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邪木樹

「勝った……ハヤトが倒した!」


 ナルドが拳を握りしめ、リーゼ様が嬉しそうに笑う。

 リア様はと言えば。


「ハヤトさん……」


 安心したように笑った。

 剣が魔力の壁を突破するのだ、戦闘で避ける時にリア様の顔を見たが祈るように見ていたから心配していたのだろう。

 まあ、ちょっとやばかったのは確かだけど。

 それでも俺は勝ったのだ。

 後ろに下がっていたイズールドを見た。

 ベルント・フォン・イズールドは無言でこちらを見ている……が、明らかに焦っているのが分かる。

 何故なら、


「イズールド様、どうしましょう」

「当主!」

「…………」


 周りに話しかけられているのに無言を貫いているからだ。

 言う事が無いのだろう。

 だから俺が代わりに言ってやった。


「ベルント・フォン・イズールド! 切り札は倒した。お前の負けだ」

「ぐ……むぅ……。だがまだ私には多数の兵がいる」


 イズールドは片手で何かの合図をする。

 周囲から兵が出て来る。

 どうやら俺らは囲まれていたみたいだ。

 戦っているとはいえ、万が一逃がすわけにはいかないというのは分かる。

 ――だが、


「ひっ!」

「…………」


 兵士達の顔はどう見てもこれから戦うっていう顔じゃない。

 それもそうだ。過去、自分とこの騎士団長をあっさり倒したレブナントが更に俺に倒されてしまったのだ。

 まず自分達が戦った所で勝てるとは思わないだろう。

 そのくせ逃げないのはイズールド家の私兵であるという忠誠からだろうか。

 へっぴり腰なのは立派なような立派じゃないような……。

 ともかく、魔法で蹴散らそうかと考えていると。


「……あり得ない」


 ゆらりと立ち上がった。

 レブナントが歯を食いしばりながら俺を睨みつけてくる。

 こいつあれ喰らってまだ立つのかと驚いたがその足取りはふらふらだ。

 やはり結構なダメージを喰らっているようだ。


「私が愚図に負ける……許されない。私はガレリアの将軍、レブナント・ノギア。ノギアの名に懸けてこのままでは終われない……」


 顔を下げたまま、レブナントは落ちていた剣を拾う、そして――


「ちょっ!」


 自分の身体を斬りつけた。

 だらだらと地面を朱色に変えながらレブナントは小さな声で詠唱を始める。


『深淵の淵、丑の刻限より暗きそれを求める者、我の肉体を用いて不死なる呪をその身に宿す、闇に誓え、永久の光を拒絶する。愚なる輩に恒久の眠りを、安らぎに似た眠りを彼の者どもに等しく与えん。惑え……惑え……。聖なる者よ。魔なる空間で永遠に惑え、我この身を代価に邪木樹による破滅の末世を享受する』


 その詠唱文は聞いたことが無いが暗い、どこまでも暗い。

 まるで呪詛のような詠唱文だ。

 直後、魔力が爆発的に高まっていくのを感じた。


「お、おい! やばいんじゃないかあれ」


 後ろでナルドが叫ぶ。

 止めようとするが、黒い魔力の渦が壁を作り、近づくことを許さない。

 レブナントは俺を充血した目で睨んでくる。


「我が身を賭して他国を消し炭にしてやろう」


【ブラント・ディス・リブレガルム】


 魔法名を放った瞬間、地面が揺れた。

 地震かと思うがこの世界にそれは無い。

 だが耳障りな鈍い音をたてながら地面が揺れ、隆起する。

 そして巨大な樹が現れた。

 その樹は上部の葉がある場所には葉はなく枯れている。

 幹は太く、所々穴が空き、更に腐っている。色はどす黒く地面に根を生やし屹立していた。


「変な樹」


 リーゼ様が不思議そうな声で呟く。

 それには俺も同感だ。

 何で巨大な樹が?

 だがなんとなく嫌な予感だけはする。

 様子を見ていると後ろからケルンが叫ぶ。


「ナルド様、急いで馬車を下げてください! あれから遠ざけてください!」

「わ、分かった」


 その声は切羽詰まっている。

 状況は分からずともナルドはそれに従い馬車を下げていく。

 続けて俺も後方へ退いた。

 後ろに陣取っていた兵士は俺らが下がると間合いを作りながら下がっていく。

 邪魔をしなかった……が、結果的にそれは正解だった。

 その樹はゆっくりと動き出し、枝が、根がうねうねとうねりながら。


「うわああああああ!」


 直後、近くにいたイズールドを兵士ごと絡めとる。


「止めろ、レブナント! 待て。た、助けてくれ!」 


 これまで一切表情を変えなかったベルント・フォン・イズールドが恐怖に染まった顔で助けを求めながら飲み込まれた。

 それと同時に兵士も。

 


 それまでの雰囲気は一変、目の前には阿鼻叫喚の図が現れた。

 イズールドが樹に取り込まれたとあり、兵士達は取り返そうと巨大樹に襲い掛かるが、槍も剣も全てを絡めとられ、更に言えば人が次々と樹の中に入れられていく。

 人や物を取り込めば取り込むほどその樹が根を伸ばす地面は黒く変色し。まるで呪いの沼のように土を腐らせていった。


「何だあれ……」


 俺らの周りを囲っていた兵士は一様に息を呑み、奇怪なそれから目を離さない。

 そんな中、ケルンが口を開いた。


「間違いない、あれは邪木樹じゃぼくじゅ、かつて私の生まれ育った国に現れた悪魔の樹です!」

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