は言っていない。


「そうか、じゃあここから離れろ」

「はぁ……」


 近づけるのはここまでか。

 まあ、魔法は届くから問題ないだろう。

 俺は後ろを見る。

 デフが一度頷いた。


「じゃあ、始めますね」


 俺の言葉に兵士は眉を顰める。

 その直後。


「なっ!」


 兵士達は声を上げた。


「おいおい……」


 声は後ろからも聞こえた。

 引きつった声だ。

 別に大したことはしていない。

 ただ、【ファイアボール】を無詠唱で作っただけだ。

 ちょっと大きさが通常のバレーボール大より五倍大きいというだけで。


「ま、待て。待て待て待て。それをど、どどどうするつもりだ?」

「どうするってそりゃぶつけるつもりですよ?」


 兵士達が慌てて下がろうとして後ろに倒れる。


「それ!」


 声と共にその火の大玉を門に向かって投げた。


「避けろ! 門から避けろおおおおお!」


 兵士の野太い声が響く。

 ゆっくり飛んでいった火の大玉は木製の分厚い門に綺麗な丸の形の空間を開けていた。


「ま、魔法使い!?」、「あんな火の玉見た事ねえよ!」、「化け物だ! 仲間を呼んで来い! ディ、ディスカープ様を!」


 内門前が一様に騒がしくなる。

 兵士達は慌てて中に逃げる者、一目散に逃げる者、震えながら俺の前で構える者、腰が抜けて立ち上がれない者と多種多様な反応を見せる。


「お、お前今の上級魔法か?」


 後ろからデフが話しかけてくる。


「何言ってるんですか、ただの初級魔法ですよ。ファイアボールです。見た事あるでしょう?」

「ファ、ファイアボール? ねえよ! あんな大きなファイアボールなんて見た事ねえよ!」


 デフは焦って言うがミスミさんは普通に出してたから……いや、ガレリアじゃ出した奴見た事無いな。

 うーん、と考えている間に兵士達がこっちに近づいてきた。

 見れば左右の建物から兵士が出てきたではないか。


「よし、囲め。魔法使いと言っても所詮は遠距離でしか戦えない。しかも一回に一つしか魔法は使えないはずだ。一斉に行け!」

「や、やばい!」


 デフが焦った声を出すが別にヤバくはない。

 まだあの時の盗賊と同じくらいの兵士数しかいないのだから。


「くそ、ここは俺が……」


 デフは何か言っているが俺は彼のように取り乱したりせず、魔力を身体に纏わせる。

 淡く白く光るそれは魔力の鎧だ。


「おおおお!」


 俺の前に行こうとしたデフを後ろに弾き、声と共に走ってくる兵士達を俺が次々と倒していった。


☆☆☆


 外れくじを引いた。

 リヒト様から命令された時点でそう思っていた。

 このガキが内門前でドンパチ始めて暫くしたらリア様救出の別動隊に合図を出す。

 それはこのガキを見ていなければならないわけで、その時点で俺は死んだと思っていた。

 

 こいつは魔法使いという話だが敵は二千いる。

 魔法使いが接近戦に弱いのは常識だ。奇襲でも成功させない限りそれは絶対だ。


 どれだけ経験を積んだベテランでもそうなのだ。

 このガキがそれに当てはまらないはずがない。


 囲まれたら終わり、いくつか魔法を打ってくれたらそれでこいつは死んでもいい。俺は必死で逃げるけどな。

 捨て石位に俺は思っていた。


 だが、予想に反してこのガキは凄い魔法使いかもしれない。

 使えるのは初級や中級位だと思っていた。そしたら出てきたのは無詠唱で上級魔法だ。あんな大きな火の玉見た事無い。


 俺は慌てて聞いた。上級魔法が使えるんだな。

 褒めたつもりだったのだがガキは変な顔をする。

 ファイアボール、初級魔法だという。


 嘘だろと思ってしまう。

 分厚い門を綺麗に壊せるファイアボール? 今まで見た事がない。

 唖然としていて兵士の動きに気づけなかった。

 いつの間にか左右の建物から兵士が出てきたのだ。


 ヤバいと思った。

 二千という兵士数だが一応まだ兵士は半分も集まっていない。せいぜい五百やそこらだ。

 それも内門付近に大半がいる。


 だからここでならまだ俺一人は逃げる事が出来る。

 でもこのガキは逃げられないんじゃないか?


 あんな強烈な火の玉を使える魔法使いだ。他の魔法もきっと強い。ならここで死なせるわけにはいかないだろ。くそ。


 庇うために咄嗟に前に出ようとしたのだが、思ったより強い力で後ろに弾かれる。

 あ? と思ったのもつかの間だ。


「危ないですよ」


 淡々とした口調でハヤトとか言うガキはみるみる兵士を殴り飛ばしていく。

 打撃を弾き、剣まで弾き、近づいて来る兵士を殴り、蹴り。掴んで振り回し投げる。

 大人と子供どころじゃない。人間と虫だこりゃ。


 倒された兵士は軽傷でも決してもう一度立ち上がらない。

 ゆっくり歩を進めていくハヤトをじっと見ている。

 その瞳に映る感情は恐怖だ。


 絶対強者を見る目だ。

 ていうかこいつ接近戦も出来るのかよ……。


 内門の方を見れば恐慌状態で次々と兵士が逃げている。

 気持ちは分かる。


 俺自身味方なのに震えてしまう位だ。

 こいつはとんでもない化け物が援軍に来たもんだぜ。

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