その後
午前が過ぎる頃、広い室内に光が入った。
窓から入る風がさらさらと黒髪を揺らし、それを横に流してあげる。
閉じた目は一向に開かない。
リアは慈しみにも似た目で、静かに眠る自分の護衛を見た。
邪木樹が凍ってから二か月が経過した。
毎日氷魔法を使ってただでさえ活動が弱まっていた巨大樹はようやく活動を停止した。
取り込まれた者は返ってこない。
イズールド家は当主がいなくなったこと、今回ガレリアと通じ反乱を起こした事から主格と認定され、公爵の位をはく奪、平民へと落とされた。
同じくそれに内応して積極的に行動していた貴族のうち、カートス家は当主だったシュルツ・H・ カートスが謹慎蟄居処分となりそのまま強制的に引退、当主はリックン・D・カートスとなり、更に子爵に落とされた。
本当ならシュルツは死罪、カートス家も平民処分という所だったが、リックンが父を許して欲しいと懇願したため忠誠を示した事もあり、特別許された形だ。
他の上級大臣もそれぞれ注意や階級を落とされる中。
キース家は現状維持。
そしてリア・ローファス家は侯爵に、そしてハヤト士爵は正式な貴族である男爵へと上がった。
ちなみにハヤトは倒れて以来眠ったままで、王宮内の一室にいる。
授与式はリアだけが壇上に上がったのだが。
はぁ……とリアはため息をつく。
「ハヤトさんは一体いつになったら目を覚ますのでしょう」
廊下が賑やかになり、扉が開いた。
現れたのはナルド、ライベル、フェイル、ケルンである。
「ハヤトは……相変わらず変わってないな」
「ふむ、邪木樹を見てきたが改めてハヤト様は凄いお方だ、あれを一度の魔法で活動停止寸前に追い込むとは……」
「はい、流石ですよ。あれのせいで新たに街道を作らなきゃいけなくなったし、水田も大分駄目になりましたが王都を侵食する前で良かったですよ、経済が酷い事になるところでした」
「……ふん、俺ならもっと上手くやっていた」
「はい出た、そもそもライベルはいなかったじゃないか。ハヤトだからこそ迅速に出来たんだぞ」
「ああ?」
「……ってフェイルが言ってた」
「俺の影に隠れるなら言うな、それと俺は何も言ってない」
「うーん、早く領地に戻って新しく頂いた土地も見たいところですが……いかんせんハヤト様の目が覚めないとあれば……」
四人はうーんと悩んでいる。
ちなみにライベルとフェイルは、ハヤトさんが邪木樹を倒してから一週間後に王都にやってきた。
そして眠っているハヤトさんの経過を見ている医者に食って掛かった。
フェイルはともかく、最も凄い剣幕だったのはライベルだ。
すまし顔だったり不満げな顔をしているがなんだかんだハヤトさんの事を気に入っているのだろう。
数日は落ち着かず室内をうろうろしていて三人に苦笑されていた。
普段は不遜で傍若無人な振る舞いもするがそういう正直な所が憎めない。
「おい、ナルド。今日は肉が食いたい」
「肉料理か、分かったシェフに伝えておく。それにしても君、肉しか食わないな、もっとバランスよく食べろよ。だからいつもカリカリしてるんじゃないか?」
「なんか関係あるのか?」
「睨むなよ。肉あげないぞ」
「…………」
「食べ物の時だけライベルさんはナルドさんに勝てないんですね」
「悪魔と言うより獣だな」
「貴様だって肉しか食わねえだろ」
「俺は竜人だから肉食なのは当然」
「そういえば肉の味を更に上げる質の良い香草が手に入ったのですが」
「「「何だと」」」
現在、三人はキース家に居候をしている。
なんだかんだ四人の仲は悪くないようだ。
次に、レブナントがいなくなってから残される形となったレナだが、罪の償い代わりに邪木樹を凍らせるための活動に駆り出されていた。
彼女はガレリアにいただけあって使える魔法の威力が優秀で彼女がいれば魔法使いの人数を減らせるため、重宝されているらしい。
彼女も一日の仕事が終わるとハヤトさんのお見舞いに来るのですが、あの人からは嫌な空気を感じます。
ハヤトさんを心配しているのは分かるのですがなんとなく私の敵になりそうな気がします。
気のせいだと良いのですが……。
ともかく、ハヤトさんはいつになったら目を覚ますのでしょう?
それから数日が経過した頃、レナが一人の少女を連れてお見舞いに来た。
「その方は?」
見た事のない服を着た長い黒髪に黄色い目、そして恐ろしいほどに綺麗な顔をしている女の子だ。
「えっと……凍った邪木樹を興味深そうに見ていて、危ないからと声を掛けたらハヤトの師匠だというので。名前はミスミさん……というらしいです」
「師匠?」
確かに師匠がいるという話は聞いていましたがまさかこんな少女なんて……いえ、待ってください。見覚えがあります。
「あなた以前パレードの時に助けてくれた……」
ですが姿が変わっていないような……気のせいでしょうか?
少女は私をちらっと見た。
「リア・ローファスか。久しいな、不肖の弟子が世話になっている」
「い、いえ。こちらこそお世話になっております」
何でしょう、私より年下に見えるのに老獪な雰囲気で思わず畏まってしまいそうになります。
「で、これがずっと眠っていると。は、身の程もわきまえずに魔力を一気に使ったからだ。普段通りちまちま使っていれば良かったものを、大量に使うから身体が驚いて休眠状態になっているのだろう。貧弱な」
「貴様、師匠とはいえハヤト様に無礼だろう!」
フェイルが噛みつくとミスミは面倒くさそうにフェイルを見た。
「黙ってろ竜人、偉そうに言うが貴様もこれをどうにも出来なかったんだろう? 鍋にして喰らうぞ」
「な、この……」
フェイルさんが怒っていますが言い返せずに言葉を詰まらせています。
何でしょう、この人相当口が悪いです。
「で、餓鬼。治せるのか?」
「わらわを誰だと思っている、出来ぬことの方が少ない。さて……」
ミスミはハヤトさんの身体を触っていく。
「ふん、やはり魔力の流れに問題はない。消費魔力も戻っておる……というか以前より増えているな、相変わらず馬鹿げた身体だ。ならばスリープ状態なだけか」
触診を終えたミスミは懐をまさぐり、いくつかの宝石を取り出す。
「なんですかそれは?」
「魔石だ。魔力は戻っているから目覚めるきっかけが必要なのだ。離れて見ておれ」
宝石をいくつか置き、何事かを呟く。
続けてミスミが拳を上に上げた直後、
宝石が光りだし、さらに部屋中が白い光に包まれた。
眩しさに思わず目を瞑ってしまい、次に目を覚ました時。
「ん……んん……」
声がする。
「……あれ、ミスミさん?」
「ふん、世話の焼ける」
ハヤトさんが二か月振りに目を覚ました。




