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死霊の森

 曰く付きの場所。

 心霊スポット。

 それはこの世界にも存在する、正直怖いのは苦手だから行きたくないのだが。

 それが新しく領土に加わった場所って言うんだから、領主として見に行かないわけにはいかない。


 というわけで俺は今ナルドとフェイル、そして新しく仲間になったヤクモと共にノーザンラントの西に広がる森に来ていた。

 迷いの森やら死霊の森とも呼ばれているそこは、数百年前の戦争の名残を残しており、ルグナ王国直轄領地だった割に全く手が付けられていない。

 若干押し付けられた感があるが……本当に褒美なんだよね?


 鬱蒼とした森、木々の間から聞こえてくる野鳥の声、低い地鳴りのようなものも聞こえてくるんだけど何この音。


「噂だと調査団が全滅したとか、一度入ったら帰ってこれないとか聞いたんだが、雰囲気だけなら相当だな」


 ナルドが興味深そうにきょろきょろ周囲を見ている。

 凄いな、俺は怖くて前しか見れないが。


「ハヤト様、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが」

「俺、こういう場所はあまり得意じゃないんですよね、フェイルは大丈夫なんですか?」

「はい、竜人は恐れを知りませんので」


 それは頼もしい。


「心配召されるなこの私がいますので」


 一番先頭を歩くヤクモも余裕の表情で言ってくる。

 こいつらすげえ頼りになるな。俺の人選は間違ってなかったな。

 そう自画自賛しているとフェイルが至近距離でヤクモを睨みつける。


「おい新入り、俺の方が先輩だからな? いい気になるな」

「それを言ったら私の方が年齢的にも実力的にも上ですから良い気にならないでくださいね。下等種族の竜人風情が」

「何だと?」


 あれ、何か始まったけど。仲良くしてくれると思ったのに……ていうかフェイルって結構俺の第一の配下っていうのにこだわるよね。

 ぶっちゃけて言うと第一の配下は多分ケルンになるんだけど


「お、おい……喧嘩は止め……いや、何でもないです」


 止めてくれるかと思ったナルドは二人に睨まれて静かになってしまった。

 連れてくる人選間違えたかな……。

 途中でかい魔獣に襲われながらも、何事もなくそれを倒しながら進んでいくと。


「何だあれ」


 白い物が見えた。

 近づいて行くとそこにあるのは白骨死体だ。

 肉などはなく、すっかり乾燥している所を見るとここ数日の物じゃないな。


「ん、向こうにもあるぞ」


 ナルドが指さすとその周辺にもいくつも白骨死体がある。

 それにしても衣類も残ってないって変だな。

 もっと近づいてみようとしたのだが、


「お待ちを」


 ヤクモに止められた。


「どうしたんですか?」

「おかしいです」

「おかしい?」


 何がだろう?


「この白骨死体、妙にまとまっています。普通獣が食べたならどこかしら欠損部分があるはず。それなのに全部分の骨があるというのは不思議です」

「確かに」


 言われてみると獣なら巣に持ち帰る事もあるだろう。それが無いとすれば……。

 ふと上を見るといつの間にか厚い雲に覆われていた、どんよりとした黒い雲は、周囲から光を失わせていく。


 暗くなった森の中に不気味さが出て来ると、カタカタと音が鳴りだした。

 それも一か所ではなく数か所から。それは全て骨のあった所からだ。


「お、おい見ろ!」


 ナルドが叫ぶ。

 指さす先には人間の形に出来上がった骨達が剣を携えて立っていた。

 現れるのはいくつもの骨の騎士。

 頭蓋骨の目の部分がボヤっと光を放っている。


「スケルトンですね、まさかここに現れるとは」


 ヤクモの赤い瞳が爛々と輝く。


「私がやってしまっても?」

「そうですね、お願いします。フェイルはナルドを守ってあげてください」

「ははっ」

「べ、別に守ってもらう程じゃないけど……お言葉に甘えよう」

「では、楽しませてもらおうか」

 

 結論から言えば、俺らは身構えるだけで特に何かする必要は無かった。

 ヤクモは自信満々で前に出ただけあって、軽く触れるだけで彼らはぐしゃぐしゃになりながら吹っ飛んで行った。

 完全に子供と大人の喧嘩というか人間と蟻の喧嘩で、ただヤクモの強さを知らしめただけだった。

 というかこいつ滅茶苦茶強くないか?


「主様、終わりました」

「はい、ありがとうございます」


 俺らがゆっくりと構えを解くと、


「ん、何だ?」


 崩れた骨から白く小さい幽霊っぽい何かが出て来る。

 イメージ的には小さいテレサみたいな奴らが顔を覆いながら森の奥へと逃げていくのだ。


「…………」

「…………」


 俺らはお互いの顔を見合わせてからそいつらを追いかけていく。




 暫く追いかけていくと現れたのは広い空間だ。

 小川が流れ、木々の隙間からは木漏れ日が降り注ぐ。

 美しい空間、そこに誰から切り株を椅子代わりにして座っていて、そこへ白いテレサもどき達が集まっていく。


「誰?」


 そしてそれは顔を上げた。

 頭に骨のアクセサリーが付いている、赤い髪、白の布地の服を着た褐色肌の可愛い女の子がこっちを見ていた。

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