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戦い方を教わる 前編

「う……はぁ……いいぞ、そのまま」

「こう……ですか?」


「もっとだ、もっと力を入れろ」

「少しだけ力……いれますね」


「痛い、もっと優しく……んん……」

「あっちの世界でだってやった事無いんですから我慢してください」


「コツを教える、引く時もゆっくりと、傷つけないようにだ」

「ゆっくりと……ですね」


「そう……だ、なかなか上手いじゃないか」

「ありがとうございます。ただ少し良いですか?」


「なにか?」

「なんで俺がミスミさんのマッサージをしなきゃいけないんですか!」

 

 戦い方を教えてやろうか?

 その願ってもない申し出に二つ返事で首を縦に振った俺だったのだが。


 あれから一か月。

 俺は一向に戦い方を教わっていない。

 教わったのは今のようなマッサージであり、あとは様々な雑用をやらされている。

 種類はいくつもあり、身体の部位ごとにやり方が違うのだ。


 もしかしてこの人は俺を学習するマッサージ機か都合の良い召使いか何かと勘違いしているのではないだろうか。


「毎日大変ですね」

「ファナさん……」


 そして今いるのはファナが営んでいる街道沿いにある宿屋だ。


「すいません、長期間泊めていただいて」

「いえいえ、いいんですよ。普段はあんまり旅人もいないですし、むしろ助かってます」


 朗らかに笑う。優しい女性である。

 

 夕食を食べた後、おもむろにミスミは立ち上がった。

 そして部屋を出ていこうとして、俺をちらりと見た。


「ハヤト」

「はいはい、どうせ食後少ししたらまたマッサージの指導が始まるんですね、わかります。それともなんですか? 果実酒を三十分後に部屋まで持って来いですか?」


「お前は良い召使いになるな」

「……ありがとうございます。で、どちらですか?」


 ミスミはくつくつと笑ってから、すっと目を細める。

 そして言った。


「食器を片付けたら外に出る準備を始めろ」

 

 森を奥へ奥へと進んでいく。

 鬱蒼と茂る木々は風に揺れさわさわと葉擦れの音を鳴らす。


「ここは?」


 森の奥、開けた空間が現れた。

 台地は平らで凹凸は少ない、周囲は木々に囲まれてはいるものの外周概算数百メートルの空間を木々が覆いつくし障害物がないのは空位のものだ。


「驚いたか?」

「ええまぁ……」

「ここはわらわがこの一か月で作った修練場だ。凄いだろう? 貴様にばれないように夜な夜な……そんな事はどうでも良い。ともかく」


 ミスミは空間の中央。

 草原の真ん中に立ち、くるりとこちらを向き返した。


「戦闘訓練と行こうか」

 

「魔法はどこまで習った?」

「初級、中級と……上級もいくつか習いましたけど俺は使えないです」

「そうか」


【ファイアボール】


 ミスミの掌の上にバレーボール大の火の玉が出現する。


「無詠唱魔法、これはガレリアにて学んだな?」

「はい、詠唱を飛ばし魔法名を唱えるだけで発動させることが出来る物ですよね」


「うむ、簡単な魔法であれば無詠唱で出現させることが出来る。お前はどこまで出来る?」

「中級魔法の少しなら」


「……そうか、まあまともな魔法使いでもそんなものだ。一語、根幹である魔法名を呟くことで最短の魔法発動が出来る。無詠唱魔法。

 魔法の基本は詠唱による魔法の始動、構築、制御、そして魔法名を唱える発動。この四つで出来ている。

 魔法名を唱えることで発動するという動作を自分の意識と魔法の制御の核の調和を促している。要は発動するタイミングを合わせているという事だな」


「……? すいません、俺が学校で習ったものと違うので、その言い方だとまるで魔法に意思が存在しているように聞こえたのですが勘違いですか?」


「いや、勘違いじゃないさ。魔法とは魔力が形を変えたもの、そしてその形をどう変えるか、どう動かすかのデバイスこそが魔法使い自身である。……と概念的にわらわは認識しているのだ」


 …………。


「すいません、よく分からないです。でもその話が無詠唱とどう関係が?」

「別に関係はない。今後魔法を覚えるにあたってのコツとして説いているだけだ」


 小さく息を漏らしてミスミは手にとどまっている火の玉をこちらに向けて飛ばしてきた。


「わっ!」


【アクアヴェール】


 咄嗟に魔法名を叫び、水の幕で火の玉を包み込み少し時間をかかりながらも消滅させた。


「いきなり何するんですか!」

「戯れだ」


 俺の非難の声にミスミはくつくつとおかしそうに笑った。

 戯れで燃やされたくないんですが……。


「ちなみに質問なんですけど」

「なんだ? わらわがせっかくお前に戦い方を教えてやろうと言っているんだ。泣き言は許さないぞ」

「いえ、そうじゃなくて」


 一拍。

 言おうかどうか悩んでしまうが、今言うのも後で言うのも同じと感じてしまう。


「実は俺、魔力がすぐ底を着くんです。だからきっと魔力が少ないんじゃないかと……」


 戦い方として魔法を教えてもらうのは良いが、しかしながら俺はその魔法を発動するための魔力が少ないのだ。


「魔力が少ない? ふふ、そんな奴にわらわが戦い方として魔法を教える筈が無いじゃないか」

「筈が無い?」


 筈がないって……事実少し魔法を使うだけで魔力が尽きてしまうんだけど。

 それなのに魔法での戦い方を教えてもらったところで、きっと小一時間もしない間に修練は終わってしまう。


 なんていう無駄。

 がっかりする顔が想像できてしまっていたたまれなくなってしまう。


 悲しくなる。どうせごめんなさいと謝ることになるならいっそもう……。

 帰ろうとしたところで、


「待て」


 ミスミの言葉が後ろから聞こえた。


「お前はどこへ行くつもりだ」

「いえ、だって宿に帰るのでは?」


「なぜだ?」

「だから!」


 何でこんなに言っても分からないんだ。


「俺は魔力が少ないんです。すぐにガス欠を起こして先月の戦闘の時みたいに倒れてしまうんです。俺には魔法を使っての戦いなんて到底無理なんですよ……。強くなりたくても才能が無い奴は強くなれないんです……」


 ガレリア帝国にいた頃のサクマの顔が浮かぶ。

 そうなんだ、強くなれる才能が無い奴は強くなれない。


 魔力適性が無い奴が凄い魔法使いになれるわけがないんだ。

 自虐めき、俯いた俺を、


『パン』

「え?」


 ミスミは一度手を叩いてから眉を顰めながら見つめていた。


「お前は一体何を言っているんだ?」

「いや、その……言葉の通りですけど」


 はぁ……と溜息をついてミスミは近づいて来る。

 そして小柄な体で思い切り背伸びして俺に抱き着いてきた。


「…………!?」


 いきなりの奇行に驚き、それでいて何もできずにただされるがままに抱き着かれているとそのままミスミは背中に回した手を放し、腹、脚とぺたぺたと触っている。

 そして少し離れて暫く考え込む。


「あの、ミスミさん?」

「……ふむ、やはり街で見た通り不自然な揺らぎが存在しているが魔力自体は相当量ある。触った感じだと血管と一緒に魔力が全身に流れている。だが所々に障壁が存在するようだな。……お前、ここに来る前に何かされたか?」


 何か?


「何かって誰にです?」

「神にだ」


 神に……?

 首を傾げているとミスミは面白くなさそうに呟く。


「端的に言えばお前は神に嫌がらせを受けたんだ。人の身体には魔力を生成し溜めておく核が存在している。

 そこから魔力を人体の魔力回廊と呼ばれている道に沿って外に飛ばすんだが、その核と外へと繋がる魔力回廊の間におかしな障壁がいくつも存在しているように見える。

 だから一定以上魔法と使うとその障壁と魔力が反発して停止する。結果的にお前のように動作不能になるんだ。放出と逆流の両極端が重なることでな。だから……」


 ミスミはニヤリと笑う。


「その邪魔な障壁を力づくで吹っ飛ばそう」

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