リヒトを探して
周囲の兵を魔法でなぎ倒し、振り返ると未だ尻もちをついたままのリア様が視界に入ってきた。
金色の髪、着こなした軽装、全てが所々泥が跳ね、目は充血していて、今にも泣きそうな顔をしていた。
でも生きている。それだけで嬉しくて、俺はリア様を抱きしめた。
普段凛々しく常に気高いリア様の身体は小さく震えていた。
「良かった……間に合って、本当に良かった」
命を掛けてでも守りたい相手が無事だった。
そのことに俺は安堵した。
――ふと強く抱きしめてしまってから、自分が汗だくだった事を思い出す。
「あ、す、すいません。俺汗だくでした。失礼を」
言いながら離れるとぼんやりと俺を見ていたリア様の目が生き返った。
大きく目を見開いてから瞬きする。
「ハヤト……さん? どうしてあなたがここへ?」
「ナルドが敵の動きから狙われてるのはリア様って気づいたんです。だから急いで来ました」
「どうやってここが?」
「探しましたよ、本当に。だから湿地に来たのはもっと速かったんですけどなかなか見つけられなくてってあれ? リヒトさんは?」
「リヒトは……」
リア様の話を聞いてマジかよ……と思ってしまう。
リヒトのおかげでリア様は俺の助けが間に合った。
けど彼自身はどうなっただろうか?
最悪な想像が頭をよぎる、せめて亡骸だけでも探さないわけにはいかないだろう。
個人的にもリア様を死なせなかったという恩人である。
「……分かりました。俺はこのまま湿地を突破します。リア様は先に高原の砦に戻ってください」
「いえ、共に行きます」
「ええ、危険すぎませんか?」
それはちょっと大丈夫だろうか。
「周囲を見てください。この人数でハヤトさん無しで突破できるとでも?」
言われてみれば、立っているのはリア様含め護衛兵数人だ。
いくら何でも高原の砦まで一部隊とも出くわさないとは思えない。
「ですがここは敵地ですよ?」
「あら、私には最強の護衛魔法使いがいるんですよ? そんな彼の傍以上に安全な場所がありますか?」
先ほどまでの雰囲気とは一転、リア様は楽しそうに笑いながらこちらを見てくる。
言われてみれば確かにそうだ。
「分かりました。でも俺の傍を離れないで下さいね」
「はい!」
声と共に俺の腕を掴む。
「……? あれ、何か普段より近くないですか?」
「気のせいです」
「気のせいって、いやその」
ちょっと横を見ればリア様の顔が間近にあって、まつげ長いなとか顔に泥が着いているのに何でこんなに可愛いんだとか、良い匂いするなとか……ともかく恥ずかしいのですが。
それを口にすることも出来ず、口元が揺れる。
「何をもじもじしているのですか、早く行きましょう」
「は、はい」
腕を掴まれたまま、俺は湿地の奥へと進みだした。
「うああああ!」
「逃げろ! 化け物だ!」
「隊長がやられた。退却!」
目の前にしつこくあらわれる敵兵をなぎ倒しながらどんどん湿地を南西へ向かっていると、一際大きな部隊が現れた。
「よう、随分と暴れてくれるじゃねえか」
黒い鎧を身に纏った大男だ。
顔に傷があり、長い大斧を持っている。
ふとナルドの言葉を思い出した。
「ベルーガ……将軍ですか?」
「へえ……俺の事を知ってるのか。まあ良い。俺はベルーガ、ウェルス公国の将、ベルーガ・ルプルスだ」
「俺はハヤトです」
「ハヤト……ここに来るまでは知らん名だったが、噂は聞いたぞ。この辺じゃ最強と言われてるらしいな」
「一応ですけど」
「ふん、最強に一応も糞もあるか。だが最強ってのは聞き捨てならないな。ウェルス公国最強の俺と貴様、同じ最強と言い出すのは気分が悪い。一騎打ちと行こうぜ」
「一騎打ちですか?」
「ああ、こちとら貴様のせいで兵士が怯えて逃げてんだ。迷惑極まりないぜ。もし俺が勝ったらその後ろの娘を寄越せ」
リア様の事だろう。
「その代わりこちらが負けたらこのおっさんを渡す」
ベルーガが首で合図をするとずるずると男が引きずられてきた。
見覚えのある初老の男である……ていうかリヒトだな。
「リヒト!」
「うぅ……お嬢……様……」
リア様が叫ぶとリヒトは微かに反応した。
「おお、おお、良い声で鳴くじゃねえか。生かして連れてきた甲斐があったぜ」
わざわざ生かして?
どうしてだろうと見ているとベルーガは嫌らしい笑みを浮かべた。
「お嬢様ってずっと言ってたからな、よっぽどこいつにとっては大事なんだろう? ならこいつの目の前でそのお嬢様を殺したらどんな反応するか楽しみでなぁ」
「くっ、下衆め」
リア様が悔しそうに言うが、俺としては正直リヒトは死んでると思ってたから生かしてくれたなら多少下衆でも余裕でありだ。
「ハヤト……お嬢様を連れて逃げろ……こいつの……武器……」
「武器?」
「さあ、受けるのか? まあ受けないなんて事は無いだろうが……」
「勿論受けますよ」
俺はリア様を後ろに下げる。
「勝てる勝負を避ける理由はありません」
「ほう……言うじゃねえか。じゃあ勝負と行こうか!」




